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中東に関する論文

ヨルダン国家存続の危機
―― トランプが作り出した悪夢

2025年5月号

カーティス・R・ライアン アパラチアン州立大学 教授

ヨルダンの政府も野党も市民も、トランプが提案したパレスチナ人のヨルダン再定住計画に激しく反発している。しかも、トランプ政権は、対外援助を90日間停止し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出をゼロにし、国際開発庁(USAID)を完全に廃止しようとしている。中東で、ヨルダンほどUSAIDやUNRWAに依存している国はない。基本的行政サービスを支えるこれらの援助・開発プロジェクトが打ち切られれば、ヨルダン社会は立ちゆかなくなる。トランプは、アメリカに依存する同盟国には何でも強制できると考えているのかもしれないが、中東の同盟国の強い訴えに配慮して、パレスチナとヨルダン、そして中東地域の大惨事を回避することに努めるべきだ。

反欧米ブロックへの強硬策を
―― 中露分断策の不毛

2025年1月号

オリアナ・スカイラー・マストロ スタンフォード大学国際問題研究所 センターフェロー

中国、ロシア、イラン、北朝鮮という枢軸メンバー間の相互関係の深さを推定したり、彼らを引き離そうと努力したりするのではなく、ワシントンは、これらを独裁国家のブロックとして扱い、同盟諸国にも同様の対応をとるように働きかけるべきだ。中国を枢軸のリーダーとして扱い、ある枢軸メンバーが好ましくない行動をすれば、(中国を含む)他の枢軸メンバーにもペナルティを課すようにすべきだ。ロシアの戦争努力を支援する中国企業だけに制裁を科すのではなく、アメリカは中国という国を対象に経済制裁を実施する必要がある。そして、ロシアが交渉テーブルに着くまで、制裁は継続すると北京に伝える。もはや代替策は存在しない。

中東の危険な均衡
―― イランとイスラエルのパワーバランス

2025年1月号

スザンヌ・マロニー ブルッキングス研究所 副会長

今後、イランとイスラエルの直接的な軍事衝突が常態化すれば、劇的な変化が生じ、そこにあるのは、ひどく不安定な均衡にすぎなくなる。直接攻撃の敷居が低くなれば、攻撃と報復の応酬が続き、中東でもっともパワフルな二国家が全面戦争、それも、アメリカも巻き込まれ、中東とグローバル経済に大きな悪影響を与えるかもしれない戦争に突入する危険は高くなる。一方で、弱体化したイランが核兵器を保有することで孤立の道を選び、その結果、核拡散潮流が生じる恐れもある。そのような未来を防ぐことが、ドナルド・トランプ次期米大統領の大きな課題になる。

イスラエルの幻想とジレンマ
―― ネタニヤフとトランプ

2025年1月号

シャロム・リプナー アトランティック・カウンシル シニアフェロー(非常勤)

イスラエル国防軍の幹部たちは、「ガザとレバノンにおける目標はすべて達成した」とネタニヤフに伝え、ガザから人質を帰還させ、レバノンにおける紛争を終わらせるために譲歩することを支持している。ネタニヤフもこの方向に進むことをある程度希望しているかにみえる。だが、連立政権内の極右強硬派(スモトリッチとベングビール)は、人質解放に反対し、ガザと西岸をイスラエルの長期的な支配下に置くことを望んでいる。一方、多くのイスラエル人は、アメリカの新政権は「イスラエルを無条件で支援する」と考えている。だが、トランプの支持を前提にすれば、イスラエルは世界で孤立することになるかもしれない。今後、ネタニヤフは「トランプを満足させると同時に、スモトリッチとベングビールをなだめる」という不可能な任務に直面するかもしれない。

ロシアの基地は温存されるか
―― シリアの体制崩壊とロシア

2025年1月号

トーマス・グラハム 米外交問題評議会 特別フェロー

アサド後のシリアにおける、ロシアの当面の関心は、タルトスの海軍基地、そしてフミイエム空軍基地を守ることだろう。これらの基地は、中東におけるロシアの影響力を行使する上で重要なだけでなく、東地中海への足場だし、リビアやサヘルでの軍事プレゼンスを含む、北アフリカでのロシアの作戦を支援する後方支援の拠点でもある。プーチンがシリアにおけるロシアの軍事基地を簡単に放棄することも、大きな戦略的後退を穏やかに受け入れることもあり得ない。そのような事態は、大国としてのロシアの評判を落とすだけでなく、プーチンの国内での政治的地位も失墜させることになる。

アサド後のシリア
―― 待ち受ける危険

2025年1月号

スティーブン・A・クック 米外交問題評議会シニアフェロー(中東担当)

シリアの権力者となって四半世紀近くが過ぎた段階で、バッシャール・アサドは権力ポストを追われ、アサド王朝は終わりを迎えた。アサド体制はわずか2週間で、説明のつかぬ形で一掃された。もちろん、ダマスカスにどのような後継政権が誕生するかには、数多くの疑問がある。イスラム主義政治勢力がシリアでパワーを蓄積していることをかねて警戒してきたアラブ首長国連邦、サウジアラビア、ヨルダン、エジプトが、ハヤト・タハリール・シャム(HTS)がダマスカスで統治体制を組織化するのを傍観するとは考えにくい。今後、HTSに対する反対運動が発生するかもしれない。シリアが暴力的な未来に向かう運命にあるわけではないが、新体制に対する反乱リスクを考えないのは軽率だろう。

新シリア紛争の行方
―― 関係諸国はどう動く

2025年1月号

スティーブン・A・クック 米外交問題評議会 シニアフェロー(中東・アフリカ研究担当)

アサド政権に対抗する武装勢力が、イスラエルがヒズボラに大きなダメージを与えた現状を大きな機会とみなしているのは明らかだろう。いまやシリア政府を支援するイランやヒズボラそしてロシアの力は限られている。一方、トルコは「アサド後のシリア」への影響力を確保することを再び重視するかもしれない。イスラエルも、シリアにおける「アサド問題はイランの問題でもある」ために、状況を前向きにみているかもしれない。そして大統領就任後のトランプが、シリアに展開する米軍部隊の撤退を選ぶ可能性もある。

同盟諸国とのトラブル
―― 気難しいパートナーといかに付き合うか

2024年10月号

リチャード・ハース 外交問題評議会 名誉会長

「友好国や同盟国との立場の違いをいかに管理するか」。この問題へのワシントンの考えはあまり整理されていない。例えば、イスラエルやウクライナのように、ワシントンに依存しながらも、その助言に抵抗することも多い相手に、どのように対処するのが最善なのか。説得、インセンティブ供与、制裁、見て見ぬふり、そして単独行動と、そこにはさまざまなアプローチがある。これらをどう使い分けるか、体系的なアプローチをとる必要があるし、「自国の利益を守りつつ、貴重な同盟関係の断絶を避ける」ために、ときには、相手を批判し、単独行動をとる覚悟をもつ必要がある。

イスラエルとヒズボラ
―― かつてない衝突へ

2024年9月号

アモス・アレル ハーレツ紙 国防アナリスト

いまやイスラエルは、北の国境地帯におけるヒズボラとのさらに大規模な戦争の瀬戸際にあるようだ。イスラエルとヒズボラの立場は、リタニ川以南への影響力をめぐって真っ向から対立している。仮にバイデン政権が、国境周辺からのヒズボラの撤退を含むイスラエルとヒズボラ間の合意をまとめても、イスラエルの指導者たちは、ヒズボラとの決着を望む国内の声を無視するわけにはいかないだろう。イスラエル、レバノンは、民間人と国のインフラにかつてないダメージが及ぶような、全面戦争に直面する危険がある。

力による平和の復活
―― 二期目のトランプ外交を描く

2024年8月号

ロバート・C・オブライエン 前米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)

トランプがアジアの同盟諸国に防衛にもっと貢献するように求めるのは、相手を不安にすると考える評論家もいる。だが現実には、「同盟関係は双方向の関係であるべきだ」というトランプの率直な発言の多くを、アジア諸国は歓迎し、トランプのアプローチは安全保障を強化すると考えている。トランプは(19世紀初頭に米大統領を務めた)アンドリュー・ジャクソンと彼の外交アプローチを高く評価している。「そうせざるを得ないときは、焦点を合わせた力強い行動をとるが、過剰な行動は控える」。トランプ二期目には、このジャクソン流のリアリズムが復活するだろう。ワシントンの友好国はより安全で自立的に、敵国は再びアメリカパワーを恐れるようになるだろう。

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