
1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。
1997年4月号
EU統合の力学の一方で、ヨーロッパでは経済成長を共通目的とする国境を超えた都市や地域間のつながりが、ある時は自然発生的に、またある時は意図的に形成されつつある。鍵を握るのは、シュツットガルト、バルセロナ、リヨン、ミラノの周辺地域、言い換えれば、ドイツのバーデン・ビュルデンブルグ、スペインのカタルーニャ、フランスのローヌアルプ、イタリアのロンバルディアの各地方が中核となってつくりだしている二つの「スーパー・リジョン〈スーパー地域〉」である。EU、国民国家、地域主義という、相互に関連しながらもそれぞれに異なる三つの潮流の離合集散は、ヨーロッパ、そして世界の経済・政治秩序にどのような影響を与えるのだろうか? 国民国家は、地域主義と超国家主義の力学の前に崩壊してしまうのか?
1997年3月号
「EUを、ヨーロッパ大陸を苛んでいるすべての問題に対する解決策とみなしている者は誰もいないが、それでもそれが主要な問題のいくつかの解決策であることに変わりはない。多くはヘルムート・コール、ジョン・メージャー、アラン・ジュペ、ジャック・サンテール(現欧州委員会委員長)の後に、どのような人物がリーダーシップを発揮するかにかかっている。・・・結局のところ歴史のコースに影響を与え得るのはリーダーシップと状況の推移なのである」
1997年2月号
「ユダヤ人に苦しみや死を与えることへのドイツ人の忠誠は、上からの強制されたものではなかった。それは、ドイツ人の内側、自己のもっとも深い部分の発露だった」。ハーバード大学の政治学者・ゴールドハーゲンのこの見解は、大西洋の両岸で大きなセンセーションを巻き起こしている。だがゴールドハーゲンは、ユダヤ人に対するドイツ人の敵対的な「認知モデル」、「民族抹殺論的思考様式」という彼の「オリジナルな理論」を実証しようと、それに符合するような歴史的事例を寄せ集めただけで、全体的な歴史的文脈を完全に無視している。われわれは、粗野な感情と道徳的無関心の高まりが、第一次世界大戦期のヨーロッパで考えられぬほどの広がりをみせ、第二次世界大戦期にピークに達したことを思い起こすべきだし、そこにユダヤ人を助けようとしたドイツ人がいたことも忘れてはならない。ホロコーストは人道にもとる組織的蛮行がまかり通ったひどく長い夜に起きたいまわしい出来事であり、そのすべてをドイツ人の「認識モデル」や「思考様式」に帰することなどできない。
1997年1月号
ドイツはともかく、フランスがマーストリヒトで定められた通貨統合の加盟基準を目標日までにクリアできる可能性は低い。だが、基準をねじ曲げてフランスの参加を強引に認めれば、ヨーロッパは政治的・経済的な大混乱に陥るかもしれない。基準を曖昧にすれば、参加資格のない国々までがドサクサ紛れに統合へ参加する道を開いて通貨統合への政治的反対派勢力を勢いづけ、さらに、金融資本家たちが一斉にヨーロッパ債券を売り、出口に殺到する危険があるからだ。こうしたシナリオを回避するのに必要なのは、今回もヘルムート・コールのリーダーシップによる英断、つまり、「コール・ショック」である。「ある気持ちのよい土曜日の朝に、ドイツ・マルクとフランス・フランを永久的にリンクさせると発表する」ことで、独仏通貨統合をミニEMUとして既成事実としてしまうことだ。
1997年1月号
ヨーロッパ通貨統合が伴う最大のコストとは、為替変動がなくなると同時に、その調整機能も消滅してしまうことだ。為替レートの変動を通じた競争力や価格面での調節機能を放棄すれば、結局は、その帳尻合わせを労働市場に押しつけることになる。そうでなくても福祉国家のいきづまりときわめて深刻な失業問題を抱えるヨーロッパの労働市場にツケが回れば、結局は高金利と高い失業率を招き、問題は経済にとどまらず政治領域に拡大していく。「アメリカは通貨統合を懸念している。その理由は、通貨統合がリセッションを伴う危険を秘め政治的問題を招くために、過去の例と同じく世界の他の地域に高いコストを強いると考えられるからだ」。欧州通貨統合は悪質で危険な幻想である。