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ヨーロッパに関する論文

国家通貨時代の終わり
――ドル、ユーロ、アジア共通通貨の時代へ

2007年7月号

ベン・ステイル/米外交問題評議会・国際経済担当ディレクター

この数十年間で、金融危機が非常に深刻な事態を伴うようになったのはなぜだろうか。途上国の通貨価値が下落しそうになると、対外債務の返済が困難になることを見越して、内外の現地通貨の保有者はこれを手放して出口へと殺到し、これが通貨危機を誘発する。だが、そうした危機に陥った通貨が「必要とされない通貨」であることに目を向ける必要がある。安全にグローバル化を進めていくには、各国政府は通貨ナショナリズムを捨て去り、市場の不安定化を引き起こす「必要とされない通貨」をなくしていく必要がある。一般に各国政府は自国通貨をドルやユーロに置き換えるべきだし、アジア諸国の場合は、広大な範囲におよぶ多様な経済発展レベルの地域を包み込めるような、単一の多国間通貨を創造するために協力していくべきだろう。

時は1940年代のヨーロッパ。目の前には困窮したユダヤ人がいる。上司からはビザに「許可」印を押さなくて済むように手を尽くせと命令されている。ユダヤ人を本国政府は受け入れたくないと考えている。「許可」を出し過ぎれば、あなたの今後のキャリアに影響が出る。だが、本国からの指令に忠実に従えば、多くのユダヤ人を死に追いやることになる……。多くの外交官は保身に走ったが、勇気ある人々もいた。ブラジル、中国、オランダ、イタリア、ポルトガル、ルーマニア、スペイン、スイス、トルコ、バチカン、ユーゴスラビアの外交官だけでなく、日本やドイツの外交官のなかにも、窮状にある人々を救うために、自分のキャリア、名声、ときには生命さえも危険にさらした人々がいた。

この数年来、アメリカとロシアは、事あるごとに衝突してきた。最近も、チェコとポーランドにミサイル防衛網を配備しようとするワシントンの計画に、ロシアは激しく反発した。プーチン大統領は4月末の年次教書演説でも、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を批判した上で、欧州通常戦力(CFE)条約の履行義務を停止すると表明し、イワノフ第一副首相も5月3日に、ロシア軍は今後、「部隊の移動をNATOに通報しない」と発言した。だが、CFE条約の凍結を含むプーチンの攻撃的路線は、全般的な米ロ関係の悪化という問題が引き起こした現象にすぎず、CFE条約そのものが問題ではないとする見方もある。「米ロ関係が緊張しているのは、原油価格の高騰と経済成長をバックに、ロシアが主要な地政学的プレイヤーとしての地位を取り戻しつつあること、プーチン政権が、ロシアが弱体化していた時期に弱者の立場から結んだ条約や契約を改訂するか、反故にしていく戦略をとっていることに関係がある」とみる専門家は多い。

CFRインタビュー
サルコジはフランスをどう変化させるのか

2007年5月号

セルジュ・シュメマン インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙 論説ページエディター

「今回のフランスでの大統領選挙の投票率が、85%という西洋民主国家では異例の高さとなり、候補者の論戦に有権者が熱くなったこと自体、フランスが大きな岐路にさしかかっていると有権者が強く感じていたことを意味する」。サルコジがうまく政治を運営し、移民問題や労働組合との対立に足を取られなければ、大きな変化をもたらせるとみるシュメマンは、サルコジは、「より積極的に働くことにフランス人がもっと価値を見いだせるようにしたい」と考えていると指摘する。一方対米関係については、「サルコジが親米派であり、アメリカを尊重し、アメリカ流のやり方を好んでいるのは事実としても」、これまでのフランスの外交路線を踏み外すようなことはないと同氏はみる。「外交のスタイルやトーンは変化してくるとしても、フランスの対外政策路線の変化につながるとは思わない。ただし、これまでのようなアメリカとの大きな摩擦は起きなくなるかもしれない」と語った。聞き手は、バーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

ロシアの帝国的野心を封じ込めよ

2007年5月号

ユリア・ティモシェンコ
ウクライナ元首相

プーチン大統領は、これまで一貫して「偉大なるロシアを復活させる」という目的を掲げ、国内的には権威主義体制を強化し、対外的にもエネルギー資源と軍事力を武器に近隣諸国を自国の勢力圏に取り込むことで超大国の地位を取り戻すことを狙っている。原油価格の高騰を追い風に再生したロシアは、いまやエネルギー資源供給を武器にヨーロッパさえも脅かしつつある。考えるべきは、ロシアに政治・経済改革を求める欧米のこれまでの路線では、ロシアの伝統的な膨張主義、そして近隣諸国を犠牲にして超大国の地位を取り戻そうとする戦略には太刀打ちできないということだ。パワーにはパワーで対抗するという外交の鉄則を思い出し、欧米、とくにヨーロッパは、ロシアの資源外交による揺さぶりにも動じない結束を持つ必要がある。

トルコとイラク北部のクルド人との対立がここにきて再燃しており、イラク北部とトルコの国境地帯で紛争が起きる危険が指摘されている。問題は、トルコからの分離独立を求めるクルド労働者党(PKK)の武装勢力が、イラク北部を聖域にトルコへの攻撃を行っていることに派生している。最近ではトルコ軍の高官は、「イラク北部におけるPKKの反乱勢力を一掃するためなら、イラク北部への軍事侵攻も辞さない」と発言している。この他にもアンカラは、イラクのクルド人がイラクからの独立を試みれば、トルコ国内のクルド人分離独立運動を大きく刺激することになると懸念している。そして、これら一連の流れの鍵を握るのが、イラクの石油都市キルクークの帰属問題だ。キルクークの帰属を問う住民投票が、2007年末に予定されているが、すでに、トルコとスンニ派アラブ国家は住民投票の実施に反対し、一方、イラクのクルド人勢力は、投票が実施されなければ、イラクからの独立も辞さない可能性も示唆している。クルド人地域がキルクークとともにイラクから独立すれば、イラン、イラク、トルコ、シリア、アルメニアに広がる広大なクルディスタン地方のクルド人がどう反応するか。悪くすれば、中東はこれまでとは全く別次元の大きな問題に直面する恐れがある。

テロとの戦いの本当の意味は何か

2007年2月

トニー・ブレア/第73代英国首相

イスラム過激派は、イスラム国家の近代化など望んではいない。彼らは、中東地域にイスラム過激主義の弓状地域を形成し、イスラム世界の近代化を目指している穏健派による小さな流れをせき止め、イスラム世界が少数の宗教指導者が支配する、半ば封建的な世界へと回帰することを望んでいる。彼らが攻撃に用いる手段に対抗するだけではなく、こうした彼らの思想に挑まない限り、勝利は手にできない。人心を勝ち取り、人々を鼓舞し、われわれの価値が何を意味するかを示すことが戦いの本質である。力の領域においてだけでなく、価値をめぐる闘いで勝利を収めない限り、イスラム過激主義の台頭というグローバルな流れを抑え込むことはできない。

モスクワが自国のエネルギー資源を外交ツールとして用い、国内のエネルギー産業への支配体制を再度強化しようとしていることに、諸外国は警戒を強めている。ごく最近も、220億ドル規模のサハリン2プロジェクトの経営権を、合弁プロジェクトに参加している外資企業3社から政府系の天然ガス独占企業であるガスプロムに移動させるという強引な行動に出ている。また、ベラルーシ、ウクライナ、グルジアなどの近隣国に対して、強引に天然ガスの供給価格の引き上げを受け入れさせようとするロシアの手法は、国際的に広く批判されている。そこに浮かび上がってくるのは、資源を外交ツールとして用い、ロシア政府の戦略資源の支配権を再確立し、エリツィン政権時代の外国との契約を見直そうとするプーチン政権の戦略である。

感情の衝突
―― 恐れ、屈辱、希望の文化と新世界秩序

2007年1月号

ドミニク・モイジ フランス国際関係研究所上席顧問

西洋世界は「恐れの文化」に揺れ、アラブ・イスラム世界は「屈辱の文化」にとらわれ、アジア地域の多くは「希望の文化」で覆われている。アメリカとヨーロッパは、イスラム過激派テロを前に恐れの文化を共有しながらも分裂し、一方、イスラム世界の屈辱の文化は、イスラム過激派の思想を中心に西洋に対する「憎しみの文化」へと姿を変えつつある。かたや、さまざまな問題を抱えているとはいえ、中国、インドを中心とするアジア地域の指導者と民衆は、西洋とイスラムの「感情の衝突」をよそに、今後に向けた期待を持っており、経済成長が続く限り、アジアでは希望の文化が維持されるだろう。恐れの文化、屈辱の文化、そして希望の文化のダイナミクスと相互作用が、今後長期的に世界を形づくっていくことになるだろう。

フランスのイスラム教徒問題
―― 真の問題はフランスそのものにある

2006年10月号

ステファニー・ジリ フォーリン・アフェアーズ誌シニア・エディター

ヨーロッパで生まれたイスラムテロにどう対応するかは重要な課題だが、イスラムテロとイスラム教徒が安易に結びつけられているために、現在ヨーロッパに住む1500万~2千万人のイスラム教徒のほとんどがイスラム過激派とは無関係であり、ヨーロッパ社会に反発して背を向けるどころか、現地社会に溶け込もうと努力しているという重要な事実が見えにくくなっている。イスラム地区における犯罪発生率が高いとしても、それは宗教とは関係なく、フランス国内の社会経済環境を背景としている。フランスの移民問題を「文明の衝突」としてとらえるのではなく、フランスのエリートは、経済停滞、小さな違いを認めない非寛容的な態度、世論の場でのイデオロギー論争、政治的策略の横行といった国内の真の問題に取り組んでいくべきだろう。

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