1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

中国に関する論文

中国を過大視するのはやめよ

1999年9月号

ジェラルド・シーガル ロンドン国際戦略研究所ディレクター

中国は、経済、軍事、政治のあらゆる面で過大評価されている。国際社会であたかも大国であるかのごとく振る舞う中国は、世界中にそれを真実だと信じ込ませてしまう舞台巧者だ。グローバル経済における重要度はブラジルと同程度にすぎず、軍事的にも大国とはいえず、中国の脅威といっても地域的なものにすぎない。また、政治的にも他国を魅了する要素もなく、相互依存に懐疑的な唯我独尊の国として敬遠されている。したがって、欧米諸国は、中国は潜在的な戦略的パートナーとして重視すべきだとか、中国市場で見込まれる利益は他の問題よりも優先されるべきだという幻想を捨てねばならない。今後欧米は、「対中抑制(constrainment)」という新しいアプローチをとるべきであり、望ましくない行動を抑制することを躊躇してはならない。中国を単なる中級国家であると認識することが、問題解決の出発点なのである。

米中パートナーシップはどこへ行った

1999年7月号

ベーツ・ギル  ブルッキングス研究所上席研究員

貿易問題、人権問題、核スパイ疑惑などによって、そもそも先行きの暗かった米中関係は、ベオグラードの中国大使館誤爆事件でさらに手痛いダメージを被ってしまった。わずか一年前の、米中の「建設的な戦略パートナーシップ」は一体どうなってしまったのか。大切なのは、共通の戦略利益と互いの立場の違いについて米中が了解し、そうした相互理解を支えるような国内コンセンサスを形成することである。それなくしては、外交手段ではあってもそもそも目的ではない「エンゲージメント」(穏やかな関与)政策は、今後も浮遊し続けたままだろう。新しい対中政策は、今後の北京との関係をめぐってより現実主義的な視点によって導かれるものでなければならず、それは「穏やかな関与」と危機回避の賢明なバランスをもった、限定的エンゲージメント政策であるべきだ。

Review Essay
江沢民とは何者か

1999年3月号

セス・ファイソン  ニューヨーク・タイムズ上海支局長

毛沢東、鄧小平とは違って、江沢民には自らの奉じる信条への確信が醸しだすカリスマもなければ、他を圧倒するような権限もない。権力の座を射止めて四年がたった時点でも、彼は公の場で自由に発言さえできない。こうした江沢民流の慎重であいまいなリーダーシップは、中国での共産主義の先行き不透明感を反映しているのだろうか。「優柔不断で矛盾に満ち、なんとか状況を乗り切ることばかりを考え」「自分の昇進の鍵を握る目上の人物との関係を築き、それを育むことに長けた」この一見凡庸な人物が、いったいどのようにして遠大な内部抗争に勝利を収めたのか。中央統制経済から市場経済への移行が引きずりだした大きな変化をいなしつつ、なぜ、かくも穏便に世代交代を実現できたのだろうか。

グローバル金融センターの将来

1999年2月号

サスキア・サッセン シカゴ大学社会学教授

グローバリゼーションとともに、金融活動が多様化し、資本市場の脱国家化・分散化が進みつつあるのは間違いない。だが一方では、ニューヨーク、ロンドンという二大金融センターへの統合化も進んでいる。一流の金融機関のグローバルな活動によって、金融活動が世界的な広がりを見せ、市場間の協調も高まっているが、支配的な影響力を発揮するに十分な資金を持つことになるのは、結局はひと握りの金融センターだけだろう。
この分散化の流れのなかでの金融センターの統合化は何を意味するのか。現在のグローバルな金融システムが存続するのは間違いないとしても、アクセスの容易さ、機動性、スピードがこのシステムの重要な要素となるため、このシステムはひどく不安定なままだろう。将来の危機のショックをやわらげる方法はあるのか。短期資金フローに開発資金を頼る新興市場の運命は、そして、アジア経済危機から立ち直れない東京と香港の金融都市としての将来はどうなるのだろうか。

アジアの将来を左右する「日本の歴史認識」

2000年1月号

ニコラス・D・クリストフ  ニューヨーク・タイムズ東京支局長

アジアの歴史的分断線は深く、とくに中国や韓国の人々の反日感情は強い。たしかに、アジア諸国が現在の日本ではなく、かつての日本を基準に判断を下している部分はあるが、かたくなに謝罪を拒む日本の姿勢にも大きな問題がある。アジア経済危機を経て、この地域がまさに日本のリーダーシップを必要としているときに、この分断線が感情面にとどまらず、政治、安全保障領域へと飛び火する恐れさえある。悪循環を断ち切るために、日本がより誠実に謝罪を表明すれば、それだけで、アジアにおける十万の米兵力のプレゼンス以上の地域安全保障への貢献となるはずだ。ここにアメリカの果たすべき役割がある。アジアは、海兵隊よりも、むしろ(アジア諸国間の和解に向けた)アメリカによる忍耐強く誠実なカウンセリングを必要としているのだ。アジアの安定に不可欠な地域的信頼関係は、日本が過去と正面から向き合うようになり、韓国と中国が未来志向になって初めて実現する。

迫りくる中国の激震

1998年9月号

ニール・C・ヒューズ  前世界銀行シニア・オペレーションズ・オフィサー

国有企業は単なる「職場」ではなく、労働者やその家族に各種サービスを提供するコミュニティーである。しかし、今や国有企業はひどく非効率となり、これが生き長らえているのは、ひとえに政府の補助金政策のおかげである。経済改革を成就するには、「鉄飯碗」として知られるこのコミュニティーを崩す必要があるが、それは同時に改革プログラムを政治的に支えている社会的安定基盤も揺るがしてしまう。だが現実には、政府は国有企業の多くを閉鎖せざるを得ず、その場合には千五百万人もの労働者が失業し、その多くが抗議行動に繰り出すことになるだろう。社会的、政治的激震を回避するには、企業、労働者、中央政府、地方政府が負担義務を分かち合う、国による社会保障システムの構築、さらには労働者のための職業再訓練プログラム、公共事業の準備が不可欠であり、その準備のために中国政府に残された時間は少ない。

アジア経済危機は中国にも波及するか

1998年8月号

ニコラス・R・ラーディ ブルッキングス研究所上席研究員

「不正行為、腐敗、(金融への)政治的影響力の強さ」というアジアの諸問題の背景をなす銀行支配型金融システム、中央銀行の独立性と商業銀行規制の弱さという側面は中国にも認められ、膨らむ一方の不良債権というアジア経済の共通問題も、赤字だらけの国有企業を抱える中国にとって同様に深刻である。ではなぜ、アジア危機の悪影響を今のところ中国はほとんど受けていないのか。それは、東南アジア諸国とは対照的に、「資本勘定の交換性」が存在せず、中国が外貨建ての取引を厳格に規制しているため、海外、国内の投資家の行動がひどく制約されているからにすぎない。国有企業、銀行の改革を終えたわけでも、市場化、商業化を果たしたわけでもない以上、経済改革そして中国経済の行方は、いまだ予断を許さない。

台湾海峡紛争をいかに回避するか

1998年7月号

チャス・W・フリーマン 米中政策財団共同会長

二年半前、米中両国は、双方とも望まず、予期もしていなかった軍事的対立局面へと引きずり込まれた。しかし、一九九六年三月に起きた米空母と中国の戦艦および陸上配備ミサイルによるこのにらみ合いは、今にして思えば、有益な効果があったようである。両国はこの危機を通じて米中関係をうまく管理することがいかに大切で、この二国間関係の管理のための中核的要因が、いまなお台湾の地位であることを思い知らされたからである。
以来、米中政府は、一連の二国間問題や国際的問題に関する相互尊重に基づく対話チャンネルの確立にむけて努力してきた。首脳会談やその他の高官による会談が、再び米中外交の常態となり、その後、台湾海峡で軍事対立は起きていない。昨年秋、クリントンは江沢民と会談したさいに、中台間の対話ができるだけ早く再開されるようにと促し、対話決裂についての互いの非難合戦という三年間を経て、北京と台北は、どのようにして会談をもち、そこでどのような問題を取り上げるかについての具体的提案を最近になって交換しはじめた。
かえりみれば、九五年六月に李登輝総統が米国を訪問するまで、中台関係は、非公式の経済文化的交流や対話を通して、和解の方向へ向かいつつあった。海峡を挟んだ二つの勢力間には、なんらかの再統合策をつうじた「一つの中国」という理想およびその必要性についての合意が存在した。米国も支持していたこの合意は、平和と交渉しやすい雰囲気をつくり出していた。しかし、今ではこの合意も崩壊している。しかも台湾は、米国の軍事的後ろ盾によって独立運動を起こせると思いこんでいるようだ。戦争を未然に防ぐには、ワシントンは、北京と台北が、お互いに受け入れ可能な関係を形成する時期にきていること、そして、現状を一方的変化させるような試みは、それがいかなるものであれ、受け入れられないことを双方に納得させなければならない。

ダライ・ラマのジレンマ

1998年3月号

メルヴィン・C・ゴールドシュタイン ケースウェスタン・リザーブ大学人類学教授

チベットへの民主政体の導入を求めたダライ・ラマの果敢な対外キャンペーンは、欧米世界での支持を背景に、中国政府を守勢に立たせたかに見えた。だが中国政府による経済統合策によって、大量の非チベット系中国人起業家、労働者がチベットに流入し、いまやチベットの文化、宗教、民族性までもが危機にさらされ、形勢は完全に逆転している。「政治的自治の範囲」をめぐる中国とチベット間の「妥協」は可能なのか。ダライ・ラマ、中国、そして米国は「妥協」に向けて、どのような行動をとり得るのか。

中国は「民主化」途上にあるのか?

1998年3月号

ミンシン・ペイ  プリンストン大学助教授

中国の政治改革は経済改革に大きく後れをとっているが、それでもゆっくりと進展している。中国指導層の最優先課題は、急速な経済成長がつくり出す圧力に対する政府の管理能力を強化する方向で、「注意深い改革路線を実施する」ことにある。北京政府は、ソビエトが「法改革を実施する前に政治開放・民主化路線をとったために」政治システムそのものが崩壊したことを理解したうえで、現に法システムの整備に着手しているのだ。ただし、米国人が考えるような「民主化」は、中国政府が政治システムの堅固さに自信を持つまでは、今後も小さな可能性にとどまるだろう。

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