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アジアに関する論文

東南アジアの選択
―― なぜ中国に傾斜しているか

2025年8月号

ユエンフォン・コン シンガポール国立大学 公共政策大学院 教授
ジョセフ・チンヨン・リウ 南洋理工大学 教授

「米中のどちらかを選んでいる」という自覚はないのかもしれないが、東南アジア諸国の多くが、アメリカから離れて、中国へ傾斜しているのはいまや明らかだろう。しかし、そのパワーを北京がどのように使うかをめぐって、地域諸国が大きな懸念をもっているのも事実だ。実際、この地域のエリートを対象とする調査で「誰を信頼しているか」という問いで、第1位に選ばれたのは日本で、中国は4位だった。流れは中国にあるとしても、北京が地域諸国の懸念を和らげ、信頼を勝ちとるには、まだ、やるべきことが多く残されている。だが、2期目のトランプ政権の政策が、北京がこの課題を克服するのを容易にするのかもしれない。

インドの大国幻想
―― 多極世界のポテンシャルと限界

2025年8月号

アシュリー・J・テリス カーネギー国際平和財団 シニアフェロー

「多極世界では、特定の一国が自国の意思を他国に強要できないため、世界の平和には多極化が必要になる」。インドは、この視点から、アメリカに近づきつつも、戦略的自立を維持し、公的な同盟関係を避け、イランやロシアといった欧米の敵対国との関係を維持している。多様な連携を通じて、インドは近い将来に中国、アメリカ、欧州と肩を並べる存在になり、その結果、単独で中国への対抗バランスを形成できるようになるとニューデリーは考えている。だが、それは幻想にすぎない。

米同盟諸国は自立と連帯を
―― トランプに屈してはならない

2025年7月号

マルコム・ターンブル 元オーストラリア首相

「原則を重視する寛大なアメリカ」を今も信じている人々にとって、いまは認知的不協和を引き起こすトラウマ的な状況にある。トランプ政権が作り出す現実は、はっきりしている。内外で法を顧みない行動をとり、各国へのいじめを繰り返し、協定や条約を破棄し、同盟国を威嚇し、独裁者に寄り添っている。米有権者は、この行動を最終的に(選挙で)判断することになる。だが、アメリカの同盟国はすでに心を決めているはずだ。トランプの威圧に屈する必要はない。同盟国が協力すれば、大きな影響力を行使できるし、ワシントンが作り出す大混乱に対抗できる。エマニュエル・マクロンが言うように、米同盟諸国は「いじめられない国」の連合を構築すべきだろう。

トランプと金正恩
―― 同盟国は悪辣な米朝取引に備えよ

2025年7月号

ビクター・チャ ジョージタウン大学教授

国際社会は北朝鮮の兵器開発・増強路線を止めさせることができず、いまや金正恩はこれまで以上に多くの交渉カードを持っている。当然、ワシントンのこれまでの北朝交渉モデルは選択肢にならない。条件を受け入れさせるには、大きな譲歩を示す必要がある。それは、北朝鮮を核保有国と認め、朝鮮半島から米軍を撤退させることを含む、同盟国に衝撃を与える内容になるかもしれない。ノーベル平和賞受賞への執着、ウクライナでの戦闘を終わらせたいという願望、そして金正恩に独特の友達意識をもつトランプは、北朝鮮の核保有を認め、同盟国を売り渡し、プーチンをなだめるような取引を、すべて「アメリカ・ファースト」の名の下に行うのかもしれない。

ミャンマーを操る中国の二重戦略
―― 地域覇権を狙う北京の分断戦略

2025年6月号

イェ・ミョー・ヘイン 東南アジア平和研究所 上級フェロー

ミャンマーの安定回復と中国との友好関係の促進を強調しつつも、北京は、崩壊寸前の軍事政権を支えつつ、少数民族武装勢力を自国の影響下に取り込む一方で、欧米との結びつきが強いとみている民主派勢力を排除している。現実には、中国はミャンマーのカオスのなかにチャンスを見いだしている。崩れかけた軍事政権を支えることで影響力を強化し、武装抵抗勢力の連帯を切り崩して、その一部への影響力を拡大して欧米の影響力を抑え込んでいる。軍事政権による統治が続き、国内が分断されたままであれば、中国にとって、ミャンマーをより管理しやすい状態に保てるからだ。実際、ミャンマーを弱体化した状態にとどめることが、中国が絶対的な地域覇権を確立する前提条件なのだ。

トランプの強硬路線とアジア
―― アジアを強制するか、見捨てるか

2025年6月号

リン・クオック ブルッキングス研究所フェロー

アジア諸国が「中国かアメリカか」の二者択一を迫られれば、どう対応するだろうか。中国が常に利益を得るとは限らないが、地理的に近く、この地域と広範な経済的つながりをもち、経済的関与を戦略的優位に転化させるスキルをもつ中国は、もっとも利益を確保しやすい環境にある。アジアに選択を迫っても、その答えはワシントンの気に入るものにはならないかもしれない。一方でトランプ政権が、選択を迫るのではなく、同盟国やパートナーを見捨てることで、習近平と世界を勢力圏に切り分ける「グランド・バーゲン」をまとめようとする恐れもある。ワシントンが今後も圧力と無視という路線を組み合わせれば、北京を警戒する政府を中国の懐に送り込んでしまう危険がある。

韓国民主主義の未来
―― 改革に必要とされる市民の政治参加

2025年3月号

ジョン・デルーリ ジョン・キャボット大学 政治学部客員教授

韓国市民は、尹錫悦大統領のクーデター未遂から立ち直ろうとしているが、その道のりは長い。保守政党の「国民の力」はいまもユン大統領を支持し、党内の過激な保守勢力の立場に迎合している。一方、リベラル派の「共に民主党」は、党代表が複数の裁判を抱えるなど、政治的流れをつかめずにいる。結局、韓国を立て直すのは、最終的には政治指導者よりも、むしろ市民の役割になるだろう。そのためにも、韓国は、若者と高齢者、男性と女性間の社会政治的な隔たりを埋めることにもっと力を入れなければならない。そしてこの国の政治を揺るがしている偽情報の洪水を克服する必要がある。

アメリカ・ファーストを恐れるな
―― アジアとトランプ

2025年3月号

ビラハリ・カウシカン 元シンガポール国連大使

グローバルな関与の条件を再定義し、国際問題にいつ、どのように関与するかについてより慎重になることで、トランプ政権は、リチャード・ニクソン大統領が冷戦期に東アジアで初めて導入した(介入を控え、同盟国の役割分担を求め、地域バランスを重視する)アプローチを地理的に拡大して適用している。ほぼ半世紀にわたって、そのようなアメリカの政策に対処してきたアジアが、第二次トランプ政権の誕生に必要以上に動揺していないのは、このためだ。アジアは、長く、アメリカのことを、安全保障を提供することに前向きな超大国としてではなく、自国の国益を第1に考え、軍事力を選択的に行使する、オフショアバランサーとみなしてきた。

韓国の核武装を認めよ
―― 北朝鮮の脅威とアメリカの干渉

2025年2月号

ロバート・E・ケリー 釜山大学政治学部 教授
キム・ミンヒョン 慶熙大学政治学部 教授

大陸間弾道ミサイルを開発した平壌は、いまや核兵器でアメリカの都市を攻撃する能力をもっている。このために、アメリカが(自国が反撃されるリスクを冒しても)韓国への安全保障コミットメントを果たすかどうかがいまや問われている。しかも、米韓同盟を批判してきたドナルド・トランプが大統領としての2期目を迎える。北朝鮮の核の兵器庫が拡大し、トランプ政権下のアメリカが後ろ盾としての信頼を失うにつれて、韓国の市民やエリートの核武装オプションへの支持は高まる一方だ。問題は、ワシントンが韓国の核武装路線に否定的なことだ。同盟国が危険にさらされたままの状態にあることを求めるのではなく、ワシントンは、ソウルが安全保障への道を自ら見つけることへの障害を取り払うべきだろう。

台湾を守る曖昧戦略
―― いかに壊滅的事態を防ぐか

2024年12月号

ジェームズ・B・スタインバーグ ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際関係大学院 学院長

中台の衝突は不可避ではないが、あり得ないとも言い切れない。それを回避できるかは、米中台、三つの政府の慎重な政策の選択にかかっている。アメリカの台湾政策を批判する専門家が指摘するように、数十年にわたる「戦略的曖昧さ」路線が、米中台のいずれも完全に満足できる状況を生み出していないのは事実だろう。しかし、特定の当事者を完全に満足させる結果は、別の当事者には受け入れられないものだ。つまり、ワシントンが目指すべきは、すべての当事者が受け入れられる(複雑な)現状を特定することだ。高度なバランスを要するが、外交とはそういうものだ。

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