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2022.3.21. Mon

ウクライナ・ジレンマ
―― いかにウクライナを守り、対ロ戦争を回避するか

ロシアへのアプローチには二つの考え方がある。最初のアプローチは合理性と抑止力についての確立された理論に多くを依存している。これは、相手の軍事行動のコストを大きくし、言動の双方で揺るぎない決意を示すアプローチだ。もう一つは認知科学のエビデンスを根拠とするアプローチで「人は重大な損失を予期したり経験したりすると、直面する損失のリスクを誇張し、よりリスクの高い決断をする傾向がある」とする見方だ。プーチンはまさにこの状況にある。われわれはウクライナを守り、ロシアの侵略を押し返しつつ、世界最大の核の兵器庫をもつロシアとの戦争をいかに回避するかというきわめて難しいジレンマに直面している。(スタイン)

カーネマンとトベルスキーという2人の偉大な心理学者は、人間の思考プロセスに欠陥があることを発見した。その一つが、自分の先入観に適合するかどうかによって物事を判断する「認識の近道」だ。2人の研究にノーベル賞の価値があるのは、合理的なアクターという経済学の大前提に疑問を投げかけ、人間の思考プロセスについてもっと現実的な説明をしたことにある。2人は、人間が確率を考えるときに抱く体系的なバイアスを発見し、経済学、医学、法学、公共政策の研究と実践に革命を起こした。政治家の外交的判断も例外ではない。(コン)

敵対勢力との交渉に入ることに条件をつけたいという欲求の方が、相手との間に抱える懸案についての合理的な分析をし、微妙な論争を試みようとするインセンティブよりも大きい。このため、とかく政治的ご都合主義や単純な分析から交渉に入る条件が付けられてしまう。だが、このやり方は全くの逆効果で、実際には、交渉に入るための条件をまったくつけない方が、外交交渉はうまく機能する。交渉を重視する賢明な外交政策も、交渉上の障害を可能な限り事前に取り除こうするあまり、逆に間違いを犯すことがある。安易に考案された交渉に入るための前提条件こそ、交渉による平和を勝ち取るための最大の障害となることが多い。(モルホトラ )

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