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― 欧米におけるポピュリズムの台頭に関する論文

イスラム教徒と欧州左派政党の未来

2018年3月号

ラファエラ・ダンシガー プリンストン大学准教授(政治学)

「どうすれば労働者階級の支持をつなぎ止めつつ、難民・移民問題に対処し、移民有権者にアプローチできるか」。ヨーロッパの難民・移民危機は欧州政治を右傾化させただけでなく、左派政党の政治戦略上の課題も露わにした。労働者階級の多くは、イスラム教徒が多数派の国からの難民や移民を拒絶している。しかし、その濃密な社会ネットワークゆえに、イマームなどのリーダーとの関係を築き、立場の違いに目をつむれば、イスラム系コミュニティの選挙での支持を期待できる。問題は、こうしたイスラム系移民の政治的取り込み策を続ければ、左派の支持基盤である進歩主義的なコスモポリタンたちを遠ざける一方で、(排外主義の立場をとる)右派ポピュリズムをさらに煽りたててしまうことだ。

欧州ポピュリストが演出する「文明の衝突」
―― 文明論を語り始めたポピュリストたち

2018年2月号

ロジャーズ・ブルベーカー カリフォルニア大学ロサンゼルス校 社会学教授

現在のヨーロッパのポピュリストを移民排斥論者、ナショナリスト、極右と言うこれまでの言葉で語るのは適切ではない。彼らはナショナリズムではなく、ヨーロッパを包み込む文明を「キリスト教」という言葉で表現し、それをイスラム文明と対比させている。彼らがキリスト教を引き合いに出すのは、(他者と区別するための文明的)帰属を示すためだ。そこでは、ユダヤ人もヨーロッパの一部を構成する仲間とみなされている。右派ポピュリストが女性の権利やゲイの権利を擁護しているのも、イスラム文明との違いを際立たせるためだ。こうしたヨーロッパの文明論的ポピュリズムが問題なのは、そもそもイスラム世界の一部に存在する過激な反西洋姿勢を、イスラム教徒にとってより信頼できる魅力的な思想にしてしまう恐れがあることだ。・・・

ドイツ政治の漂流
―― 既成政党に挽回のチャンスはあるのか

2018年1月号

スーダ・デビッド=ウィルプ 米ジャーマン・マーシャル・ファンド ベルリンオフィス 副所長

中道政党が長く統治を担ってきたドイツの政治構造に変化が生じている。右派・ポピュリスト政党の「ドイツのための選択肢」は9月の選挙の結果、連邦議会で94議席を手に入れた。連立協議が崩壊した後、メルケルは社会民主党との大連立に向けた協議を模索しているが、解散総選挙というシナリオも依然として取り沙汰されている。ヨーロッパが、欧州の防衛、ユーロゾーンの改革、ブレグジットのような困難な問題へドイツがどのような対応を示すかを心待ちにしているタイミングにあるというのに、ヨーロッパ最大の経済国家として大陸の安定した中核を狙うべき国が地図のない海域で漂流している。

グローバル化の失速と世界経済の未来
―― グローバル経済をポピュリズムから救い出すには

2017年7月号

フレッド・フー プリマベーラ・キャピタル 設立者
マイケル・スペンス ニューヨーク大学ビジネススクール教授

グローバル化は大きな繁栄をもたらす一方で、格差を増大させ、いまや多くの人がグローバル化を特徴づけてきたヒト、モノ、情報の拡散に懐疑的な立場をとるようになった。こうして、反グローバル化とナショナリズムが趨勢となり、イギリスは欧州連合(EU)からの離脱を国民投票で決め、トランプ大統領は「アメリカファースト」ドクトリンに固執している。しかも一方で、雇用懸念を高めるオートメーション化が進んでいる。グローバル化が失速し、急速な技術変化が混乱を引き起こす時代にあって、世界の政治家と政策決定者はこれまでの成果を守るための改革を進め、手遅れになる前に、その欠陥を是正していかなければならない。そうしない限り、保護主義とナショナリズムによって世界の平和と繁栄が脅かされることになる。

切り崩されたリベラルな秩序
―― 格差を是正し、社会的連帯を再生するには

2017年5月号

ジェフ・D・コルガン ブラウン大学准教授(政治学)
ロバート・O・コヘイン プリンストン大学教授(国際関係論)

欧米におけるポピュリズムの台頭は、リベラルな民主社会の社会契約が破綻していることを物語っている。経済格差が人々を異なる生活環境で暮らす集団へ分裂させ、社会の連帯感そのものが損なわれている。中間層や労働者階級を犠牲にしてグローバル化の恩恵を富裕層が独占する状況が続けば、米経済が依存するグローバル・サプライチェーンや移民受入への政治的支援は今後さらに損なわれていくだろう。ポピュリズムは、タフさとナショナリズム、さらには移民排斥論を基盤とする、人受けのするはっきりとしたイデオロギーをもっている。開放的なリベラルな秩序の支持者たちがこれに対抗していくには、同様に明快で、一貫性のある代替イデオロギーを示し、労働者たちが切実に感じている問題を無視するのではなく、それに対応していく必要がある。

リベラリズムを脅かす「他者化」メカニズム
―― 2017年をとらえるもう一つの視点

2017年2月号

ジェフ・コルガン ブラウン大学准教授(政治学)

「他者」を特定することで、誰が仲間で、誰がそうでないかを区別する心理的ルールが育まれ、これによって国も社会も集団も連帯する。一方で、そうした他者がいなくなれば連帯は分裂し始める。例えば、ソビエトという他者が崩壊して脅威でなくなると、アメリカの政党は「内なる他者」に目を向けるようになった。共和党が毛嫌いする対象は「共産主義者」から「ワシントンのエリート」に置き換えられた。民主党は(性差、人種、民族、性的指向、障害などのアイデンティティを擁護する)「アイデンティティ政治を善か悪かの道徳的バトル」と位置づけた。そして、両党の他者化トレンドを自分の優位に結びつけたのがドナルド・トランプだった。問題は、多くの人が他者を区別する心理がどの程度リベラリズムやグローバル化の脅威となるかを認識していないことだ。忍び寄る非自由主義の脅威を食い止めるには、われわれは他者化の必要性が存在しないふりをするのではなく、その必要性にいかに対処するかを考える必要がある。

民主主義はいかに解体されていくか
―― ポピュリズムから独裁政治への道

2017年1月号

アンドレア・ケンドール・テイラー 国家情報会議・副国家情報官
エリカ・フランツ ミシガン州立大学准教授

ポピュリストの指導者が主導する民主体制の解体ペースがゆっくりとしたものであるために、広範な反対運動を刺激するような劇的な展開はなく、反政府勢力を団結させるようなはっきりとした争点も浮かび上がってこない。仮に反政府勢力が組織されても、ポピュリストたちは、彼らを「第五列」、「エスタブリッシュメントのエージェント」、あるいは、「システムの不安定化を狙う工作員」と呼ぶことで、封じ込める。司法や治安サービスなどの権力の中枢を握るポジションに忠誠を尽くす人材を配し、メディアを買い上げることでその影響力を中和し、メディアを縛る法律を成立させ、検閲システムを導入する。この戦略がとられると、実際には民主主義が解体されているかどうかを見極めにくくなる。この狡猾さが、21世紀の民主主義に対するもっとも深刻な脅威を作り出している。

アメリカ社会を分裂させた終末論
―― ドナルド・トランプに政治的に向き合うには

2017年1月号

アリソン・マックイーン スタンフォード大学准教授(政治学)

トランプがキャンペーンで用いてきた終末論にとらわれ続ければ、政治への参加を断念してもはや打つ手はないと諦念を抱くか、世界を善と悪で区別し、自分とは意見の違うものを中傷し、自らが信じる最終的な正義を暴力に訴えてでも実現しようとするようになる。こうしたビジョンがかつてヨーロッパで宗教戦争を引き起こし、現在はイスラム国(ISIS)を戦闘へ駆り立てている。これと似たレベルの二極化が今回の米大統領選挙キャンペーンによってアメリカ社会でも生じている。極右のスティーブン・バノンが首席戦略官・上級顧問に指名されたことで、アメリカ人は人種や宗教的な憎しみを公言するライセンスを得たと感じているかもしれない。われわれは心理枠組みを変えなければならない。トランプの勝利によって終末の世界に向かうと考えてはならない。トランプに反対する勢力は、現状を終末論ではなく、悲劇としてとらえ、マックス・ウェーバーが言うように「あらゆる希望が潰えたときにも、勇気を失わないしっかりとした心をもたなければならない」。・・・

行き場を失った道徳的怒りと米社会の分裂
―― 熾烈なネガティブキャンペーンの果てに

2017年1月号

サラ・エステス 詩人、エッセイスト
ジェシー・グラハム 南カリフォルニア大学准教授(心理学)

ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの対決はベトナム戦争以来かつてないほどの大きな分裂をアメリカ社会にもたらしている。「なぜ政治がかくも毒を帯びてしまったのか」。コメディアンのスティーブン・コルバートは大統領選の夜にこの問いに次のように答えている。「今年は特にみんながふらふらになっていた。毒気にあたりすぎた。少しばかり毒気にさらされても相手の嫌なところがみえる程度で、悪くはない。それでその感覚にはまって、相手を攻撃することで少しばかりハイになってしまった」。選挙戦でトランプが批判したイスラム教徒やメキシコ人たちに対して差別用語を使うことは、いまやトランプ・クリントン双方の支持者に受け入れられつつある。だがもう中傷合戦は止め、曖昧でつかみどころのない不平不満ではなく、具体的で現実に存在する問題に焦点をあわせるべきだ。バラバラになった市民をこれ以上分断させるのではなく、有益な政策を通して市民をまとめ、融和をはかる方向へ怒りの矛先を向かわせなければならない。

トランプ後もポピュリズムは続く
―― なぜ欧米でポピュリズムが台頭したのか

2016年11月

ファリード・ザカリア 「ファリード・ザカリアGPS」 (CNN)のホスト

欧米世界ではポピュリズムが着実かつ力強く台頭している。先進国が直面する低成長や移民流入が作り出す問題に慎重に対処していくには、一連の対策を通じて、全般的に少しずつ状況を改善させていくしかない。しかし、有権者はより抜本的な解決策とそれを実施できる大胆で決意に満ちた指導者を求めている。このために多くの人が、いまや大差ない政策しか打ち出せない伝統的な政党に幻滅し、ポピュリズム政党やポピュリストの指導者を支持している。バーニー・サンダースからトランプ、ギリシャの急進左派連合から、フランスの右派政党・国民戦線はその具体例だ。アメリカ人の多くは、トランプ現象は特有のもので、より大きくて永続的なアジェンダを映し出しているわけではないと考えているが、それとは逆が真実であることを示す証拠が出揃いつつある。・・・

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