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ドナルド・トランプに関する論文

歴史のなかのトランプ
―― 繰り返される秩序との闘い

2025年2月号

マーガレット・マクミラン オックスフォード大学 名誉教授(国際史)

ある種の指導者は歴史の流れを変えられるという見方を受け入れるとしても、政治や社会が大きく変化するのは、制度が権威を失いつつあるときだ。事実、民主国家への信頼は失われつつある。そして、国際ルールを破って何の責任も問われない指導者がいれば、それに続く者がでてくる。1914年のように、過ちや誤解が対決へつながっていく危険は常に存在するが、いまやその危険はますます大きくなっているようだ。トランプ政権が孤立主義的政策をとり、NATOから脱退し、中国と対立し、世界の多くの国々と関税戦争に突入すれば、世界はどうなるだろうか。それによって、世界がより安全な環境を手にするとは思えない。

北京が対米関係を静観できる理由
―― 緊張と孤立主義の間

2025年2月号

ヤン・シュエトン 清華大学 国際関係研究所 名誉所長

北京にイデオロギーを国際的に広める計画はなく、中国共産党は国内の政治的安定を維持していくことを重視している。トランプも同様に国内を重視しており、両国が直接衝突するようなイデオロギー対立に緊張がエスカレートすることはないだろう。むしろ、ロシアと緊密な関係にある中国は、その影響力を利用して、効果的な和平取り決めを特定するために、トランプと協力できるだろう。米大統領の経済保護主義志向は緊張を高めるだろうが、北京はそのような対立をうまく切り抜けられると考えている。トランプの孤立主義も、北京が米同盟国との関係を改善する機会を提供するとみている。中国の指導者たちは彼の権力者としての復活を恐れてはいない。

対中貿易規制と国際協調
―― グローバル貿易と同盟関係

2025年2月号

ピーター・E・ハレル カーネギー国際平和財団 非常勤フェロー

世界の工業生産に占める中国の割合は2000年の6%から2030年には45%に達すると予測されている。これに対してアメリカのシェアは25%から11%に低下する。これは、中国との地政学的対立のさなかにあるアメリカと同盟国にとって、許容できるコースではないだろう。トランプは(同盟国の製品を含む)すべての輸入品に20%の「普遍的基本関税」をかける路線を見直し、同盟諸国と協調して新たな合意をまとめる方が、アメリカの経済と安全保障にはうまく機能することを認識すべきだろう。冷戦期のように、多国間輸出規制レジームなどを通じて貿易と安全保障の両面で協力する一方で、同盟国との二国間貿易赤字には関税よりも、むしろ、相手国の内需を促す路線をとるべきだろう。

トランプ政権と中国
―― 取引主義と競争戦略

2025年1月号

ラッシュ・ドーシ 米外交問題評議会 中国戦略イニシアチブ・ディレクター

トランプの関税引き上げの威嚇策は、中国側の行動を変化させるための交渉戦術なのか、デカップリングを達成するための確定路線なのか、あるいはこの二つのミックスなのかはわからない。いずれにしても、北京は、トランプ政権が(関税策などで)同盟パートナーシップを傷つければ、相手を取り込める余地が生じると期待している。北京は、ヨーロッパや日本との外交エンゲージメントを強化し、インドとの国境紛争の緊張緩和も模索している。さらに、中国への競争的なアプローチを実行する上でもっとも大きな障害となるのは、トランプの取引主義なのかもしれない。対中政策は、1期目同様に、大統領の「取引主義」と側近たちの「競争的アプローチ」という異なる衝動によって特徴付けられることになるかもしれない。

停戦交渉と欧州の立場
―― ウクライナと欧州の安全を確保するには

2025年1月号

エリー・テネンバウム フランス国際関係研究所 安全保障センター ディレクター
レオ・リトラ 新ヨーロッパセンター シニア・リサーチフェロー

2025年に、ロシアとの包括的な和平合意が成立する可能性は極めて低い。合意が成立しても、それは休戦に限られ、政治的協議は先送りされるだろう。交渉が実現しても、米露(そして潜在的には中国)の交渉者が、サウジやトルコの仲介で欧州大陸の将来を決定するとすれば、それは悪夢のシナリオだ。「ウクライナとヨーロッパの主要国がテーブルに着かない交渉などあり得ない」と強く主張しなければならない。そして、ロシアの攻撃を阻む抑止力として、ウクライナ領内に欧州部隊を派遣する覚悟をもつ必要がある。欧州部隊の軍事プレゼンスは安全保障の盾として機能し、欧米の手堅いコミットメントを示すことになる。この環境でウクライナに侵攻すれば、欧州とNATOを巻き込む危険が高いため、ロシアはエスカレーション策に訴えるのを躊躇するはずだ。

イスラエルの幻想とジレンマ
―― ネタニヤフとトランプ

2025年1月号

シャロム・リプナー アトランティック・カウンシル シニアフェロー(非常勤)

イスラエル国防軍の幹部たちは、「ガザとレバノンにおける目標はすべて達成した」とネタニヤフに伝え、ガザから人質を帰還させ、レバノンにおける紛争を終わらせるために譲歩することを支持している。ネタニヤフもこの方向に進むことをある程度希望しているかにみえる。だが、連立政権内の極右強硬派(スモトリッチとベングビール)は、人質解放に反対し、ガザと西岸をイスラエルの長期的な支配下に置くことを望んでいる。一方、多くのイスラエル人は、アメリカの新政権は「イスラエルを無条件で支援する」と考えている。だが、トランプの支持を前提にすれば、イスラエルは世界で孤立することになるかもしれない。今後、ネタニヤフは「トランプを満足させると同時に、スモトリッチとベングビールをなだめる」という不可能な任務に直面するかもしれない。

ヨーロッパの安全保障
―― 自立的欧州安全保障へ

2025年1月号

ノルベルト・レットゲン ドイツ連邦議会議員

交渉に入れば、トランプが停戦を成立させることを求める国内圧力に直面することをプーチンは理解している。当然、そのような交渉から生まれる合意が、ウクライナやヨーロッパが安心できるものになるとは考えにくい。ワシントンがモスクワの戦争目的を受け入れれば、NATOの信頼性は大きく損なわれ、ヨーロッパの安全保障構造の基盤は揺るがされる。そうならないように、欧州の主要な軍事大国であるフランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、イギリスはヨーロッパ合同戦略の策定を主導する必要があるし、欧米間の適切な責任分担を見直し、防衛力を強化しなければならない。実際、強力な防衛力に邪魔されない限り、プーチンが侵略をウクライナだけで断念することはないだろう。

日本とトランプ
―― 試されるリーダーシップ

2025年1月号

マシュー・P・グッドマン 米外交問題評議会地政学研究センター ディレクター

「北朝鮮そして中国の東シナ海、南シナ海での活動に毅然とした態度をとるつもりがあるのか」。日本の指導者たちは、トランプの安全保障政策をもっとも心配していた。関税引き上げ策への懸念ももっている。日本製品に対する関税引き上げだけでなく、中国や(カナダや)メキシコで組み立てられた日本製品が打撃を受けることも警戒している。一方、中国経済のデカップリングなどに対する日本政府の意欲は限定的になるかもしれない。日本は経済大国であり、インド太平洋地域におけるもっとも重要なアメリカの同盟国だ。東京がこの先の荒波をどのように乗り切るかは、日本のリーダーシップはもとより、トランプ政権のリーダーシップの試金石にもなるだろう。

新シリア紛争の行方
―― 関係諸国はどう動く

2025年1月号

スティーブン・A・クック 米外交問題評議会 シニアフェロー(中東・アフリカ研究担当)

アサド政権に対抗する武装勢力が、イスラエルがヒズボラに大きなダメージを与えた現状を大きな機会とみなしているのは明らかだろう。いまやシリア政府を支援するイランやヒズボラそしてロシアの力は限られている。一方、トルコは「アサド後のシリア」への影響力を確保することを再び重視するかもしれない。イスラエルも、シリアにおける「アサド問題はイランの問題でもある」ために、状況を前向きにみているかもしれない。そして大統領就任後のトランプが、シリアに展開する米軍部隊の撤退を選ぶ可能性もある。

トランプはいかに世界を変化させるか
―― 高官人事と外交政策

2024年12月号

ピーター・D・フィーバー デューク大学 教授

トランプと側近チームは、高官任命では何よりも大統領への忠誠を重視することを明らかにしている。トランプへの忠誠を調べるもっとも簡単なテストは、「2020年大統領選の結果は盗まれたのか、あるいは、2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件は反乱行為だったのか」を問うことかもしれない。次期副大統領となったJ・D・バンスが言うように、これらの問いに対してトランプが認める答えは一つしかない。このリトマス試験紙があれば、トランプは「チームの一員」だと考える人物だけを登用して、軍や情報機関の上層部を政治化できる。問題は、トランプのキャンペーンレトリックが、アメリカが直面する脅威を何ら理解していない、非現実的な大言壮語と薄っぺらな万能薬の類いで構成されていることだ。

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