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ドナルド・トランプに関する論文

同盟関係の崩壊と米国の孤立
―― 同盟破壊という愚行

2025年9月号

マーガレット・マクミラン オックスフォード大学 名誉教授(国際史)

現在のアメリカは、イギリスが帝国の全盛期に経験した状況に直面している。世界最大の軍事大国であることは重い負担であり、それもあって、債務が驚くべき水準に膨らんでいる。中国をはじめとする野心的大国は、ますます高額化する軍備競争に資源を投入している。そして、歴史的に繰り返されてきた通り、他の諸国は古い大国を見捨てて、新興大国に乗り換え、その衰退を機に団結して対抗する誘惑に駆られている。トランプ政権が同盟国への敵対的な姿勢を継続し、長年のパートナーを侮辱し、経済的に損害を与えるような行動を続けるなら、アメリカの前にあるのは、ますます敵対的な世界になるはずだ。

トランプは皇帝なのか
―― 独裁を阻む抑制と均衡の再確立を

2025年8月号

エリザベス・N・サンダース コロンビア大学 政治学教授

米大統領は、これまでもまるで帝国の指導者のようだったが、本当に皇帝のように振る舞おうとした大統領は、少なくとも、2期目のドナルド・トランプまではいなかった。米同時多発テロ以降、米議会は外交領域における大統領権限の拡大を認め、それを取り戻そうとしなかった。最高裁も、有意義な抑制を大統領に課すことに乗り気ではなかった。こうして、トランプは、外交政策や国家安全保障にわずかにでも関連する案件なら、ほぼ思うままにできるようになった。世界各国に追加関税を課し、議会が定めた対外援助を骨抜きにし、同盟国をいじめ、独裁者に言い寄っている。あらゆる制約がなくなれば、個人独裁体制下の指導者は間違った軍事的冒険主義をとり、衝動的な決定を下し、自滅的な政策をとりやすくなる。

新しい世界の創造へ
―― もう過去には戻れない

2025年8月号

レベッカ・リスナー 米外交問題評議会 シニアフェロー
ミラ・ラップ・フーパー アジア・グループ パートナー

トランプ政権の2期目が終わる頃には、古い秩序は修復不可能なまでに崩壊しているだろう。トランプ後を担う大統領は、多極化した、複雑な国際秩序を理解し、そこでアメリカがどのような役割を果たすかを決めなければならない。すべてを見直す必要がある。民主的価値へのコミットメントにはじまり、同盟関係、貿易、国防戦略までのすべてを再検証しなければならない。そうしない限り、ポスト・トランプの遺産という視点だけで米外交の将来を考え、これに過剰反応する危険がある。いまや、新しいテクノロジー、台頭する新興国が出現し、これに、長年の緊張が組み合わさることで、カオスが作り出されている。「ポスト・プライマシー」ビジョンの形成が急務だ。

米同盟諸国は自立と連帯を
―― トランプに屈してはならない

2025年7月号

マルコム・ターンブル 元オーストラリア首相

「原則を重視する寛大なアメリカ」を今も信じている人々にとって、いまは認知的不協和を引き起こすトラウマ的な状況にある。トランプ政権が作り出す現実は、はっきりしている。内外で法を顧みない行動をとり、各国へのいじめを繰り返し、協定や条約を破棄し、同盟国を威嚇し、独裁者に寄り添っている。米有権者は、この行動を最終的に(選挙で)判断することになる。だが、アメリカの同盟国はすでに心を決めているはずだ。トランプの威圧に屈する必要はない。同盟国が協力すれば、大きな影響力を行使できるし、ワシントンが作り出す大混乱に対抗できる。エマニュエル・マクロンが言うように、米同盟諸国は「いじめられない国」の連合を構築すべきだろう。

「アメリカの世紀」の終わり
―― ドナルド・トランプとアメリカパワーの終焉

2025年7月号

ロバート・O・コヘイン プリンストン大学名誉教授
ジョセフ・S・ナイ・ジュニア ハーバード大学名誉教授

この80年間にわたって、アメリカは、強制ではなく、他を魅了することでパワーを蓄積してきた。アメリカパワーを強化する相互依存パターンを破壊するのではなく、維持するのが賢明な政策だ。トランプが、米同盟諸国の信頼を低下させ、帝国的野望を主張し、米国際開発庁を破壊し、国内で法の支配に挑戦し、国連機関から脱退する一方で、それでも中国に対抗できると考えているのなら、彼は失意にまみれることになるだろう。アメリカをさらにパワフルにしようとする彼の不安定で見当違いの試みによって、アメリカの支配的優位の時代、かつてヘンリー・ルースが「アメリカの世紀」と命名した時代は無様に終わるのかもしれない。

トランプと金正恩
―― 同盟国は悪辣な米朝取引に備えよ

2025年7月号

ビクター・チャ ジョージタウン大学教授

国際社会は北朝鮮の兵器開発・増強路線を止めさせることができず、いまや金正恩はこれまで以上に多くの交渉カードを持っている。当然、ワシントンのこれまでの北朝交渉モデルは選択肢にならない。条件を受け入れさせるには、大きな譲歩を示す必要がある。それは、北朝鮮を核保有国と認め、朝鮮半島から米軍を撤退させることを含む、同盟国に衝撃を与える内容になるかもしれない。ノーベル平和賞受賞への執着、ウクライナでの戦闘を終わらせたいという願望、そして金正恩に独特の友達意識をもつトランプは、北朝鮮の核保有を認め、同盟国を売り渡し、プーチンをなだめるような取引を、すべて「アメリカ・ファースト」の名の下に行うのかもしれない。

新勢力圏の形成へ
―― 大国間競争から大国間共謀へ

2025年6月号

ステイシー・E・ゴダード ウェルズリー・カレッジ 政治学教授

中国やロシアと競争するのではなく、トランプ政権は中ロと協力することを望んでいる。トランプの世界観が大国間競争ではなく、「大国間共謀(great power collusion) 」、つまり、19世紀の「ヨーロッパ協調」に似ていることは、いまや明らかだろう。こうして、アメリカの外交路線は、ライバルとの競争から、温厚な同盟諸国をいたぶる路線へ変化した。他の大国から有利な譲歩を引き出すために、トランプがビスマルクのような外交の名手になる可能性もある。しかし、ナポレオン3世のように、よりしたたかなライバルに出し抜かれてしまうかもしれない。

トランプの強硬路線とアジア
―― アジアを強制するか、見捨てるか

2025年6月号

リン・クオック ブルッキングス研究所フェロー

アジア諸国が「中国かアメリカか」の二者択一を迫られれば、どう対応するだろうか。中国が常に利益を得るとは限らないが、地理的に近く、この地域と広範な経済的つながりをもち、経済的関与を戦略的優位に転化させるスキルをもつ中国は、もっとも利益を確保しやすい環境にある。アジアに選択を迫っても、その答えはワシントンの気に入るものにはならないかもしれない。一方でトランプ政権が、選択を迫るのではなく、同盟国やパートナーを見捨てることで、習近平と世界を勢力圏に切り分ける「グランド・バーゲン」をまとめようとする恐れもある。ワシントンが今後も圧力と無視という路線を組み合わせれば、北京を警戒する政府を中国の懐に送り込んでしまう危険がある。

「捕獲された国家」の経済的末路
―― 経済を蝕む壮大な政治腐敗

2025年5月号

エリザベス・デイビッド=バレット サセックス大学政治学教授

実業家の大統領が富豪と組んで連邦政府の管理権を乗っ取るという事態は、アメリカ近代史ではかつてない展開だ。だが、世界的にみれば、バングラデシュ、ハンガリー、南アフリカなど、政治家、ビジネスエリートの小集団が自己利益のために国と経済をねじ曲げてきたケースは数多くある。このプロセスを描写する「国家の捕獲(state capture)」という言葉もある。政治腐敗によって、そうした国は成長率の低下、雇用の減少、格差の拡大、高インフレに直面する。トランプとマスクが米経済の捕獲に成功すれば、市場をゆがめるだけでは済まない。世界経済にもダメージを与えることになる。アメリカは、世界をクリーンな統治へ向かわせる警察官としての歴史的役割を放棄しただけでなく、豹変してマフィアのボスになりつつある。

ナショナリズムと強権者の時代
―― 覆された国際システムとトランプの世界

2025年5月号

マイケル・キマージュ ウィルソン・センター ケナン・インスティチュート 所長

いまや世界のアジェンダを設定しているのは、自国の偉大さを強調するナショナリストの指導者たちだ。トランプは、プーチン、習近平、モディ、エルドアンと同じタイプの指導者だ。強権的なナショナリストを自任する彼らは、ルールに基づく国際システムや同盟関係、多国籍フォーラムなどほとんど気にしていない。当然、グローバル秩序に関するいつもの描写はもう役に立たない。国際システムは一極支配でも二極体制でも多極体制でもない。現在のような地政学的環境では、すでに曖昧化している「欧米」という概念はさらに後退していく。

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