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ドナルド・トランプに関する論文

相互主義と同盟関係
―― 帝国から共和国へ

2025年12月号

オレン・キャス アメリカン・コンパス チーフ・エコノミスト

冷戦後には、世界各国がワシントンの気前のよさにつけ込む世界経済秩序が出現した。しかし、グローバル化と市場経済が政治経済の境界をなくすという賭けは失敗に終わり、いまは新たな賭けが必要とされている。持続可能な貿易・安全保障ブロックを構築する最善の方法は相互主義の大戦略だろう。これは、同等の条件で互いに関与することを約束する諸国との同盟で、同じ義務を果たそうとしない国は排除される。例えば、貿易不均衡の是正に取り組むことを拒否する国は、共通市場から追放し、高関税策の対象とされる。安全保障領域では、アメリカの同盟関係とパートナーシップをゆっくりと蝕んできた「ただ乗り」を制限する。覇権も世界秩序も必要ではなく、アメリカは世界から後退することもできる。

アメリカとイスラエル
―― 中東和平をめぐる同床異夢

2025年11月号

ヨースト・R・ヒルターマン 国際危機グループ 中東・北アフリカ担当特別顧問
ナターシャ・ホール 戦略国際問題研究所 上級研究員(非常勤)

イスラエルがカオスを作り出し、アメリカが不本意ながらその流れに追随するという、はっきりとしたパターンが生まれている。このダイナミクスを断ち切るには、アメリカは地域的な安定を促進する路線をイスラエルが維持するように、継続的な圧力をかけなければならない。イスラエル政府はハマスとの戦争継続を望んでいたが、トランプが強い調子で働きかけた結果、今回はガザ合意に署名するほかなかった。だが、ネタニヤフがいずれハマスに対する戦争を再開し、人道的支援を妨害する可能性はある。二国家解決策をイスラエルが拒絶しているという基本問題も残されている。強い圧力をかけ続けない限り、今回の合意でも、いつものパターンが繰り返されることになるかもしれない。

揺るがされたアメリカへの信頼
―― 不安定化する世界

2025年11月号

カレン・ヤーヒ=ミロ コロンビア大学 国際公共政策大学院 学院長

トランプは、立場を後退させる前にまず取引を提案する。戦争を拡大する前に、戦争を終わらせると約束する。同盟国を叱責し、敵対国を受け入れる。唯一のパターンとは、パターンが存在しないことだ。一部の分析家が指摘するように、トランプのアプローチは一時的な国際的勝利を一部でもたらしている。だが長期的には、このアプローチでアメリカが強化されることはない。最終的に、各国は他国と連帯して国を守る道を選ぶはずだからだ。その結果、アメリカの敵対国リストは増え、同盟関係は弱体化する。つまりワシントンはますます孤立し、その威信を回復する明確な道筋を見失う可能性がある。

アメリカ後の自由主義秩序を守る
―― 民主諸国の協調と連帯

2025年10月号

フィリップス・P・オブライエン セント・アンドリューズ大学 教授(戦略研究)

多くの国は、トランプ政権に媚びへつらい、米大統領を過度に称賛する努力を重ねてきたが、トランプを懐柔する戦略は失敗する可能性が高い。そうであれば、民主主義と旧来のルールに基づく秩序にいまもコミットする諸国は、国際関係を再構築し、アメリカの気まぐれから自らを隔離し、この極めて不安定な時代にあっても自分たちの自由を広く守る努力をするのが理にかなっている。実際、トランプの勢力圏構想が実現すれば、アジア、ヨーロッパ、北米におけるワシントンの民主的同盟国がアメリカによって守られることはなくなるだろうし、民主諸国は、世界の他の国々を合わせたよりもはるかに多くの核兵器を保有する米中ロという三つの大国と対峙することになる。

新しい経済地理学
―― ポストアメリカ世界の荒涼たる現実

2025年10月号

アダム・S・ポーセン ピーターソン国際経済研究所 所長

トランプの新路線が望ましい再編を促すと考える人もいる。だが、彼の政策を前に、各国の政府と企業が、最終的にニューノーマルを受け入れ、アメリカに利益がもたらされるという見方は、幻想にすぎない。それどころか、トランプの世界では、誰もが苦境に陥るし、アメリカも例外ではない。アメリカに最大の利益をもたらし、同盟国やパートナーに安心と繁栄をもたらしてきたシステムを彼は破壊してしまった。特に、カナダ、日本、メキシコ、韓国、イギリスなど、米経済ともっとも密接に結びつき、これまでのゲームルールを忠実に守ってきた諸国の経済は大きなダメージを受けるだろう。トランプは楽園への道をつくり、カジノを建設した。だが、その駐車場はやがて空っぽになるはずだ。

同盟関係の崩壊と米国の孤立
―― 同盟破壊という愚行

2025年9月号

マーガレット・マクミラン オックスフォード大学 名誉教授(国際史)

現在のアメリカは、イギリスが帝国の全盛期に経験した状況に直面している。世界最大の軍事大国であることは重い負担であり、それもあって、債務が驚くべき水準に膨らんでいる。中国をはじめとする野心的大国は、ますます高額化する軍備競争に資源を投入している。そして、歴史的に繰り返されてきた通り、他の諸国は古い大国を見捨てて、新興大国に乗り換え、その衰退を機に団結して対抗する誘惑に駆られている。トランプ政権が同盟国への敵対的な姿勢を継続し、長年のパートナーを侮辱し、経済的に損害を与えるような行動を続けるなら、アメリカの前にあるのは、ますます敵対的な世界になるはずだ。

トランプは皇帝なのか
―― 独裁を阻む抑制と均衡の再確立を

2025年8月号

エリザベス・N・サンダース コロンビア大学 政治学教授

米大統領は、これまでもまるで帝国の指導者のようだったが、本当に皇帝のように振る舞おうとした大統領は、少なくとも、2期目のドナルド・トランプまではいなかった。米同時多発テロ以降、米議会は外交領域における大統領権限の拡大を認め、それを取り戻そうとしなかった。最高裁も、有意義な抑制を大統領に課すことに乗り気ではなかった。こうして、トランプは、外交政策や国家安全保障にわずかにでも関連する案件なら、ほぼ思うままにできるようになった。世界各国に追加関税を課し、議会が定めた対外援助を骨抜きにし、同盟国をいじめ、独裁者に言い寄っている。あらゆる制約がなくなれば、個人独裁体制下の指導者は間違った軍事的冒険主義をとり、衝動的な決定を下し、自滅的な政策をとりやすくなる。

新しい世界の創造へ
―― もう過去には戻れない

2025年8月号

レベッカ・リスナー 米外交問題評議会 シニアフェロー
ミラ・ラップ・フーパー アジア・グループ パートナー

トランプ政権の2期目が終わる頃には、古い秩序は修復不可能なまでに崩壊しているだろう。トランプ後を担う大統領は、多極化した、複雑な国際秩序を理解し、そこでアメリカがどのような役割を果たすかを決めなければならない。すべてを見直す必要がある。民主的価値へのコミットメントにはじまり、同盟関係、貿易、国防戦略までのすべてを再検証しなければならない。そうしない限り、ポスト・トランプの遺産という視点だけで米外交の将来を考え、これに過剰反応する危険がある。いまや、新しいテクノロジー、台頭する新興国が出現し、これに、長年の緊張が組み合わさることで、カオスが作り出されている。「ポスト・プライマシー」ビジョンの形成が急務だ。

米同盟諸国は自立と連帯を
―― トランプに屈してはならない

2025年7月号

マルコム・ターンブル 元オーストラリア首相

「原則を重視する寛大なアメリカ」を今も信じている人々にとって、いまは認知的不協和を引き起こすトラウマ的な状況にある。トランプ政権が作り出す現実は、はっきりしている。内外で法を顧みない行動をとり、各国へのいじめを繰り返し、協定や条約を破棄し、同盟国を威嚇し、独裁者に寄り添っている。米有権者は、この行動を最終的に(選挙で)判断することになる。だが、アメリカの同盟国はすでに心を決めているはずだ。トランプの威圧に屈する必要はない。同盟国が協力すれば、大きな影響力を行使できるし、ワシントンが作り出す大混乱に対抗できる。エマニュエル・マクロンが言うように、米同盟諸国は「いじめられない国」の連合を構築すべきだろう。

「アメリカの世紀」の終わり
―― ドナルド・トランプとアメリカパワーの終焉

2025年7月号

ロバート・O・コヘイン プリンストン大学名誉教授
ジョセフ・S・ナイ・ジュニア ハーバード大学名誉教授

この80年間にわたって、アメリカは、強制ではなく、他を魅了することでパワーを蓄積してきた。アメリカパワーを強化する相互依存パターンを破壊するのではなく、維持するのが賢明な政策だ。トランプが、米同盟諸国の信頼を低下させ、帝国的野望を主張し、米国際開発庁を破壊し、国内で法の支配に挑戦し、国連機関から脱退する一方で、それでも中国に対抗できると考えているのなら、彼は失意にまみれることになるだろう。アメリカをさらにパワフルにしようとする彼の不安定で見当違いの試みによって、アメリカの支配的優位の時代、かつてヘンリー・ルースが「アメリカの世紀」と命名した時代は無様に終わるのかもしれない。

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