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― アメリカの衰退に関する論文

地政学的「欧米」の終焉
―― アメリカの離脱とポスト欧米世界の行方

2025年11月号

スチュワート・パトリック カーネギー国際平和財団 シニアフェロー

信頼できる地政学的単位としての欧米の終焉は、アメリカとかつてのパートナーが異なる行動と議論を示し、対立する状況を頻繁に出現させることになるだろう。ワシントンによる国際主義の放棄、自由主義的規範やアジェンダ設定への無関心は、欧米の価値と脅威認識にギャップを生じさせ、欧米の地政学連帯を根本的に分断していくはずだ。現在の流動的局面では、ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカといった国々が、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、日本、イギリスといった先進国と協力する機会を提供すると考えられる。だが、欧米という枠組みがなくなれば、疑念、敵意、対立、そして紛争が生じやすい世界が残されることになる。

「アメリカの世紀」の終わり
―― ドナルド・トランプとアメリカパワーの終焉

2025年7月号

ロバート・O・コヘイン プリンストン大学名誉教授
ジョセフ・S・ナイ・ジュニア ハーバード大学名誉教授

この80年間にわたって、アメリカは、強制ではなく、他を魅了することでパワーを蓄積してきた。アメリカパワーを強化する相互依存パターンを破壊するのではなく、維持するのが賢明な政策だ。トランプが、米同盟諸国の信頼を低下させ、帝国的野望を主張し、米国際開発庁を破壊し、国内で法の支配に挑戦し、国連機関から脱退する一方で、それでも中国に対抗できると考えているのなら、彼は失意にまみれることになるだろう。アメリカをさらにパワフルにしようとする彼の不安定で見当違いの試みによって、アメリカの支配的優位の時代、かつてヘンリー・ルースが「アメリカの世紀」と命名した時代は無様に終わるのかもしれない。

それでも、ドルの覇権は続く
―― 他に選択肢はない

2025年7月号

エスワール・プラサド ブルッキングス研究所 シニアフェロー

トランプ政権の関税策、そして彼がアメリカの法の支配に与えているダメージによって、2025年の成長見通しだけでなく、外国為替市場におけるドルの強さも脅かされている。1世紀以上にわたって準備通貨として君臨してきたドルも清算の時を迎えつつあるかにみえる。だが、有力な代替基軸通貨が存在しないために、今のところ米ドルがその地位から転落することはなさそうだ。実際、「ドル覇権の崩壊」という見通しは、他の主要通貨がドルに取って代わる機会を生かさなければ、実現しそうにない。他の準備通貨の脆弱性、経済・金融の混乱時における安全な金融資産への大きな需要があることを考えれば、ドル優位の時代の終わりを宣言するのは時期尚早かもしれない。

中国とヨーロッパの地政学
―― 米欧対立を中国は生かせるか

2025年5月号

ジュード・ブランシェット ランド研究所 中国研究センター長

「トランプはプーチンとの関係改善に熱心で、アメリカの伝統的な同盟国に反感を抱き、貿易戦争が国内政治に及ぼす影響を軽視している」。北京は現状をこのようにみている。事実、米欧関係が大きな圧力にさらされているために、習近平は、ヨーロッパ各地に外交官を派遣して、中国を信頼できる代替パートナーとして売り込み、安定した経済協力の機会を提供できると強調している。実際、ウクライナの戦後開発を支援する上で、中国ほど有利な立場にある国はないだろう。各国がアメリカの後退の可能性に備えてリスクヘッジを試みるなか、北京は頼れるパートナーとして自らを位置づけたいと考えている。

トランプと競争的権威主義の台頭
―― 米民主主義は崩壊するのか

2025年4月号

スティーブン・レヴィツキー ハーバード大学 政治学教授
ルーカン・A・ウェイ トロント大学 政治学部特別教授

アメリカの司法省、連邦捜査局、内国歳入庁(IRS)などの主要政府機関や規制当局をトランプの忠誠派が率いるようになれば、政府はこれらの政府組織を政治的な兵器として利用できるようになる。ライバルを捜査と起訴の対象にし、市民社会を取り込み、同盟勢力を訴追から守れるからだ。こうして競争的権威主義が台頭する。政党は選挙で競い合うが、政府の権力乱用によって野党に不利なシステムが形作られていく。政治家、ビジネス、メディア、大学、市民団体も権威主義政権の大きな権限と圧力を恐れて、立場を見直して声を潜める。競争的権威主義の台頭は、アメリカだけでなく、世界の民主主義にとって重大で永続的な帰結をもたらすことになるだろう。

新国際主義外交の薦め
―― アメリカと世界

2024年11月号

コンドリーザ・ライス 元米国務長官

かつて同様に、リビジョニスト(現状変革)国家は力によって領土を獲得し、国際秩序は崩壊しつつある。さらに憂慮すべきは、かつて同様にアメリカが内向きになり、孤立主義の誘惑に駆られていることだ。ポピュリズム、移民排斥主義、孤立主義、保護主義に席巻されるアメリカの国際社会での立ち位置はどこにあるのか。アメリカのグローバルな関与が、過去80年間とまったく同じように進むとは考えられないが、それでもアメリカの国際主義外交が求められている。そうできるかで、未来が民主的で自由市場国家間の同盟によって規定されるのか。それとも、リビジョニストパワーによって規定される権威主義的政治の時代に逆戻りするのかが左右されるだろう。

再生する資本主義
―― スイス、台湾、ベトナムに学ぶ

2024年11月号

ルチール・シャルマ ロックフェラー・インターナショナル 会長

新興経済諸国は、アメリカが「大きな政府」的解決策を模索するのをみて衝撃を受ける一方で、中国に経済モデルのインスピレーションを求めることもできずにいる。いまや「中国経済の奇跡」も失速しつつある。だが、主要国が資本主義から後退しているかにみえるなか、スイス、台湾、ベトナムなどの、資本主義がうまく機能している国もある。これらの諸国のやり方を模倣し、取り入れる価値はあるだろう。いずれも、経済的自由を重視し、経済の管理や規制をめぐる政府の役割を抑え、債務や財政赤字が深刻なリスクになることを認識して資金を慎重に用いている。

アメリカは東南アジアを失うのか
―― 中国へなびくアセアン諸国

2024年10月号

リン・クオック ブルッキングス研究所 フェロー(アジア政策)

東南アジアを対象とする2024年の調査で、この地域の連携パートナーとして中国がアメリカよりも支持されるという初めての結果がでた。アメリカがイスラエルを強く支持していることが、中国に有利な方向に流れを変えた大きな要因と考えられる。イスラム教徒が多数派を占める東南アジアの3カ国すべてで、台湾ではなく、イスラエルとハマスの紛争が地政学上の最大の懸案に選ばれている。米外交にはダブルスタンダードがあり、中国に関する利己的な目標をもっているというイメージも、アメリカの立場への支持拡大を妨げている。失った地域的支持をワシントンが取り戻していくのは容易ではない。

政治暴力と民主主義の危機
―― アメリカの分裂と政治危機(7/14)

2024年8月号

ロバート・リーバーマン ジョンズ・ホプキンス大学 教授(政治学)

「トランプの暗殺未遂事件が、アメリカがひどく分裂しているタイミングで起きただけに、(今後が)非常に心配だ。分裂が極端になると、もはや選挙での対立候補間のゲームではなく、死闘のようなものになる。人々は、支持しない候補が勝利すれば、自分の価値が道徳的に脅かされるだけでなく、自分たちが理解する国の存続が脅かされると考えるようになるからだ。政治的分裂から深刻な社会暴力への道がそれほど遠いわけではない」

聞き手 ダニエル・ブルック 
フォーリン・アフェアーズ シニアエディター

アメリカはアラブ世界を失いつつある
―― アラブストリートの信頼を勝ち取るには

2024年7月号

マイケル・ロビンス アラブ・バロメーター社 ディレクター兼共同研究員
マニー・ジャマル プリンストン大学 公共・国際問題大学院 学院長
マーク・テスラー ミシガン大学 教授(政治学)

アラブ世界で反米感情が急激に高まっている。イスラエルがガザで軍事作戦を始めて以降、ヨルダンでは、アメリカを好意的にみなす人の割合が、2022年の51%から、最近実施された調査では28%に激減している。国内での反米感情の高まりゆえに、アラブの指導者で、ワシントンに協力しているとみなされたいと考える者はほとんどいない。アメリカのアナリストは、アラブ民衆の声は、米外交政策にはあまり関係してこないと軽くみているが、「アラブの指導者は世論に左右されない」という考えは神話にすぎない。アラブ市民のアメリカへの信頼を取り戻さない限り、アラブの指導者たちは対米協調を避け、アラブとイスラエルの国交正常化もイラン封じ込めも遠のき、中国を含むアクターがこの地域で台頭してくることになるだろう。

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