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論文データベース(最新論文順)

習近平は父から何を学んだか
―― その経験と政治的教訓

2025年12月号

オービル・シェル アジア・ソサエティ 米中関係センター ディレクター

1962年、毛沢東政権の幹部だった父・習仲勲が政治的に粛清されたとき、習近平はまだ9歳だった。父が粛清されたことは習近平の心の傷となった。10代のときに、子供たちが憧れる共産主義青年団への入団を8回も拒絶されたことは大きな屈辱だったはずだ。毛沢東が死去した1976年、鄧小平が政権に復帰し、父・習仲勲はようやく北京に戻ることを許され、深圳で新しい経済特区を立ち上げることにも関わった。2002年に習仲勲は死去し、その10年後、息子は中国の最高指導者になった。習近平は父親の改革主義の足跡をたどり、法の支配を前提とするシステムを採用し、自由経済を歓迎するようになると多くの人々が考えていた。だが、そうはならなかった。

戦争とストーリーの力
―― ホメロスとヘロドトス

2025年12月号

エリザベス・D・サメット 米陸軍士官学校 教授(英文学)

ストーリーはいまや社会的、政治的、歴史的な真実を広める最大の手段となり、合理的な議論をしのぐようになった。文学理論家のピーター・ブルックスが指摘するように、最高のストーリーは、神話的な地位を獲得し、その時点で、「それがフィクションであることは忘れられ、それが本当に世界を説明しているとみなされる」。特に戦争のストーリーがもてはやされるのは、人間にとって、自らの内面に目を向けるよりも敵と対比して自らを定義するほうがずっと簡単だからだ。競合するストーリーが、人間や国家を戦争に導くこともある。ひとたび大きな紛争が起きると、参加者も傍観者も、暴力のうねりと自分の関係を理解しようと、ますます多くのストーリーを受け入れるようになる。

イスラエルの覇権幻想
―― 破壊では平和は築けない

2025年12月号

マーク・リンチ ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学、国際政治)

中東の地域的リーダーシップは軍事的優位だけでは得られない。他の地域大国の一定の合意や協力が必要になることをイスラエルは理解すべきだ。現実には、中東でイスラエルのリーダーシップを望む者など誰もいない。むしろ、地域諸国はイスラエルの暴走するパワーを警戒し、脅威とみなし始めている。民衆蜂起の再燃を恐れる湾岸の指導者たちは、アラブ民衆のイスラエルに対する怒りを十分に感じとり、それを政策に織り込んでいる。これまで中東における軍事的拡張主義やガザを破壊する行動をとっても、大きな代価を支払わずに済んできたために、イスラエルは今後も問題にはならないという感覚をもっているが、それは大きな間違いだ。

相互主義と同盟関係
―― 帝国から共和国へ

2025年12月号

オレン・キャス アメリカン・コンパス チーフ・エコノミスト

冷戦後には、世界各国がワシントンの気前のよさにつけ込む世界経済秩序が出現した。しかし、グローバル化と市場経済が政治経済の境界をなくすという賭けは失敗に終わり、いまは新たな賭けが必要とされている。持続可能な貿易・安全保障ブロックを構築する最善の方法は相互主義の大戦略だろう。これは、同等の条件で互いに関与することを約束する諸国との同盟で、同じ義務を果たそうとしない国は排除される。例えば、貿易不均衡の是正に取り組むことを拒否する国は、共通市場から追放し、高関税策の対象とされる。安全保障領域では、アメリカの同盟関係とパートナーシップをゆっくりと蝕んできた「ただ乗り」を制限する。覇権も世界秩序も必要ではなく、アメリカは世界から後退することもできる。

新たなユーラシア秩序
―― 進化する中ロ連携と米同盟関係の再編

2025年12月号

ジュリアン・スミス 元NATO米大使
リンジー・フォード 前米国家安全保障会議 上級部長

中ロが秩序形成で連携し、ユーラシアでより統一された競争空間を作り出している。これに対し、アジア・ヨーロッパ諸国は連帯し、急速に相互関係を変化させている。こうした新しいネットワークは、ワシントンがそれにどう関わるかで、アメリカの利益にプラスにもマイナスにも作用する。だが、ワシントンは、アジアとヨーロッパの同盟諸国に(歩み寄って連携するのではなく)自分の地域に留まるようにと促している。現実には、アジアとヨーロッパの境界線は曖昧になりつつある。アメリカは同盟諸国が構築する新たなネットワークに抵抗するのではなく、それへの影響力を適切に行使すべきだろう。

停滞する秩序下の現実
―― 中国の衰退と覇権競争の終わり

2025年12月号

マイケル・ベックリー タフツ大学 准教授(政治学)

流れは成長から停滞へと変化している。脆弱な国家は債務と若年人口の急増に押し潰されつつある。困難な状況に直面する国は衰退を食い止めようと、軍事化と領土回復主義に血道をあげている。経済不安が過激主義を煽り、民主主義を蝕み、アメリカは単独行動主義をとっている。多国間機関は麻痺し、軍備管理レジームは崩壊しつつあり、経済ナショナリズムが台頭している。民主主義は内部から朽ち果て、秩序の擁護者であるべきアクターは狭い自己利益に埋没している。但し、この停滞する秩序では、台頭する国家、新興大国がいなくなる。これによって、覇権争いという破滅的なサイクルが阻止されるかもしれない。歴史は終わらないが、そのもっとも破滅的な章は幕を閉じるのかもしれない。

AIと失業とポピュリズム
―― 適切な対策を実現するには

2025年12月号

ベアトリス・マジストロ
ソフィー・ボーエン
R・マイケル・アルバレス
バート・ボニコウスキー
ピーター・ジョン・ローウェン

いまや世論調査でも、AIによる雇用喪失が最大の懸念とされ、労働者の再訓練、AIの規制、社会保障の拡充を市民は対策として求めている。だが、そうした対策はうまく実施されていない。それどころか、ロボットが雇用を脅かすという考えに接すると、むしろ、移民や貿易に対する敵意や不満が助長され、政治家もそうした風潮に政治的に流されがちになる。幸い、再訓練、AIの規制、社会保障の拡充という市民が支持する対策を、エコノミストも適切な対策とみなしている。問題を解決し、ポピュリストの反動が再燃するのを避けるには、政策決定者は、そうした雇用喪失が本格化する前、つまり、依然として有効な解決策が広く支持されている状況で適切な対策を示す必要がある。

イスラム国の復活
―― シリアの内戦化を阻むには

2025年12月号

キャロライン・ローズ ニュー・ラインズ研究所ディレクター
コリン・P・クラーク ソウファン・グループ 研究ディレクター

2024年のアサド政権崩壊以降、シリアでは、イスラム武装組織が台頭し、国内の宗派対立が激化している。一方で、イスラエルはシリア空爆を続け、シリアの新政権内の対立も激化している。しかも、かつてシリア国土の3分の1を支配したイスラム国勢力(ISIS)が再台頭している。シリアの治安部隊がISISや他のテロ組織に対抗できる態勢を確立すれば、米軍は撤退できるが、いまはまだその時ではない。このように不安定な時期にアメリカが時期尚早に撤退すれば、ISISを勢いづかせ、米軍がシリアに派遣された本来の目的を損なうことになりかねない。

兵器化された相互依存
―― 経済強制時代をいかに生き抜くか

2025年12月号

ヘンリー・ファレル ジョンズ・ホプキンス大学 アゴラ研究所 教授
エイブラハム・ニューマン ジョージタウン大学外交学院 教授(政治学)

ワシントンは、相互依存状況を、どのように兵器として利用するのが最善かをこれまでも考えてきた。一方、多くの国は、法の支配と同盟国の利益を考慮するアメリカは、ある程度は私利私欲を抑えると考え、リスクがあるとしても、アメリカの技術と金融インフラに依存することを躊躇しなかった。だが、いまやアメリカは経済強制策を乱発し、中国などの他の大国も相互依存状況を兵器化するようになった。当然、敵対国も同盟国も相互依存を兵器化できる世界における新しい経済安全保障概念が必要とされている。いまや、経済的・技術的統合は、成長のポテンシャルから、脅威へと変化している。

イランとアメリカ
―― 対立の歴史を終わらせるには

2025年11月号

バリ・ナスル ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院 教授(国際問題・中東研究)

12日間戦争は明らかにイランを弱体化させ、これまでのテヘランの戦略は、持続不可能な状態に陥った。この現状なら、ワシントンはイランを封じ込めたままにし、イスラエルに時折「草刈り」をさせることもできる。だが、テヘランに外交を試みることもできるはずだ。テヘランとの関係を新たな軌道に乗せ、イランの外交・核政策と政治指導層内のパワーバランスの双方を変えるような新たな外交取引を模索すべきだろう。たとえ両国の歴史が失われた機会に満ちていようと、過去が必ずしも今後のプレリュードである必要はない。両国はイランの核能力に関する緊急の合意をまとめるためだけでなく、信頼を築き、両国関係の新たな道筋を示すためにも、外交を受け入れる必要がある。

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