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イノベーティブ国家を構築するには
―― 政府がベンチャーキャピタルを
見習うべき理由

マリアナ・マッツカート サセックス大学科学政策研究所(SPRU) 教授(イノベーション経済学)

The Innovative State
―― Governments Should Make Markets, Not Just Fix Them

Mariana Mazzucato サセックス大学科学政策研究所(SPRU)教授(イノベーション経済学)。近著にThe Entrepreneurial State: Debunking Public vs. Private Sector Mythsがある。

2015年2月号掲載論文

イノベーションを推進するために国は何をすべきか。介入を控え、可能な限り、口出しすべきではないと考えられてきた。この見解は広く受け入れられているが、ひどく間違っている。現実にはイノベーションを通じて経済成長を遂げている国は、歴史的に政府が企業のパートナー役、それも多くの場合企業が嫌がるリスクを進んで担う大胆なパートナーの役目を果たしてきた。技術革新の方向性を見極めて、政府がその方向に投資できる仕組みを形作る必要がある。公的投資に関する短絡的考え方をやめ、政府と民間を分けて考えるのをやめるべきだろう。イスラエルやフィンランドのように、国がベンチャーキャピタルのように、融資先企業の株式を保有することもできる。政府は、イノベーションを推進する未来志向の政府機関を設立し、これを、国内における創造性、応用、実験の拠点とする必要がある。・・・

  • イノベーションと国の役割
  • 市場の失敗と政府の役割
  • 政府投資をどのように判断するか
  • 恩恵と損失
  • 次なる革命

<イノベーションと国の役割>

イノベーションを推進するために国は何をすべきか。「余計な口出しをしないことだ」とこれまで考えられてきた。政府にできることは、よくてせいぜい、民間のダイナミズムを側面から支援することくらいで、下手をすると、高飛車で動きの鈍い官僚主義が、民間のダイナミズムを押しつぶしてしまう。一方、民間企業は動きが速く、リスクを引き受けるだけのやる気があり、進取の気性に富み、必要とされるイノベーションを育み、形作る力をもっている。

この見解に従えば、「優れた起業家とベンチャーキャピタリストがいたから、シリコンバレーは成功した」ということになる。国は経済に介入できるが、その役目は、市場メカニズムで効率性が達成されない「市場の失敗」を是正し、公平な競争環境を作ることに限定される。規制を通じて、環境汚染などの企業が消費者に強いるコストを抑え、科学的な基礎研究や市場性の低い医薬品の開発などの「公共財」に投資することはできるが、国が市場を直接的に作り出し、その体質を左右すべきはない。

2012年の英エコノミスト誌の製造業の未来に関する記事も、こうした一般認識を濃厚に映し出していた。

「政府はいつの時代も(市場動向に即して)成長産業を選ぶのが下手だったが、オンラインでデザインを交換し、自宅で製品化した商品をガレージから世界に売り出す起業家、試行錯誤を重ねるイノベーターが増えている環境では、さらに失敗を犯す危険が高い。(イノベーション)革命が進むなか、むしろ、政府は自らがやるべきことだけに徹すべきだ。優れた技能労働者を生み出せるように教育を改善し、明確なルールを定め、市場の公平性を高める。それ以外はイノベーターたちに任せればいい」

たしかに、この見解は広く受け入れられている。だが、ひどく間違っている。イノベーションで経済成長を遂げている国の政府は、歴史的に企業のパートナー役、それも、多くの場合企業が嫌がるリスクを進んで引き受ける大胆なパートナー役を果たしてきた。基礎研究から商業化にいたるイノベーションのすべてのプロセスにわたって、政府は必要とされながらも、民間企業が敬遠する領域への投資を拡大してきた。こうしてインターネット、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、クリーンエネルギーなど、まったく新しい市場と産業が生み出されてきた。

しかし現在は、政府が大胆なアイディアを推進するのは環境的に難しくなっている。いまや政府の役割は、民間企業の活動をスムーズにし、場合によっては正しい方向に進むように軌道修正を促す程度に限定されている。それ以上のことをしようとすると「民間投資を締め出し、間違った勝者を選ぼうとしている」と非難される。国を単なる世話役、管理人、規制当局とみなす考えは1970年代に広まり、2008年の世界金融危機以降、再び世界的に強く意識されるようになった。金融メルトダウンを引き起こしたのは民間債務だが、世界の政策決定者は(救済策をとったこともあって肥大化した)公的債務をむしろ問題にし、歳出を削減すれば民間投資を喚起できると主張し始めた。その結果、これまで技術革新の推進役を担ってきた政府機関が予算削減の憂き目にあっている。

アメリカでは連邦予算の強制一律削減によって、2013―2021年の研究開発予算は約950億ドル削減される。ヨーロッパでも欧州連合(EU)の「財政協定」によって、加盟国は財政赤字を対国内総生産(GDP)比3%に減らすことが義務付けられ、教育や研究開発が犠牲にされている。

一方で企業は積極的なロビー活動を展開し、規制緩和とキャピタルゲイン課税の引き下げを勝ち取った。全米ベンチャーキャピタル協会の強力なロビー活動の結果、アメリカのキャピタルゲイン税率は1976年からわずか5年で40%から20%へと引き下げられた。イギリスではブレア政権時代の2002年、「シリコンバレーのダイナミズムをイギリスにも」というスローガンの下、プライベートエクイティーが税制上の優遇措置を受けるのに必要な投資期間が10年から2年へと短縮された。だが、こうした優遇策は、投資を促すのではなく、不平等を拡大し、長期的な投資を犠牲にして短期的な投資を刺激したために、結果的に、イノベーションを抑え込んでしまった。

政府はイノベーション推進をもっと巨視的に捉えるべきだが、より多くの開発プログラムにもっと投資をすれば、それで事足りるわけではない。経済領域での国の伝統的な役割を根本から見直し、技術革新の方向性を見極めて、政府がその領域に投資できる仕組みを作らなければならない。公的投資に関する短絡的考え方をやめ、政府と民間を分けて考えるのをやめる必要がある。政府と納税者が、公的融資が失敗したときのリスクだけでなく、成功したときの恩恵を確保する方法も考えるべきだ。

イノベーションをめぐって国が果たすべき役割についての従来の思い込みを捨てて初めて、政策立案者たちは、ジョン・メイナード・ケインズの言う「死んだエコノミストの奴隷」になるのではなく、自らを解き放つ必要がある。

 

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