claffra/istock.com

世界エネルギーアウトルック

ファティ・ビロル(スピーカー)国際エネルギー機関 チーフエコノミスト
ミシェル・パトロン(プレサイダー)米国家安全保障会議シニアディレクター(エネルギー担当)

World Energy Outlook

2015年1月号掲載論文

原油価格については現在のような水準が1-2年は続くのではないかと私はみている。だが、価格が低下すれば、投資が低下し、需要が上向く。1-2年、あるいはもっと早い段階で、原油価格が上昇し、過去数年間のようなレベルに戻るとしてもおかしくはない。・・・2020年以降は米シェールオイルの生産の伸びは鈍化するだろう。さらに現在の低い原油価格が(投資を低調にし)、シェールオイルの開発・生産を抑え込むと考えられる。2015年には投資計画の見直しが行われるだろうし、価格が現状のままなら、その投資規模はおそらく10%程度小さくなり、その余波が2016年以降に現れてくる。・・・2025年までには、中東での石油増産が再び必要になるが、投資が低調な現状から推定すると中東石油の増産を期待するのは難しいだろう。現在の中東情勢、イラク情勢をみると、現地への投資に関心を示すものはいない。多くの専門家が考えるように、現在の中東の地政学状況が構造化し、今後も続くようなら、投資が進むはずはなく、2020年代に中東原油の増産を期待するのは難しくなる。

  • 1―2年で原油価格は上昇へ
  • エネルギーミックスを見直す好機
  • 電力のない生活
  • 欧州エネルギー安全保障
  • 今後の石油市場
  • 化石燃料と地球温暖化
  • メキシコ、ブラジル、インド
  • シェールオイルの未来
  • 電気自動車の憂鬱な未来

<1―2年で原油価格は上昇へ>

ミシェル・パトロン 2014年、エネルギー市場は大きな変動を経験した。イラクや中東の混乱ゆえに原油価格は高騰したが、ここにきて30%以上の低下をみせている。供給が増大し、需要が低調なために、どこまで原油価格が低下するかがいまや注目されている。

天然ガス市場も大きな変化を経験している。特にヨーロッパでは(ウクライナ危機に派生する)ロシアからの供給の先行き不安が高まる一方で、エネルギー市場統合の流れが生じている。気候変動問題についてはアメリカと中国の指導者が排出量規制に向けた大胆な措置を表明し、各国は(温暖化対策をめぐる途上国支援のための)グリーンクライメートファンド(GCF)に100億ドル近い拠出を約束するなど、新たな流れが生じている。

まず石油市場から話を伺いたい。中東は(シリア・イラクを中心に)地政学的混乱に陥り、(ロシア、イランという)世界の2大産油国が経済制裁の対象にされている。それでも、原油価格は(12月時点で1バレル60ドル代前半と)非常に低い水準で推移している。これは変則的な事態だろうか。それとも構造的に何かが変化したのだろうか。

 

ファティ・ビロル 原油価格が下方圧力にさらされているのには二つの理由がある。一つは、アメリカの増産もあっても、市場に原油があふれていることだ。もう一つは需要が非常に低調であること。ヨーロッパ経済は依然として不安定だし、中国経済の成長も鈍化し、日本経済はリセッションに陥っている。これらが価格の下方圧力を作り出している。

この状態が1―2年は続くのではないかと私はみている。だが、原油価格が低下すれば投資も低調になるし、特にコストのかさむ部分への投資が停滞する。価格が低下すれば、需要が上向く。1―2年、あるいはもっと早い段階で、原油価格が上昇し、過去数年間のようなレベルに戻るとしても、おかしくはない。

パトロン 原油安が続き投資が低調になるとして、もっとも大きなリスクにさらされるのはどの産油国だろうか。

 

ビロル おそらく北米だろう。原油価格が低下し続ければ、アメリカを含む北米のエネルギー企業は投資計画を見直すことになるだろうし、ブラジルも同様だろう。

ブラジルの石油プロジェクトは輸出からのキャッシュフローでファイナンスされている。原油安で歳入が減少すれば、ペトロブラス(ブラジル石油公社)はさらに債務を抱え込むことになり(投資は難しくなる)。ロシアも原油安と経済制裁によって、投資面で問題を抱え込むかもしれない。

 

 

パトロン 今回のアウトルックで非常に興味深いのは、世界の電力生産能力が倍増するとあなたが指摘していることだ。その場合、エネルギーミックスはどのように変化していくだろうか

 

ビロル 経済協力開発機構(OECD)のメンバー諸国、つまり、アメリカ、ヨーロッパ、日本は新たな電力生産施設を数多く作らなければならない時期にきている。電力需要が伸びているからではない。既存の電力生産施設が寿命を迎えつつあるからだ。OECD諸国の電力生産施設の多くは、高度成長期だった35―50年前に建設されており、近く寿命を迎える。

現在、世界の発電所を合わせた生産能力は6000ギガワットで、その半分を手がける発電所が寿命を迎える。発電所は人間に似ている。力強く、多くのエネルギーを生産するが、一定の年数が経つと引退し、システムから退出する。

逆に言えば、現在われわれは(電力生産に占める石炭、原子力、石油、天然ガスなどの比率)エネルギーミックスを変化させるチャンスを手にしていることになる。エネルギー資源としての石炭を再生可能エネルギーに、石油を天然ガスに変え、エネルギーミックスを変化させる大きなチャンスがそこにある。

政府の計画と発電所建設状況を基にしたわれわれの予測によれば、新しい電力生産能力の半分は水力、太陽光、風力などの再生可能エネルギーで、これは気候変動の緩和という側面からみてグッドニュースだ。一方で、再生可能エネルギーでは安定的な生産が期待できないために課題も伴う。例えば、すでに数多くの再生可能エネルギー生産施設が存在するヨーロッパの場合、これ以上再生可能エネルギーへの依存が高まれば、電力供給の信頼性が問われることになるだろう。

例えばヨーロッパの2月の電力需要がピークに達するのは夕方で、この時間には太陽は沈み始める。天然ガス発電など、信頼できる生産システムが必要になる。だが、ヨーロッパの投資意欲は十分ではない。

多くの国で、エネルギーミックスの主役を担うのは再生可能エネルギーと天然ガスになるだろう。

主にOECD諸国は再生可能エネルギーと天然ガスを、アジア諸国は再生可能エネルギーと石炭を中心としたエネルギーミックスへとシフトしていくだろう。

 

 

パトロン 今年のアウトルックはアフリカでの電力アクセスに焦点を当てており、少なくとも6億人が信頼できる電力アクセスをもっていないと指摘している。インドでも3億人近い人が電力へのアクセスをもっていない。どうすれば、電力へのアクセスを、可能な限り低炭素を心がけつつ実現できるだろうか。

 

ビロル アフリカは非常にエネルギー資源が豊かな大陸だ。この5年間で新たな発見された油田やガス田はアフリカに集中している。水力、風力、太陽光発電という再生可能エネルギーでも、かなりのポテンシャルをもっている。にもかかわらず、アフリカの3人のうち2人は電力へのアクセスをもっていない。これは、エネルギー問題であるとともに、道義的問題であり、経済安全保障の問題でもある。6億2500万人が電力へのアクセスをもっていない。

2040年までにはアフリカも力強い成長を遂げるようになるだろうし、電力を利用できるようになる人は増える。だがそれでも、政策を変えない限り、2040年の時点で、依然として5億人が電力へのアクセスがないままだろう。

アフリカへの投資が進んでいるのは事実だが、アフリカのエネルギーに投資される3ドルのうち2ドルはエネルギー輸出用の投資で、国内の発電所、送電網その他への投資費は残された1ドルに過ぎない。

だが、現在進められているプロジェクトからみると、これも変化していくだろう。私は次のような展開を期待している。アフリカ、それも都市から離れた地方での電力供給は再生可能エネルギーを中心としたものになるだろう。これは気候変動問題への配慮とは関係なく、大きなコストがかかえる送電ネットワークを作らなくて済むからだ。今後作られる巨大水力ダムに加えて、小型の水力、太陽光、風力発電がアフリカの電力化を促進することになるだろう。

私が期待している展開は、アフリカが経済開発を石炭による電力ではなく、再生可能エネルギーによって進める世界で最初のケースになることだ。歴史を顧みれば、ヨーロッパ、アメリカ、中国は経済開発を石炭エネルギーに依存してきたが、アフリカは再生可能エネルギーで経済成長を実現できるかもしれない。これはアフリカにとっても、世界にとっても非常に重要なことだ。

もう一つアフリカについて認識しておくべきポイントがある。それは、1900年から現在までの二酸化炭素排出量について、アフリカに責任があるのは3%未満であることだ。これは、現状の気候変動問題に関してアフリカにはほとんど責任がないことを意味する。

しかし、温暖化が深刻になれば、干ばつ、海面水位の上昇、(海岸地域から内陸部への)移住、気候不順などアフリカ大陸は非常に大きな影響を受けると考えられる。これでは、自分たちにはほとんど責任がないのに、他の人間が作り出した問題をめぐってペナルティを課されるようなものだ。

一方、アジアではコストの問題もあって、依然として石炭が電力生産のエネルギーとして用いられている。特に3億人が電力へのアクセスをもっていないインドがどのようなエネルギー資源を選択するかはグローバルトレンドとしても、地球温暖化の側面からみても大きな意味合いをもつことを指摘しておきたい。

 

 

パトロン 次にヨーロッパのエネルギー危機について。ロシアからウクライナへの天然ガスの供給が停止され、東ヨーロッパへの供給も低下したが、この経験がヨーロッパのエネルギー市場のどのように変化させていくだろうか。より柔軟で多角的なエネルギーシステムをヨーロッパが構築する機会にできるだろうか。

 

ビロル ウクライナとロシアの天然ガスをめぐる対立は2006年、2009年に続いて、2014年が3度目だった。すでにヨーロッパの指導者たちは、これを「構造的な問題」として捉えている。

今後、ヨーロッパの天然ガス需要は横ばいをたどると考えられるが、ヨーロッパ内部での生産が低下するために、輸入をかなり増やさなければならない。

問題はどのように輸入を増やすかで、これがヨーロッパにとっては大きな課題となる。選択肢の一つはカスピ海周辺諸国、あるいは東地中海から天然ガスをパイプラインで調達することだ。一方、市場に供給される液化天然ガス(LNG)は大幅に増えている。供給量が増えているだけでなく、LNG供給国の数が増えている。

ヨーロッパを含むLNG輸入国は調達先を多角化できる状況にあるが、ヨーロッパの指導者はこれを機にエネルギー安全保障を真剣に考えるべきだろう。エネルギー、経済、外交政策のために天然ガスの調達を多角化すべきだし、新しいパイプラインルートとLNGによる輸入を検討すべきだ。

原油市場についても、確かに価格は低下しているかもしれないが、石油安全保障上の問題が待ち受けていることを忘れてはならない。イラク、そしてウクライナとロシアでの事態ゆえに、いまやエネルギー安全保障は国際政策の重要なアジェンダとなっており、今後、アメリカの国家安全保障会議はこの問題に忙殺されることになるだろう。天然ガスと石油の安全保障は非常に重要だ。

 

 

パトロン アウトルックでは、中東石油への依存が今後どう変化していくと分析されているのか。

 

ビロル アメリカの石油生産はブームを迎えており、これは多くのプレイヤーにとってはグッドニュースだろうが、そう考えていないプレイヤーもいる。

確かに、市場により多くの原油が提供される以上、石油安全保障は強化される。原油価格の低下は、消費国にとっては朗報だろう。しかし、現状を全体像のなかに位置づけて考える必要がある。

世界の原油需要は今後20年間で1日当たり1400万バレル増大する。一方、アメリカの原油増産で、うまくいけば米国内の需要は満たせるようになるかもしれない。もちろん、一部を輸出し、一部を輸入する状態は続く。とはいえ、アメリカだけで、世界の原油需要を満たすことはできない。カナダ、ブラジルなどでも原油増産が期待できる。しかし、2025年までには、中東での石油増産が再び必要になると考えられる。しかし、現状から推定するとこの段階で中東石油の増産を期待するのは難しい。2020年代に中東石油を増産にもっていくには、現状で投資する必要があるからだ。

スイッチをひねるだけで、原油を増産できるわけではない。生産プロジェクトには6―7年のリードタイムが必要になる。だが、現在の中東情勢、イラク情勢をみると、現地への投資に関心を示す者はいない。多くの専門家が考えるように、現在の中東の地政学状況が構造化し、今後も続くようなら、投資が進むはずはなく、2020年代に中東原油の増産を期待するのは難しいだろう。

 

<化石燃料と地球温暖化>

パトロン 化石燃料に関しては補助金の問題もある。各国の補助金を合計すると実に年間5500億ドルにも達する。だが、原油価格が低下していることで、インド、インドネシア、マレーシアはこれを追い風に補助金の削減へと舵をとれるのではないだろうか。補助金を減らしていくために、われわれに何ができるだろうか。補助金の削減はこれらの諸国、中東の産油国、そして石油消費国にとって非常に重要だ。地球環境の問題からも、各国の財政の安定という側面からみても重要だ。

 

ビロル われわれIEA(国際エネルギー機関)はこの10年にわたって化石燃料の補助金問題を分析してきた。補助金とは、政府が人為的に石油、石炭、天然ガスの供給価格を決めることで生じる。政府は国内のエネルギー価格を低く抑えようと、資金(補助金)を負担している。だがこれによって政府は間違ったメッセージを発してしまっている。「好きなだけ二酸化炭素を排出してくれ」と言っているようなものだ。「お金は政府が出すから、心配しなくていい。エネルギーを浪費してもかまわない」と。

こうして二酸化炭素の排出量が増大し、地球環境問題に無頓着な態度を生み出す。価格が安ければ、人間はそれが何であれ、浪費するし、現実にそうなっている。

さらに、補助金は再生可能エネルギーの成長を抑え込んでしまう。そうでなくても、再生可能エネルギーによる電力生産は、天然ガス、石炭、石油その他による電力生産よりもコストがかさむ。その上、化石燃料に補助金を出せば、再生可能エネルギーはますます追い込まれる。なかには、再生可能エネルギーの拡大を望みつつも、化石燃料に補助金を出している国もある。これは奇妙なエネルギー政策と言わざるを得ない。

しかも、補助金は政府の財政に圧力をかけている。インドネシアやインドは化石燃料への補助金を見直そうと試みているが、これは地球環境に配慮し始めたからではなく、予算が苦しくなっているからだ。

5500億ドルの補助金の半分は中東諸国による燃料補助金だ。中東では、1日200万バレルの石油が電力生産のために消費されている。これは経済的にみれば、自殺行為に近く、経済的な合理性はない。中東諸国はより多くの石油を輸出に回せるように、天然ガスによる電力生産にシフトしようと試みている。同じことがインドネシアでも起きている。インドの補助金削減の試みに続く国が出てくるだろうし、中国はこの点で大いに努力している。

 

パトロン 次に気候変動問題について。米中が温暖化ガス削減で合意し、ヨーロッパも2030年以降の野心的なターゲットを示した。今後、温暖化対策の流れはどう展開していくだろうか。

 

ビロル 気候変動問題については電力生産部門にもっとも大きな責任がある。このセクターを見直さない限り、われわれが気候変動問題への解決策を見いだすことはあり得ない。

世界の指導者たちは、現在のような地球環境を維持するには気温の上昇を摂氏2度に留める必要があると主張してきたが、そのためには、これまでのやり方を大きく見直す必要がある。

だが、われわれは完全に間違った方向へと向かっている。いずれ、これまで数世紀のライフスタイルを見直さざるを得なくなる。この意味で、アメリカと中国が排出量の削減で合意したことには画期的な意味がある。米中は45%の排出量削減に、ヨーロッパも15%の排出量削減にコミットしている。これらの削減目標は、政治指導者が政治的意思を示したことを意味し、その意義は大きい。

アメリカが削減に向けてどのように動くかと同様に、中国が初めて削減目標を示したことは非常に重要だ。これまでヨーロッパ、日本、アメリカは、最大の二酸化炭素排出国である中国が対策をとらないのでは排出量削減は先に進まないと考えてきた。これが、何もしないことの口実とされてきた。だがいまや中国がアメリカと同じ枠組に入ったことで、心理的な障害も克服されていくだろう。

 

 

パトロン では質疑応答へ。

 

質問者 メキシコとブラジルのエネルギー生産のポテンシャルをどうみているだろうか。

 

ビロル オフショア資源の発見によってブラジルは非常に大きなポテンシャルをもっている。問題は、ペトロブラスがタイムリーに開発を進め、生産にもっていけるかどうかだ。投資がスムーズに行われるか、それとも、投資と開発の停滞が続くかを見守る必要がある。

原油価格が現在のような低いレベルで推移するか、あるいはさらに低下するようなら、投資がうまく進まなくなる可能性がある。ペトログラスは資源輸出の収益を投資に充てているからだ。さらに価格が低下すれば、ブラジルでの投資プロジェクトは困難な状況に陥る。

メキシコとなると、話は違ってくる。メキシコのエネルギー部門の近代化が実現すれば、石油生産が増強され、世界の石油市場に前向きな貢献をすることになるだろう。但し、二つのことを考える必要がある。メキシコの油田からの産出は急激に減少しつつあり、技術と資本を投入する必要がある。もう一つは、メキシコが再び政策を見直して、投資家の信頼を裏切ってはならないということだ。いまや、エネルギー市場を改革する歴史的チャンスであり、投資を集め、生産を増やし、生活レベルを改善する必要がある。

 

パトロン ラテンアメリカのエネルギー需要はどうだろうか。この地域が世界の需要を牽引するようになる可能性はあるだろうか。

 

ビロル 経済成長もあって、ラテンアメリカの需要は強い。ラテンアメリカが需要を牽引する地域の一つになると考えてもおかしくはない。中国のエネルギー需要は鈍化し、一方インドの需要が拡大している。中レベルながらも、ラテンアメリカは需要を牽引していけるかもしれない。

 

質問者 インドのエネルギーセクターの未来及び温暖化対策について、考えを聞かせてもらえるだろうか。

 

ビロル 現在、インドの3億人が電力へのアクセスをもっていない。そしてインドにとって石炭は重要なエネルギー資源の一つだ。2020年にはインドは世界で2番目に大きな石炭の輸入国、消費国になると考えられる。理由は価格が安いからだ。インドに限らず、アジアで液化天然ガス(LNG)よりも石炭が選択されるのは価格が安いからだ。

アジアで1キロワットの電力を生産するのに天然ガスを使用すれば、石炭を使用した場合の2・1倍の価格になる、10―20%の違いではない。2.1倍だ。こうして、温暖化対策の規制がなければ、資源価格の安さゆえに、石炭火力発電所が作られる。

極端に貧しく、温暖化対策規制をもたない国に対して、われわれがあえてコストのかかるオプションをとるように強制することはできない。だが、インドはそうではない。今後、インドは天然ガスへとエネルギー生産をシフトしていくと私は期待している。国内のシェールガス資源の開発にも、LNG輸入にもインドは前向きだ。さらに、原子力発電も推進しようとしている。それでも、当面は石炭がインドの主要なエネルギー資源であり続けるとしても、私は驚かない。この意味では、米中の排出量削減枠組にインドを参加させる必要があるだろう。

 

質問者 石油輸出国機構(OPEC)は原油価格の低下を前にしても、協調行動をとれなかった。これまで供給と価格を左右してきたOPECの今後の役割はどうなっていくのだろうか。

 

ビロル 今後も中東が世界の石油市場にとって極めて重要な存在であることに変わりはない。だが、現在の中東の不安定な状況がグローバル市場にどのような影響を与えるか、産油国が投資を魅了できるかどうかを考える必要がある。

イラクについて少し言及したい。われわれは、中東における原油の生産増のほぼ半分はイラクが担うと考えている。その地質ゆえに、イラク石油は1バレル5ドル以下と、とても安価に原油を生産できる。唯一の問題は政治的安定、治安が確保されていないことだ。

だがグッドニュースもある。バグダッドとクルド自治政府が国内の原油生産と輸出の方法をめぐって歩み寄りつつある。これはイラクに新政権が誕生して以後の、非常に好ましい展開だろう。

パトロン だが、今年のイラクの原油生産量予測は現地情勢ゆえに見直しが必要だ。

ビロル その通り。投資が不足していることを織り込んで、予測を下方修正して1日当たり100万バレルとした。数カ月に見直すとすれば、さらに下方修正が必要になるだろう。

 

 

質問者 アメリカのライトタイトオイル(シェールオイル)の今後をどうみているだろうか。金利は低く、資金調達も容易なのに、生産の勢いが鈍化しているのはどうしてなのか。

 

ビロル われわれIEAは、価格がノーマルなレベルにあり、企業が環境規制を守るとして、シェールオイルは2020年あたりまで増産が続き、その後、地質上の制約から生産の伸び率は鈍化するとみている。シェール資源の発見が永遠に続くとは考えていない。

現在の低い原油価格が(投資を低調にし)、シェールオイルの生産を抑え込むと考えられる。シェールオイルの投資サイクルは通常の原油資源と比べて短い。2015年には投資計画の見直しが行われるだろうし、価格が現状のままなら、その投資規模はおそらく10%程度小さくなり、その余波が2016年以降に現れてくる。原油価格がシェールオイルへの投資、そして生産に影響を与える。

 

パトロン 主要な障害は価格だが、長期的には地質がネックになる。次に代替燃料自動車について、コメントしてもらえるだろうか

 

 

ビロル 第1のオプションとして電気自動車があるが、私は電気自動車の未来を楽観していない。多くの国が電気自動車の開発と推進に向けて大がかりなプログラムをもっており、それぞれが電気自動車の普及目標を設定している。アメリカ、中国、ヨーロッパ、日本とあらゆる国がターゲットを定めている。

だが仮に各国政府のターゲットが満たされたとしても、電気自動車のシェアは全体の1%に達しない。これではまったく無意味だ。現在のプログラムやアジェンダをからみて、優遇策や非常に大きな(技術的)ブレイクスルーによって電気自動車の経済性が変化しない限り、電気自動車が主流になることはないだろう。

ハイブリッドカーやバイオ燃料車というオプションも、もちろんある。だが現状では99%の車は内燃型エンジンの伝統的な車だ。今後25年という時間が経過しても、伝統的な車が依然として主流であり続けると思う。

もう一つ考えるべきポイントがある。交通の手段として多くの人は乗用車を考えるが、燃料需要からみると、トラックによる需要がかなり大きくなっている。現在、世界で販売される新車4台のうちの3台は燃費基準を満たしている。オバマ政権は(企業平均)燃費基準を導入し、ヨーロッパも日本も、そして現在では中国やインドも燃費基準を導入している。

だが、トラックにはまともな基準は導入されていない。われわれIEAの試算によれば、世界の原油需要の伸びの3分の1はアジアのトラックによる需要で説明できる。したがって、乗用車だけでなく、トラックにも燃費基準を適用する必要がある。●

 

(C) Copyright 2015 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

Page Top