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高齢社会が変える日本経済と外交

ミルトン・エズラッティ ロードアベットパートナー(論文発表当時)

Japan's Aging Economics

Milton Ezrati ノムラ・キャピタル・マネジメントのチーフ・インヴェストメント・オフィサー、マニュファクチャーズ・ハノーバーズ・トラストの調査部長を経て、投資顧問会社、ロードアベットのパートナー(肩書は論文発表当時)。

1997年6月号掲載論文

日本の人口高齢化は、現役労働力の生産能力の低下と増大する年金生活者の消費需要の不均衡を軸に広範な国内緊張を引き起こし、これが日本の対外政策にも余波を及ぼすだろう。現実には「輸出から輸入へ」と貿易パターンが変化し、高い貯蓄率は低下し、貿易黒字は赤字へと向かい、日本企業の外国への進出と一方での国内市場の自由化をいっそう促すことになる。そして、日本企業の外国への生産拠点の移転によって、国の需要を満たす「大切な富」の多くが、外国へと流出すれば、「より積極的で明確な外交政策の実施」が不可欠となる。日本とアジア諸国とのつながりがより複雑になり特別化していけば、アメリカの安全保障利益とは必ずしも重なり合わない日本独自の利益認識が高まり、いずれ、日本は「外交と、そして必要なら、軍事領域でも、独自路線をとるようになるかもしれない」

  • 人口高齢化と生活レベルの低下 <一部公開>
  • 産業の空洞化と貿易収支の悪化
  • すでに始まっている構造変化
  • 富を守るための積極外交
  • 日本の変化を秩序安定へと導くには

<人口高齢化と生活レベルの低下>

日本の人口高齢化は、他のいかなる国よりも速いペースで進んでいる。現役労働者人口と比べた引退世代人口のかつてない増大という問題を考慮して、日本政府が財政危機、あるいはさらに深刻な事態に陥るのを何とか回避するつもりなら、現行システムの抜本的な変革を断行せざるを得ない。こうした人口構成上の変化は、日本の高い貯蓄率を低下させ、自慢の貿易黒字を赤字へと向かわせるだろう。より多くの企業が外国に生産拠点を移し、国内市場の自由化が促され、より積極的で明確な外交政策を遂行する必要が出てくる。最終的には、こうした日本の変化が東アジアでのバランス・オブ・パワーを大きく変貌させることになるだろう。

日本の人口高齢化は、出生率の低下と平均寿命の延びがそのおもな原因だ。出生率の低下ゆえに、本来であれば引退する人々に代わって市場に参入すべき若い労働力が不足し始めている。平均寿命の延びによって、ますます増大する一方の引退世代人口が、減少の一途をたどる現役労働力に依存し始めている。すべての先進工業諸国が似たような問題に直面しているとはいえ、外国からの若い労働力の流入が期待できない日本は、他の諸国とは比べものにならないほどに深刻な状況に直面している。

厚生省によれば、5年も経たぬうちにこの国の人口構成は(引退者の保養地として有名な)フロリダのような状況となり、2015年までには市民の4人に1人が65歳以上になると予測されている。政府によれば、2010年頃には年金生活者を支える労働者の比率が現在の半分以下に落ち込み、2・5人の現役労働者で1人の年金生活者を支えることになると予測されている。しかも、すべての就労年齢にある人々が働くことを選択し、雇用を確保できるわけではないため、日本社会は早ければ21世紀初頭に、1人の年金生活者を2人未満の労働者で支えなければならない事態に陥るかもしれない。

年金生活者の割合がこれほど高くなるのは先例がなく、その重みは日本社会に大きくのしかかってくる。膨大な引退世代人口のため、国はその資源のますます多くを高齢者医療につぎ込まざる得なくなるだろう。

もっと大枠でみれば、引退した人々が、一般的な意味での生産活動をやめた後も消費を続けると予想されるため、社会的緊張が高まってくるはずだ。豊かに積み立てられた年金、蓄えた貯蓄、公的補助の何であれ、引退した人々がそれらを頼みに消費するモノを、現役の労働力がつくり出さなければならない。つまり、これは縮小していく一方の労働力が、自分と子ども、そして日本の社会習慣上家庭に入っている配偶者だけでなく、ますます増大していく大規模な引退人口を支えていかなければならないことを意味する。たとえ労働生産性が急速に上昇しても、引退世代の需要によってその多くは吸収されてしまうだろう。

年金生活者を現役世代が効率よく支えなければならなくなるが、この重荷は、「年老いた両親の面倒を子どもがみる」という日本の伝統的な義務を上回るものだ。現役労働者の重荷は全国的に一律であるため、特定の集団がそれを他の集団へと押しつけることもできない。その影響は、たんに社会保障負担の変化にとどまらない、経済の広い範囲に及ぶだろう。総所得という点からみれば、人口構成に由来するこの問題は、最終的に平均的な日本の生活レベルを18%程度引き下げることになるだろう。

この生活レベルの低下を金額的に換算すると、日本の年間貯蓄、伝統的に大きな日本の年間輸出、1980年代バブル期の4年分の経済成長、成長が鈍化した1990年代の経済成長を上回る規模に達すると考えられる。生産性の向上によってこの急降下がいくぶん緩和されるとしても、日本人がこれまで慣れ親しんできた生活レベルとはおよそかけ離れたものへと後退していくだろう。

揺り戻しなしに、こうした緊張に耐えうる国などどこにもない。これがアメリカなら、数百万人を貧困ライン以下の生活に突き落とし、たとえ暴動や社会的混乱が起きないとしても、それに近い状況へと陥るのは避けられない。日本人は一般にアメリカ人に比べて、不満を抱いてもあまり具体的行動を起こさないが、この圧力に派生する問題を緩和させるための政策が必要になる。

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