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Review Essay
帝国の台頭と衰退を考える

ポール・ケネディ/イエール大学歴史学教授

The Distant Horizon

Paul Kennedy イエール大学歴史学教授・同大学国際安全保障研究所所長。『大国の興亡』を含む19の著書を発表。現在、第二次世界大戦の戦略的な歴史書を執筆中。

2008年7.8月号掲載論文

チュアは、帝国としての基盤を固めた帝国が、その後何世代あるいは数世紀にわたって繁栄し続けることができたのはなぜかというテーマに焦点を当てている。その答えは異分子の取り込み、より穏やかな言い方をすれば、帝国が内に抱える異分子への寛容を示したことにある。……次期大統領が現在の路線を変えられるかどうか、彼女は判断を下していないが、チュアが明確に指摘しているのは、政治的・宗教的な寛容と文化的な理解を持つことが、非常に重要だということだ。この点は国際社会におけるパワー、そしてアメリカというパワーの未来にとっても興味深い意味合いを持つ。

  • 過去に意味合いを持たせる壮大な試み
  • 台頭と衰退
  • 寛大な覇権

<過去に意味合いを持たせる壮大な試み>

著名な経済史家のデビッド・ランデスは、20年前にニューリパブリック誌で、「歴史の大潮流」というタイトルの書評記事を発表している。彼はこの書評記事で、ウィリアム・マクニールの偉大な歴史書『戦争の世界史――技術と軍隊と社会』、そして、より凡庸な拙著『大国の興亡』を取り上げている。
ランデスは「歴史の大潮流」という言葉を用いつつも、いわゆる歴史的大著を取り上げるつもりはなかったようだ。ここでいう大著とは、12巻に及ぶアーノルド・トインビーの『歴史の研究』、15巻から成るサミュエル・モリソンの『第二次世界大戦におけるアメリカ海軍作戦史』、もしくは全部で何巻あるのか数えるのさえ困難なジョゼフ・ニーダムの『中国の科学と文明』などの大作のことだ。
もちろん、「大」潮流という言葉を用いつつも、1960年代に華々しく台頭し、それまでの解釈に異議を唱えた「ニューレフト=修正主義学派」の研究が、歴史の大きな流れを扱った著作に見劣りすると彼が主張したかったわけではないし、プロバンスの村の生活、北イタリアの製粉業者、ランカシャー地方の労働組合のそれぞれの営みをつづった歴史に異論があったわけでもない。
むしろ、ランデスの書評の意図は、遠大な一つのテーマを取り上げ、その詳細と格闘し、解釈を示して読者に伝えることで、特定のテーマに歴史的な意味合いを持たせるような著作に光を当てること、別の言い方をすれば、異なる範疇、異なるレベルでの歴史的記述を紹介することにあったようだ。
ランデス自身の研究の足跡も、『銀行家とパシャ――エジプトにおける国際金融と経済帝国主義(Bankers and Pashas: International Finance and Economic Imperialism in Egypt)』に始まり、『解き放たれたプロメテウス――1750年から現代までのヨーロッパにおける技術的変化と産業開発(The Unbound Prometheus: Technological Change and Industrial Development in Western Europe From 1750 to the Present)』、そして、『「強国」論――富と覇権の世界史(The Wealth and Poverty of Nations: Why Some Are So Rich and Some So Poor)』と、そのテーマは時を追うごとに遠大で壮大なものへと変化している。
ランデスは傑出した歴史家であり、われわれのような歴史家の多くは、一定の距離をもって彼の後追いをするのがやっとだ。しかし、最近出版され、ここで取り上げる3冊の本は「歴史の大潮流」という課題にそれぞれの方法で真摯に取り組んでいる。ウィリアム・バーンスタインの『卓越した取引』、ストローブ・タルボットの『偉大なる実験』、エイミー・チュアの『帝国の実相』はいずれも素晴らしい内容の著作であり、特にチュアの作品はいずれ古典とみなされるようになる可能性を秘めている。
いずれも幅広い見識に支えられた実証主義的な意欲作であり、知的なリスクをも恐れない解釈を示している。歴史の教科書とは違って、世界史に造詣が深い人々によって読まれ、より評価され、適切に批判される類の著作だろう。とはいえ、人類のより大きな歴史の枠組みに興味を持つ一般の読者も十分に魅了できる内容となっている。実際、歴史の大きな流れに意味合いを持たせる3人それぞれの試みに、人々は大いに興味をそそられるはずだ。
「サウンドバイト時代」の現在、街行く人々が歩きながら携帯電話で連絡を取り合うような忌まわしいまでに慌ただしい日常のなか、数世紀前の出来事と今を関連づけるために思いをめぐらせている人が、少数ながらもいることはわれわれを安心させる。ランデスは正しかった。いつの時代にも、過去の出来事に意味合いを持たせるという人間の基本的な欲求を満たすための空間として、著作を通じた思索の場が存在する。

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