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アメリカのリーダーシップを刷新する

バラク・オバマ/米民主党予備選大統領候補

Renewing American Leadership

Barack Obama

2007年7月号掲載論文

「アメリカだけでは21世紀型の脅威に対処できないし、また世界もアメリカ抜きではそうした脅威に対処していけない。われわれは孤立主義へと逃げ込むべきではないし、傲慢な態度で世界を押さえつけようとすべきでもない。われわれは行動を起こし、模範を示すことで、世界を主導していかなければならない。……アメリカ人の安全と繁栄は、アメリカの国境の外側に住む人々の安全と繁栄とますます一体化してきている。アメリカの使命は、『世界が安全保障と人間性を共有している』という理解に根ざしたグローバルなリーダーシップを提供することにほかならない。アメリカの時代はまだ終わっていない。だが、新たなパワーを確立しなければならない。アメリカのパワーが衰退に向けて低下しているとみなすのは、世界におけるアメリカの任務と歴史的目的を無視することになる。私が大統領になれば、就任した当日からそうした任務と目的の刷新に取り組んでいく」

  • アメリカの新しいリーダーシップ 部分公開
  • イラクからの撤退を  部分公開
  • パレスチナ、イラン問題への路線
  • 米軍の再活性化を
  • 核拡散をいかに阻止するか
  • グローバルなテロとの戦い
  • 国際的パートナーシップの再構築
  • 公正、安全、民主的な社会構築を
  • アメリカを再生するには

<アメリカの新しいリーダーシップ>
20世紀のアメリカの指導者が、大きな危機を前にどのような行動をみせたかを思い起こす必要がある。フランクリン・ルーズベルト、ハリー・トルーマン、そしてジョン・F・ケネディは、アメリカ市民の安全を守るとともに、次の世代の機会を広げるような制度を構築し、対策を講じた。国境を問わず、世界の数十億の人々が望む自由のために立ち上がり、脅威に立ち向かった。行動を起こし、模範を示すことで、彼らは世界を主導し、危機から救い出したのだ。

ルーズベルトは、史上例のない強大な軍事力を整備するとともに、(言論の自由、宗教の自由、欠乏からの自由、恐怖からの自由という)四つの自由を表明することで、ファシズムとの戦いにおける重要な大義を示した。一方、トルーマンはソビエトの脅威に対抗するための新たな枠組みをつくりあげた。軍事力だけでなく、(欧州復興のための)マーシャル・プランを実施し、自由主義陣営の平和と繁栄の維持を助けるための枠組みを構築した。植民地主義が崩壊し、ソビエトがアメリカに対する核のパリティー(均衡)を実現すると、ケネディは軍事ドクトリンを近代化し、通常戦力を強化するとともに、平和部隊(ピース・コープ)を創設し、南米諸国と「進歩のための同盟」を組織した。このように彼らは、アメリカが最善の社会を実現していることを世界の人々に示すために、アメリカの力を用いてきた。

いまやわれわれは、こうした創造的なビジョンを備えたリーダーシップを再び必要としている。21世紀にある現在、われわれが直面しているのは、これまで同様に危険なだけでなく、より複雑な脅威である。

そこには大量破壊兵器(WMD)の脅威、社会から疎外され、正義がないと絶望し、テロによる殺人というニヒリズムで状況に対処しようとするグローバルなテロリストの脅威、テロリストと同盟を結ぶならず者国家の脅威、アメリカ、そして、リベラルな民主主義の国際的基盤の双方に挑戦してくるかもしれない国の台頭という脅威もある。また、自国の領土を管理する力を持たず、民衆に社会サービスを与える力のない弱体な国家がつくりだす脅威もあるし、新たな疾病を蔓延させ、より破壊的な自然災害をもたらし、熾烈な紛争を誘発する恐れのある地球温暖化という脅威もある。

だが、こうした脅威の数の多さ、その複雑な連鎖を前にして、何も悲観主義に陥る必要はない。むしろ、行動を起こす決意を持たなければならない。これらの脅威に対処していくには、新しいビジョンに支えられた21世紀型のリーダーシップが必要になる。それは、過去の教訓を踏まえつつも、時代遅れの思想にとらわれないリーダーシップだ。

残念ながら、ブッシュ政権は9・11という非通常型の攻撃に対して、過去における通常型の思考で対処し、この問題の本質を、軍事的な手法でなんとか対抗できる、国家を単位とする問題と誤認してしまった。ブッシュ政権は、この悲劇的なまでに間違った思い込みゆえに、国際社会で承認されるはずもなく、戦うべきでもなかったイラク戦争へとのめり込んでいった。こうして、イラク戦争、そして、アブグレイブ刑務所での捕虜の虐待事件が起き、世界はアメリカの目的と原則への信頼をますます失ってしまった。

米軍兵士数千人が犠牲になり、数十億ドルの資金を投入した揚げ句の混乱を前に、アメリカ人の多くは内向きとなり、世界におけるアメリカのリーダーシップを譲り渡しても仕方がないと判断しかねない情勢にある。

だが、間違いを犯してはならない。アメリカだけでは21世紀型の脅威に対処できないし、また世界もアメリカ抜きではそうした脅威に対処していけない。われわれは孤立主義へと逃げ込むべきではないし、傲慢な態度で世界を押さえつけようとすべきでもない。われわれは行動を起こし、模範を示すことで、世界を主導していかなければならない。

そのようなリーダーシップを発揮するには、いまや現実との関連がますます高くなってきているルーズベルト、トルーマン、ケネディの基本的洞察をいまに復活させる必要がある。

アメリカ人の安全と繁栄は、アメリカの国境の外側に住む人々の安全と繁栄とますます一体化してきている。アメリカの使命は、「世界が安全保障と人間性を共有している」という理解に根ざしたグローバルなリーダーシップを提供することにほかならない。

アメリカの時代はまだ終わっていない。だが、新たなパワーを確立しなければならない。アメリカのパワーが衰退に向けて低下しているとみなすのは、世界におけるアメリカの任務と歴史的目的を無視することになる。私が大統領になれば、就任した当日からそうした任務と目的の刷新に取り組んでいく。

 

<イラクからの撤退を>

世界におけるアメリカのリーダーシップを刷新するには、イラク戦争を責任ある形で終わらせ、より広範な中東の問題に焦点を合わせなければならない。イラク戦争は、9・11でわれわれに襲いかかってきたテロとの戦いという路線からの逸脱だったし、アメリカの文民指導者が戦争の遂行をうまく管理できなかったため、イラクとの戦争を選ぶという戦略的大失策の帰結をますます深刻なものにしてしまった。すでに、3300人を超える米兵が犠牲になり、このほかにも直接間接に数千人が負傷している。

われわれの兵士たちは、膨大な犠牲を引き受けつつ、見事に戦闘を遂行している。しかし、シーア派とスンニ派の内戦状況を軍事的に解決する方法はない。文民指導者はこうしたイラクの痛ましい現実を正直に認めるべきだ。

イラクをましな状態にして撤退するには、紛争勢力が政治的妥結策を見いだすように圧力をかけるしかなく、そうした圧力をうまくつくりだすには、「イラク研究グループ」報告が指摘したように、2008年3月31日までにすべての戦闘旅団を撤退させることを目標に据えた、段階的な撤退を開始しなければならない。イラク政府がすでにコミットしている治安、政治、経済上の一定基準(ベンチマーク)を達成できるようなら、この再配備計画を一時的に停止することも考えるべきだろう。しかし、イラクに本当の平和と安定をもたらせるのは、イラクの指導者だけであることを認識しなければならない。

同時にわれわれは、イラクにおける内戦を終わらせ、内戦が地域的に拡大していくのを阻止し、イラク民衆が置かれている窮状を緩和する交渉を仲介するための、地域的、国際的な外交イニシアチブを立ち上げるべきだ。われわれの試みへの信頼を高めるために、アメリカはイラクに恒久的な基地を求めないことを表明すべきだろう。ただし、イラクにおけるアメリカの人員と施設を守り、イラクの治安部隊を訓練し、アルカイダの掃討作戦を続けるために、イラクの近隣地域に最低限の戦力を前方展開しておく必要がある。

イラクが混迷のなかにあるために、中東地域における他の問題に取り組むことが非常に難しくなっているだけでなく、その危険度を大幅に引き上げてしまっている。逆に言えば、イラクにおける現在のダイナミクスを変化させることができれば、ブッシュ政権が長年放置し、いまや泥沼状態にあるイスラエル・パレスチナ問題にも関心を向け、影響力を行使できるようになる。

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