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恐慌型経済への回帰

ポール・クルーグマン マサチューセッツ工科大学教授(論文発表当時)

The Return of Depression Economics

Paul Krugman マサチューセッツ工科大学経済学教授。著作に"Peddling Prosperity: Economic Sense and Nonsense in the Age of Diminished Expectation"がある(肩書きは論文発表当時、2008年にノーベル経済学賞を受賞した)。

1999年2月号掲載論文

いまや、途上国はホットマネーの脅威にさらされ、成熟した経済は「流動性の罠」という危機に直面している。実際、金利ゼロでも消費者が貯蓄に走り、企業も投資しないとすれば、一体どうなるのか。これこそが懸念される「流動性の罠」だ。日本は古典的な流動性の罠にはまり、もはや金利ゼロでも十分ではない。うまく財政政策を実施できなかった背景には、高齢社会その他さまざまな観点から財政赤字を膨らますことに対する懸念があった。だが、日本に限らず、世界全体が「古風な資本主義の利点を今に呼び起こす際に、その欠陥の一部、とくに不安定化や長引く経済不況への脆さも復活させてしまった」。改革によってわれわれが手にした「資本の自由化、国内金融市場の自由化、物価安定メカニズムの確立、財政均衡を重視する規律」という美徳は、一方で政策上の制約や落とし穴を秘めていた。「早晩われわれは時計の針を少しばかり巻き戻さなければならなくなる」。今や1930年代の気配が漂い始めている。われわれは恐慌型経済の教訓を今いちど再検証する必要がある。

  • 忍び寄る1930年代の気配
  • 神の見えざる手と金融当局の見える手
  • 「調和しない三位一体」
  • 財政・金融政策でリセッションにどう対処するか
  • 日本はなぜ「流動性の罠」にはまったのか
  • 他の先進国も流動性の罠から逃れられない?
  • なぜ今なのか
  • 打開策はあるか

<忍び寄る1930年代の気配>

1931年春、オーストリア最大の銀行、クレジット・アンシュタルトは破綻の瀬戸際にあった。オーストリア政府が状況を傍観し、この銀行を破綻させるなどもってのほかだった。とはいえ、新たに大量の紙幣を増刷して銀行を救済すれば、急速な資本逃避が起きて、オーストリアの金準備と外貨準備は瞬く間に底をついてしまう。当然、金本位制から離脱して、変動相場制へと移行することがもっとも適切な処方箋だった。

だが、この処方箋を飲むのは現実には不可能だった。そのようなことをすれば、通貨価値が暴落して外貨建て債務の重荷が大きくなる。しかも、第一次世界大戦直後にこの国で起きた超インフレの記憶がいまだ鮮明だっただけに、政府と国の信用そのものが大きく傷つけられる危険があった。オーストリアは近隣諸国や当時設立された国際決済銀行(BIS)に支援を求めた。しかし、提示された支援策はあまりに小さく、あまりに遅かった(too little, too late)。結局、袋小路に追い込まれた政府は資本管理という手段に訴えた。

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