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米国に関する論文

多極世界という神話
―― 多極構造でも二極構造でもない世界

2023年6月号

スティーブン・G・ブルックス ダートマスカレッジ教授(政治学)
ウィリアム・C・ウォルフォース ダートマスカレッジ教授(政治学)

米中が二大国であることは間違いないが、多極構造を成立させるには、ほぼパワー面で互角の大国が、少なくとも、もう一つ存在しなければならない。だが、フランス、ドイツ、インド、日本、ロシア、イギリスなど、3位に入る可能性のある国は、いずれも米中と互角のパワーをもつ国とは言えない。中ロ関係がアップグレードされても、この二カ国は地域的軍事大国に過ぎない。地域的なバランシングが可能な二つの大国が一緒になっても、グローバルなバランシングはできない。そのためには、ロシアと中国がともにもっていない、そして、すぐにはもつことができない軍事力が必要になる。現状は、部分的ながらも、依然としてアメリカの一極支配構造にある。

中ロ関係の真実
―― 水面下で進む包括的パートナーシップ

2023年6月号

アレクサンダー・ガブエフ カーネギー国際平和財団 ロシアユーラシア・センター所長

ウクライナ戦争と欧米の対ロ制裁は、ロシアの経済的・技術的な対中依存をかつてないレベルへ引き上げている。軍事であれ、金融であれ、両国はかなりの協力関係にある。実際、習近平とプーチンが3月の会談で新たな軍事協定について折り合いをつけたと考える理由は十分にある。中国はロシアに対するさまざまな手立てをもっているが、対米関係の軋轢ゆえに、中国にとってロシアは「必要不可欠なジュニアパートナー」でもある。中国に、これほど多くの恩恵をもたらしてくれる友好国もない。地球上もっともパワフルなアメリカとの長期的な対立に備えつつあるだけに、習近平は、あらゆる支援を必要としている。

ロシアは何を間違えたのか
―― そして、モスクワが失敗から学べば

2023年5月号

ダラ・マシコット ランド研究所 上級政策研究員

ロシアにとって重要な問題のいくつかは、モスクワには制御できないものだ。ロシアに対抗していくウクライナ人の決意はさらに堅固になっており、この決意を揺るがすことはできない。ロシアには欧米の武器や情報のウクライナへの流入を阻止する意思も能力もない。つまり、ウクライナの決意と欧米の支援がある限り、モスクワが、ウクライナを当初考えていたような傀儡国家にすることはできない。なぜロシアは優位を維持できず、なぜ動けなくなり、主要都市から締め出され、守勢に立たされたのか。だが、ロシア軍は、完全に無能だったわけでも、学習能力がなかったわけでもない。戦略調整を続け、南・東部の占領地支配を固めれば、最終的には、窮地を脱して勝利をつかめる可能性もある。

戦争発言の真意
―― 習近平発言をどう受け止めるべきか

2023年5月号

ジョン・ポンフレット ワシントンポスト紙 前北京支局長
マット・ポッティンジャー 元米大統領副補佐官

2022年12月以降、中国政府は、北京、福建、湖北、湖南を含む各地で有事動員センターを相次いで開設している。国営メディアによると、台湾と海峡を隔てた福建省の各都市では、防空壕と少なくとも一つの「戦時救急病院」の建設や整備が始められている。しかも、習近平は、中華民族の偉大なる復興の「本質」は「祖国の統一」だと明言している。台湾の編入と「中国民族の偉大なる復興」の相関性を示唆しつつも、彼が、かくも明確にその関連を示したことはなかった。欧米は習近平の発言を真剣に受け止めるべきだろう。彼は、台湾を統合するためなら、武力行使も辞さないつもりだ。

反米パートナーシップのリアリティ
―― 中露関係をどう評価するか

2023年5月号

トーマス・グラハム 米外交問題特別フェロー ロシア・ユーラシア担当

2023年3月、中露の指導者は「ルールを基盤とする米主導の国際秩序を覆して、多極化を模索する」意図を確認しつつも、習近平はロシアに兵器を提供するとは明言しなかった。現実には、ウクライナ戦争の軍事的膠着状態は北京に恩恵をもたらしている。ウクライナ侵略は、アメリカの関心と資源をインド太平洋地域から遠ざけ、ロシアは経済的生命線を中国に頼らざるを得なくなっている。しかも、重要な天然資源、特に石油やガスをロシアから安価に入手できる。この計算を前提にしたのか、今回も、習近平はロシアが十分に戦いを継続できる道徳的・物的支援を約束しつつも、ロシアが優位を得るのに必要な支援には踏み込まなかった。・・・

中国と中東
―― 中東における米中の役割

2023年5月号

トリタ・パルシ クインシー研究所上席副会長
ハリド・アルジャブリ 亡命サウジ人心臓専門医

2023年3月のイラン・サウジ国交正常化合意は、中東全域に前向きな衝撃を与えるだろう。中東での外交的仲介をめぐって、今回、中国が主導的役割を果たしたことは注目に値する。ワシントンの戦略的間違いが、イランとサウジの双方に信頼される数少ない大国の一つとして中国の台頭を促した。カーター・ドクトリンを封印したトランプがサウジをイランとの外交に向かわせ、バイデンの人権外交が、中東における仲介役としての中国の台頭に道を開いた。中国の安定性は、イラン、イスラエル、サウジと良好な関係を維持し、この三国間の争いに完全に中立を保っていることによって生まれている。・・・

まかり通る不正とポリクライシス
―― インピュニティで世界を捉えると

2023年4月号

デービッド・ミリバンド 元イギリス外相

ロシアのウクライナ戦争から世界的な食糧不足、気候変動に至るまでの、多層的な脅威を前に、いまや「ポリクライシス(複合危機)」という表現をよく耳にする。問題の一つは、インピュニティ(不正が咎められないこと)が、現在のグローバルな危険を拡大させ、その余波があらゆる人に及んでいることだ。そして、ポリクライシスの原因と対応を考えるとき、民主主義対独裁主義、北対南、右対左といった対立構図の議論はあまり役に立たない。むしろ、グローバルな課題を、民主主義と独裁主義の闘いではなく、「インピュニティ」対「説明責任」の闘いとして位置づけ直せば、グローバルな聴衆に対して、問題をもっと包括的に語りかけることができる。インピュニティの指標には、紛争と暴力、人権侵害、説明責任を果たさない統治、経済的搾取、環境破壊という五つの指標がある。

大国間競争とドルの命運
―― 制裁と地政学とドル秩序の未来

2023年4月号

カーラ・ノーロフ トロント大学教授(政治学)

中ロは、アメリカによる経済制裁の痛みから逃れようと、自国通貨での決済を増やして、ドルシステムへの対抗バランスを形成しようと試みている。一方、安全保障の視点からドル支配体制の強化を望む国もある。不安定な国際環境のなか、各国は「友好国との地政学的経済関係」を重視しており、これが、世界最大の安全保障ネットワークの中枢に位置するアメリカとその通貨であるドルに新たな優位をもたらしている。もちろん、ワシントンが経済制裁を乱用すれば、ドルに代わる通貨を模索する各国の動機が強化される。アメリカはリベラルな国際秩序の公共財を強化する形で経済外交を展開しなければならない。主要な同盟国や国際社会の多くを離反させれば、アメリカはドル支配体制を維持できなくなる。

モスクワの大いなる幻想
―― ウクライナ戦争とプーチン体制の本質

2023年4月号

フィオナ・ヒル ブルッキングス研究所 シニアフェロー
アンジェラ・ステント ジョージタウン大学名誉教授

ロシアは国際的に孤立してはいない。グローバルサウスでは、この戦争についてロシアが語るストーリーが支持を集め、多くの場合、欧米よりも、プーチンのほうが大きな影響力をもっている。しかし、今回の戦争で、ロシア側の死傷者は20万人に迫っている。戦争に反対か、徴兵を避けるためにロシアを出国した人もこの1年で推定100万人に達するとされる。それでも、プーチンが戦争を決意したら、その行動を抑止できる国やアクターはほとんど存在しない。ウクライナとウクライナを支持する国々は、ロシアがこの戦争に勝利すれば、プーチンの膨張主義がウクライナ国境を越えて拡大することを理解し、憂慮している。そしてプーチンは、いまもこの戦争に勝利できると信じている。・・・

イノベーション・パワー
―― テクノロジーが地政学の未来を決める

2023年4月号

エリック・シュミット 元グーグルCEO

イノベーション・パワーとは、新技術を発明し、採用し、適応させる能力のことで、国家のハードパワー、ソフトパワーの双方に貢献する。大国間競争の結果を左右するのも、「より迅速かつ適切に技術革新を実現する能力」に他ならない。現状では、アメリカがイノベーション・パワーをリードしているが、多くの分野で中国が追い上げてきており、すでに先行している分野もある。ワシントンは、イノベーションを促す条件を整え、技術革新の好循環を作り出すために必要とされるツールと人材に投資しなければならない。「イノベーションか、さもなければ死か」。シリコンバレーでよく使われるこのフレーズは、ビジネスだけでなく、地政学についても当てはまる。

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