Classic Selection 2009
台頭する中印とインド洋の時代
――21世紀の鍵を握る海洋

ロバート・D・カプラン アトランティック・マンスリー誌記者

Center Stage for the Twenty-First Century : Power Plays in the Indian Ocean

Robert D. Kaplan アメリカのジャーナリストで、アトランティック・マンスリー誌のナショナル・コレスポンデント。ワシントンにあるニューアメリカン・セキュリティのシニア・フェローも兼務している。冷戦後の1994年に同誌で冷戦後の特質を「カミング・アナキー(来るべき無秩序)」と位置づけるエッセーを発表し、世界的に大きな注目を集めた。現在、インド洋に関する著作を執筆中。米海軍兵学校で、国家安全保障の客員教授を務めた経験もある。

2009年3月号掲載論文

世界の人口の75%が沿岸から200マイル以内の陸地で生活していることを思えば、世界の軍事的未来は遠大な海域で活動する能力をもつ海軍力(と空軍力)によって左右される。しかも、海軍の場合、空・陸軍以上に経済利益、貿易システムを守る上で大きな役割を果たせる。……1890年、アメリカの軍事理論家のアルフレッド・セイヤー・マハンは「海上権力史論」で、「商船を守る海軍力が世界の歴史を形作る大きな要因になる」と指摘したが、現在、中国とインドの海軍戦略家は、マハンの著作をむさぼるように読んでいる。……いまやインドと中国のインド洋をめぐるライバル競争は、あたかも海洋版「グレート・ゲーム」の様相を呈している。

  • 21世紀を左右する海洋地図
  • なぜ21世紀はインド洋の時代なのか
  • 中印の資源需要とインド洋
  • 影響力の拡大を模索するインド
  • 「マラッカ・ジレンマ」と中国の「真珠の数珠」戦略
  • 中印の地政学的抗争
  • インド洋の戦略バランスをめぐる攻防
  • 米海軍の役割
  • アメリカは連帯の主導役に徹するべきだ

<21世紀を左右する海洋地図>

善し悪しはともかく、「冷戦」、「文明の衝突」といった表現は特定の時代の様相を理解するのに役に立つ重要なキーワードだった。似たようなことは地図についても言える。適切な地図があれば、世界政治における重要なトレンドを空間として把握し、洞察を得ることもできる。これが真実であることは、20世紀を理解するにはヨーロッパの地図をうまく把握する必要があったことからも明らかだろう。

最近では技術の進展、経済的統合によって「グローバルな思考」が喚起されているが、イラクやパキスタンのような一部の地域が他の地域よりも大きな関心を集めていることには変わりがない。そして、これらの国の国境線が不安定であるがゆえに、依然として地勢、地理によって政治が左右されている。

世界政治の今後にとって、もっとも重要な地域や海洋はどこだろうか。

二つの海洋に挟まれているという地理的特質ゆえに、アメリカは依然として大西洋と太平洋を重視している。たしかに、第二次世界大戦と冷戦期にはこうした二つの海洋を重視するのが当時の現実からみても妥当だった。ナチスドイツ、日本帝国、ソビエト、共産中国はいずれも、これらの二つの海洋のどちらかを重視していたからだ。

どの海洋を重視するかは、どのような地図を採用するかにも反映されていた。メルカトル図法の地図では、いわゆる西半球が中心に描かれ、インド洋は(地図の東側に追いやられるか)ともすれば、地図の端で分断されていることもあった。しかし、最近のソマリア沖での海賊の活動、2008年秋にムンバイで起きた同時テロの悲劇からもわかるように、世界で3番目に大きな海洋であるインド洋は、すでに21世紀の課題の鍵をにぎる重要な海洋として急浮上してきている。・・・

この論文はSubscribers’ Onlyです。


フォーリン・アフェアーズリポート定期購読会員の方のみご覧いただけます。
会員の方は上記からログインしてください。 まだ会員でない方および購読期間が切れて3ヶ月以上経った方はこちらから購読をお申込みください。会員の方で購読期間が切れている方はこちらからご更新をお願いいたします。

なお、Subscribers' Onlyの論文は、クレジットカード決済後にご覧いただけます。リアルタイムでパスワードが発行されますので、論文データベースを直ちに閲覧いただけます。また、同一のアカウントで同時に複数の端末で閲覧することはできません。別の端末からログインがあった場合は、先にログインしていた端末では自動的にログアウトされます。

(C) Copyright 2009 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

Page Top