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中国に関する論文

北京の新指導層は社会不満にどう対処するか

2012年12月号

ジェローム・コーエン
ニューヨーク大学法律大学院教授
米外交問題評議会シニアフェロー(非常勤)

権力ポストになじんだ段階で、習近平は中国の法と政治制度の改革を進めていくだろう、と考える人もいる。だが、より可能性が高いのは、高度成長を遂げた途上国が直面する課題にうまく対応できない官僚を目の当たりにして、彼が失望してしまうことだろう。一方、首相になる李克強は非常に政治的な人物で、多くの人は、法律のバックグランドをもつ初めての中国政府高官であるにも関わらず、人権概念を重視していないと考えている。・・・中国が直面している問題は格差だけではない。人々は人権を含むさまざまな社会問題への対応を求めており、これがしばしば暴力的な行動として具体化している。いまや中国社会は揺るがされている。中国の指導層は、当面の措置として抑圧策に依存するかもしれない。逆に、高まる社会的不満のガス抜きを何らかの形で試みるかもしれない。その判断については、台湾民主化のケースが示唆に富む。「もはや抑圧政策に依存するのは不可能だ」と判断した蒋経国(ショウケイコク)は、制度を段階的に開放化へと向かわせるプロセスに着手し、政治参加の幅を拡大した。これが台湾を民主化へと向かわせた。・・・

中国の空母離着艦実験の意味合い

2012年12月

ブライアン・キロー
米外交問題評議会米空軍フェロー

J15は、大きな制約下での空母からの活動をこなす能力をすでに持っているように見受けられる。J15のエンジンは、今回の訓練で空母から力強く離艦できる力を持っていることも実証した。だが、われわれの知る限り、J15はまだ実戦配備できる状況にはない。しかも、高価な戦闘機を積載した空母を展開すれば、敵の格好のターゲットになるために、空母を守る戦闘群も組織しなければならない。(まだ、先は長い)。とはいえ、J15の離着艦訓練の成功は、信頼できるグローバルな海軍の確立という目的に向けて中国が一歩先に歩を進めたことを意味する。

儒教とアジアの政治
―― 中国が「民主主義」という表現を使う理由

2012年12月号

アンドリュー・ネーサン
コロンビア大学政治学教授

シンガポールのリー・クアンユー上級相(当時)は「個人の権利を重視する欧米型民主主義は、家族主義の東アジア文化にはなじまない」とかつて主張した。これが多くの論争を巻き起こした「アジア的価値の仮説」の源流だ。結局、アジアでは民主主義は機能しないと主張した点で、この仮説は間違っていた。一方で、社会が近代化していくにつれて権威主義体制は崩れていくという(主に欧米の研究者による)主張も間違っていた。権威主義政府は、教育やプロパガンダを通じて「これまでの社会規範で十分に民主的だ」と人々に信じ込ませることができたからだ。だが、教育やプロパガンダだけで権威主義体制を支えていくのはもはや難しくなっている。政治的正統性の危機を回避するには政治腐敗を隠し、経済成長を維持するしか道はなくなっている。今後、経済が失速し、社会保障制度が崩壊してゆけば、権威主義国家の市民たちも、近隣諸国のように自国も民主体制をとるべきだと考えだす可能性が高い。

BRICsの黄昏
―― なぜ新興国ブームは終わりつつあるのか

2012年12月号

ルチール・シャルマ
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

これまで「途上国経済は先進国の経済レベルに近づきつつある」と考えられてきた。この現象と概念を支える主要なプレイヤーがBRICsとして知られるブラジル、ロシア、インド、中国という新興国の経済的台頭だった。だが、途上国と先進国の間で広範なコンバージェンスが起きているという認識は幻想にすぎなかった。新興国台頭の予測は、90年代半ば以降の新興国の高い成長率をそのまま将来に直線的に当てはめ、これを、アメリカその他の先進国の低成長予測と対比させることで導き出されていた。いまや新興国の経済ブームは終わり、BRICs経済は迷走している。「その他」は今後も台頭を続けることになるかもしれないが、多くの専門家が予想するよりもゆっくりとした、国毎にばらつきの多い成長になるだろう。

中国と日本の相互認識
―― 歴史的遺産とイデオロギー的遺産の呪縛
(1972年発表)

2012年11月号

チャーマーズ・ジョンソン
日本政策研究所・所長(論文発表当時)

1885年以降、数多くの中国人が近代世界を学ぼうと、日本に留学してきた。しかし、その後日本が帝国主義国家として台頭していくと、中国人が日本の近代化に抱いた憧憬は、嫌悪感へと変化していく。中国人から見れば、日本はもはやアジアではなかった。日本は、紛れもなく帝国主義国家そのものだった。そして、日中戦争が、より一層の敵意と憎悪を生み出し、それが現在の対日観に影響を与え続けている。だが、戦争の影響を、日本軍の残虐性という観点だけでとらえるのは誤りだろう。戦争は両国の知的・イデオロギー的な枠組みに大きな影響を与えている。日本が封建制から資本主義、帝国主義へと突き進むプロセスが、中国のナショナリストたちのマルクス・レーニン主義イデオロギーへの確信をより深めることになったからだ。

CFR Update
中国の空母「遼寧」は張り子の虎か

2012年10月号

ブリアン・キロー 米外交問題評議ミリタリー・フェロー

9月下旬、中国は世界で9番目の空母保有国の仲間入りを果たした。中国の近隣諸国にとってこれは何を意味するだろうか。その長期的な意味合いをわれわれはどう判断すべきなのか。「中国海軍にとって空母はまったく価値がない」とコメントする専門家もいる。だが、価値がないとも言い切れない。国家的なプライドのシンボルになるし、次世代空母の開発のためのたたき台にできる。この空母に現在開発中のJ-15戦闘機を配備し、東シナ海の尖閣諸島、南シナ海の西沙諸島、南沙諸島近海に投入すれば、この海域での空域支配を持続的に確立できる。「今のところ」脅威ではないが、外洋展開型海軍の整備を目指す中国にとっては、合理的な投資だったとみなすべきだろう。

地域的なパワーバランスの変化が進行するなか、日中両国でナショナリズムが台頭し、これが歴史的な確執を蘇らせている。尖閣諸島をめぐって日中間の緊張がかくもエスカレートしているのはこのためだ。・・・国民感情そして野党勢力が作り出す圧力からみても、日本政府にとって、中国に対して立場を後退させることは選択肢にはならない。一方、北京も手を縛られつつある。国内の抗議行動をあまりに手荒に弾圧すれば、対日宥和策をとったとみなされるし、一方で、このまま混乱が続けば、中国の社会的安定が損なわれ、国際的イメージに傷がつく。・・・目先の打開策は存在するし、危機を収束へと向かわせることはできるだろう。だが、日中が抱える未解決の問題を決着させるには、歴史的な虚構に根ざし、東アジアの将来に対する不透明感ゆえに力を得ている排外的なナショナリズムという怪物と正面から対決する必要がある。

CFR Update
社会道徳の衰退と中国の食品汚染危機

2012年10月号

ヤンゾン・ファン 米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニア・フェロー

メラミン混入ミルク、成長促進剤を添加され爆発するスイカ、赤みを増すために薬剤を添加され暗闇で輝く豚肉など、中国の人々がもっとも懸念しているのは、高く売るためなら、食品に人体に有害な物質を添加することも厭わない農家や業者が引き起こす食品汚染危機が大きな広がりをみせていることだ。汚染危機は、生産・供給側が市場経済の拡大ペースに応じてビジネス倫理を確立できず、政府の規制もそのペースについていけずにいるために引き起こされている。「偽造品や汚染食品を市場に送り出す人も、一方では消費者として他の危険な汚染食品のリスクにさらされており、この社会では誰もが他人に対して毒を振りまいている」状況にある。・・・いまや中国社会の破綻というシナリオでさえも、現実離れしているとは言えない。

北京はアメリカと世界をどうみているか

2012年9月号

アンドリュー・J・ネーサン コロンビア大学教授 / アンドリュー・スコベル ランド研究所 シニア・ポリティカルサイエンティスト

「アメリカの行動には裏がある。アメリカは、中国がアメリカに挑戦できるほど強大化するのを阻止する意図をもっている」。中国の軍や安全保障組織の分析官たちは「ワシントンは自分の条件での協調を望み、北京が自国の利益を守るのに必要な軍事能力を整備するのを牽制し、中国の政治体制の変革を促進することを意図している」とみている。彼らは「アメリカは中国の政治的影響力と中国の利益を抑え込むリビジョニスト国家だ」と本気で考え、「軍事的に対米対抗路線をとるべきだ」と主張する者もいる。とはいえ、長期的にみれば中国と欧米の双方にとってのより優れた代替策は、現行の世界システムを維持するために中国がこれまでよりも大きな役割を担う、新しい力の均衡を作り上げることだろう。中国が世界最大の経済国家になっても、その繁栄は、日本とアメリカを含む、グローバルなライバル国家の繁栄に左右される。ライバルが繁栄しない限り、中国も先には進めないのだから。

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