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ブラックスワンの政治・経済学
―― ボラティリティを抑え込めば、世界はより先の読めない
   危険な状態に直面する
 

ナシーム・ニコラス・タレブ/ニューヨーク大学教授(リスクエンジニアリング)
マーク・ブリス/ブラウン大学教授(国際政治経済学)

 

小規模な山火事を阻止しようと対策をとれば、より大規模な火事が起きる危険を高めてしまう。山という自然の一部は、より大きな複雑系の一部だからだ。人間は本能的に、自分たちの世界を改革し、それが作り出す結末を変化させようと現実に介入するが、政府による介入は、特にその介入対象が複雑系である場合、想定外の事態につきまとわれることになる。誤解が生じるのは、人類が直線系の領域において歴史的に洗練度を高めてきた分析を、複雑系にもそのまま当てはめて考えようとするからだ。2007―2008年の金融危機、最近の中東における革命はその具体例だ。したがって、状況を変化させようとするよりも、人間が不完全な存在であることを織り込んだ、柔軟なシステムで、自然に対応していくべきだ。変動や衝撃を抑えようと政策的に模索するのはよいことのようにも思えるが、結果的に非常に大きな事態急変のリスク、つまり、テールリスクを高めてしまう。


ドイツ経済モデルの成功
―― 他の先進国が見習うべき強さの秘密とは
 

スティーブン・ラトナー/前米財務長官顧問

 

ドイツ経済の成功は、中国、インド、その他の新たな経済的巨人が台頭する環境でも、先進国が競争力を維持できることを示している。ドイツモデルを他の先進国が取り入れるには、各国の政治家が2005年にシュレーダー独首相が示したような決意あるリーダーシップを示す必要があるし、国の比較優位をうまく生かす方法を見極めなければならない。付加価値連鎖のなかのもっとも高い部門を重視するのが、先進国経済が状況を先に進める上で、もっとも間違いのないやり方だ。実際、ドイツの工業的成功の多くは、製造業の二つの高付加価値部門が牽引してきた。第1は、ミッテルスタンド(中小企業)がひしめき合う工作機械部門、第2は、ドイツ経済のスターである、BMW、ダイムラー、ポルシェ、アウディといったブランド企業が牽引する自動車産業だ。ドイツは雇用と高付加価値の製造業を大切にすることを決断し、この決定が経済的成功に大きな貢献をしている。


貿易財部門の空洞化は避けられない
―― 雇用なき成長への対策はあるか
 

マイケル・スペンス/米外交問題評議会特別客員フェロー

 

新興市場国が付加価値連鎖の階段を上っていくにつれて、先進諸国の貿易財部門が国内で必要とする労働力は小さくなり、この部門の労働集約型雇用は新興国へと流出していく。事実、米国内での貿易財部門の雇用はほとんど伸びていな
い。貿易財部門の高付加価値領域における雇用機会と所得レベルは高いが、ローアーエンドへと向かうにつれて、雇用機会も所得レベルも低下している。しかも、アメリカの場合、新規雇用のほとんどが、賃金がほとんど上昇していない非貿易財部門でしか創出されていないために、所得分配の不均衡(所得格差)はさらに顕著になっている。「経済が成長すれば雇用も増大する」と考えられてきたし、実際、これまではその通りだったが、いまや、グローバル経済の構造的進化とそれが国民経済に与える影響によって、経済成長と雇用創出は連動しなくなった。将来に向けた技術・インフラ投資、教育や税制の改革を含む政策の見直しなど、経済の競争力と成長を回復するための長期的で多層的な政策を導入する必要がある。


Classic Selection 2006
オフショアリングが誘発する次なる産業革命

 

アラン・S・ブラインダー/プリンストン大学教授

 

多くの人々は、教育レベル(とスキルのレベル)が高い人々と低い人々の間の区別、つまり、医師とテレホンオペレーターの違いに象徴される労働市場における重要な雇用区分は今も存在し、今後もなくならないと考えている。だがこうした見方は間違っているかもしれない。むしろ雇用に関する今後の重要な区分は、(インターネットなど)有線や無線での電子送信によって質をほとんど低下させることなく仕事をオフショアリング(外国へアウトソース)できる仕事か、そうでない仕事かで分かれることになる。先進国にとって、オフショアリングは第三の産業革命と呼ぶにふさわしい産業構造の変化、そして社会的変革を呼び込むことになるだろう。


クリーンエネルギーの不都合な真実
―― 補助金を脱した真のクリーンエネルギー革命に向けて

 

デビッド・ビクター/カリフォルニア大学教授
カッシア・ヤノセック/タナ・エナジーキャピタルLLCプリンシパル

 

世界のクリーンエネルギー・プロジェクトへの投資の8分の7は、政府の補助金がなければ、在来エネルギーとは競合できない既存技術を対象としており、真の技術革新への投資は、全体からみれば、ほんの一部でしかない。問題は、政府によるクリーンエネルギー促進策が景気刺激策の一環として実施されてきたことだ。その結果、投資家は、在来型のエネルギー資源と競合できるようになるポテンシャルを秘めた技術革新レベルの高い技術ではなく、(補助金が期待でき)早く簡単に実施できる既存のプロジェクトへと資金をつぎ込んでしまった。クリーンエネルギー産業の先行きは憂うつと言わざるを得ない。地球温暖化を引き起こさずに大規模な電力を生産できるのは現状では原子力だけだ。貴重な公的資金を、バイオ燃料、あるいは、ソーラーエネルギーや風力エネルギーにつきまとう断続問題を克服できるエネルギー貯蔵技術を含む、電力生産領域における画期的な技術革新の実証実験と配備へとシフトさせる必要がある。


原油価格大変動の時代へ
―― 生産調整能力を失ったサウジアラビア

  ロバート・マクナリー/元国家安全保障会議
           国際エネルギー担当シニアディレクター
マイケル・レビ/米外交問題評議会エネルギー担当シニア・フェロー
 今後、原油価格のボラティリティ(乱高下)は当面続き、その悪影響から逃れる方法はほとんど存在しない。すでにサウジの生産調整能力は消失しており、それが回復する見込みもないからだ。新興市場の原油需要が急増する一方で非OPEC産油国の生産が伸びなかったために、他の産油国同様に市場の需要を満たすか、価格調整のために原油備蓄をするかの決断を迫られたサウジは、前者の道を選び、結局、備蓄を使い切り、生産調整能力を失ってしまった。こうしてサウジは「原油市場の中央銀行」の役割を失い、世界は、2007年以降の原油価格の乱高下を経験することになる。サウジの生産調整能力が回復する見込みは乏しく、不安定な現状が当面続くと考えられるだけに、各国の企業、中央銀行、そして外交担当者は、地図のない世界での舵取りを強いられることになる。しかも、原油市場には非常に大きな経済的、地政学的帰結を伴いかねない、嵐が吹き荒れている。投資が不足しているし、産油国とシーレーンの不安定化に市場と経済が敏感に反応するようになり、リセッションのリスクも再び高まっている。

世界の原油市場を左右する中国とイランの石油コネクション

 

エリカ・ダウンズ/ブルッキングズ研究所中国センター・フェロー
スザンヌ・マロニー/ブルッキングズ研究所サバン中東研究所・シニアフェロー

 多くの外国企業が、イラン制裁を求める国連決議に配慮してイランから撤退しているというのに、中国だけが別行動をとっている。当然、中国のイラン路線とそれにアメリカがどう反応するかは、今後の世界のエネルギー・ビジネスと国際政治を左右する大きなファクターだ。資源を求める中国の石油企業にとってイランは魅力的な進出先だ。しかし、ワシントンは北京に対して、ウラン濃縮を続けるイランに対する制裁レジームの完全なメンバーになるように求めており、中国もワシントンの意向を公然と踏みにじるのは問題があると考えている。ワシントンは中国に対して、「イランに核開発計画を断念させれば、石油の供給と価格の安定化が期待できるようになり、中国の利益になること」、逆に、「そうしない限り、原油価格のボラティリティがさらに高まること」を理解させる必要がある。

CFRブリーフィング
進化する中国のバーチャル政治
―― 政治改革を求める中国のネチズン

 

エリザベス・エコノミー/米外交問題評議会シニア・フェロー
ジャレッド・モンドシェイン/リサーチアソシエート


CFRインタビュー
ユドヨノ大統領が語るインドネシアの次なる改革アジェンダ

 

スシロ・バンバン・ユドヨノ/インドネシア大統領

 

新興市場国の仲間入りを果たしたインドネシアのGDP成長率はいまや6%に達している。G20のメンバーになり、2011年にはASEANの議長国にも選ばれた。すでにインドネシアの国際社会での地位は大きく向上している。だが、外国の投資家は、インフラがまだうまく整備されておらず、政治腐敗が横行していることなどを懸念して、インドネシアへの投資には必ずしも積極的ではない。ユドヨノ大統領自身、この点をはっきりと認識し、次のように述べている。「優れた統治構造を築き、政治腐敗と闘い、法的枠組みを強化し、法の支配を定着させなければならない」。・・・その上で「ビジネス環境が改善され、われわれの改革路線が評価されて、より多くの外国からの投資が舞い降りるようになることを期待している」。だが大きな懸案とされる政治腐敗の撲滅はなかなか進展していない。「150名を越える、官僚、大臣、議員、州知事、市長に法の裁きを受けさせているが、・・・・政治腐敗を撲滅するにはまだ多くの努力が必要だ」と大統領自身認め、「この問題に取り組んでいくのは非常に困難な課題だ」と、改革がまだ道半ばであることを認めた。


CFRインタビュー
HIV・AIDS対策とグローバルヘルスの課題

 

ローリー・ギャレット/米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニア・フェロー

  植民地時代には「熱帯病」という概念があった。白人のヨーロッパ人や北米のアメリカ人にはなじみの薄い感染症が多かったために、多くの感染症が「熱帯病」としてひとまとめにされ、たんに「エキゾチックな病気」としてとらえられていた。だが、(20 世紀後半に)HIVが世界的な広がりをみせるようになると、すべての公衆衛生システムが破綻し、前提が間違っていたことが明らかになった。AIDSが最初に確認されたのは、エキゾチックなどこかの国ではなく、アメリカにおいてだった。当初、世界保健機関(WHO)が対応を主導すべきだった。だが、WHOは、ホモセクシュアルに対する偏見が強いなかで、この感染症に積極的に対処していこうとはせず、3年間にわたって、HIV・AIDSを問題として取り上げようとしなかった。…

CFRミーティング
グールズビー米大統領経済諮問委員長が語る
米経済の現状および赤字と債務

 

オースタン・グールズビー/大統領経済諮問委員会(CEA)委員長

 

2年前のように、「1929年よりもひどい恐慌になるのではないか」といった議論をする必要はもうない。事態が悪化するのを防ぐために、政府が持続不可能な大規模介入を実施しなければならなかった時期を脱し、いまや政府は規制や税制見直しを通じて、景気回復を主導するような民間部門の動きを後押しする段階にある。だが不確実性もある。ガソリン価格と中東問題、日本の大震災と原発危機などの国際的なリスク要因がある。さらにヨーロッパの金融問題も未解決のままだ。・・・債務上限については、クレジットカードの限度額とは違って、将来の支出を制限するのではなく、議会がすでに決めたことに適用される。議会が債務上限を引き上げないとすれば、自ら、決めたことに資金を出さないことを意味する。ようやく雇用が回復し始め、多くの産業が深い底からはい上がろうとしている。民間部門は債務上限の引き上げを必要としている。とはいえ、これから3週間以内に米議会が債務上限の引き上げに合意しなければアメリカはディフォルトに陥るという議論は、短絡的すぎるだろう。アメリカは医療コストや高齢者の社会給付といったより深刻で構造的な問題を抱えている。


CFRミーティング
財政赤字の経済コスト
―― 赤字が増大すれば、民間の資本投資は減少する

 

アラン・グリーンスパン/前連邦準備制度理事会議長
ロジャー・アルトマン/エバーコアパートナーズ理事長

 

景気刺激策など、連邦政府による政策介入の効果は民間の設備投資の不調によって相殺される。キャッシュフローの規模と資本投資の規模のギャップは2007年以降、非常に大きくなっており、4・5−5%だった失業率が、9−10%へ上昇した理由はこれで説明できる。問題は、何がこのギャップをもたらしたかだ。1992年まで長期の固定資本投資は減少し続け、その後、横ばいをたどるようになり、2007年以降、急激に低下し始めた。これを説明する大きな要因は政府の経済への介入主義ではないかと私は考えた。分析を試みてもっとも驚いたのは、資本投資の減少の5分の1が、連邦政府の財政赤字によってクラウドアウトされていることだ。長期的には大規模な財政赤字が民間投資をクラウドアウトしてしまうことはよく知られているが、短期的にも、この関係が非常に力強く現れることに私は驚いた。景気刺激策による財政赤字の上昇で、資本投資の減少のかなりの部分を説明できてしまう。介入主義が問題なのは、企業が考慮しなければならない変数が増えてしまうことだ。収益率予測の幅を大幅に広げてしまい、収益予測を過小評価、あるいは、過大評価してしまい、結局、テールリスクを大きくしてしまう。


 

 

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