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<現秩序は新興国に覆されてしまうのか>
世界の富とパワーが「先進国・西の世界」から「途上国・東の世界」へとシフトし、これまでアメリカとヨーロッパが支配してきた旧秩序における、非西洋世界・新興国の影響力が高まりつつある。これは、疑いようのない事実だ。
そこに大きな流れを制御する歯車があるのなら、それが導き出すグローバルな政治秩序は一体どのようなものになるだろうか。
専門家のなかには、アメリカの影響力が低下していくとともに、リベラルな国際秩序も衰退していくと考える者もいる。アメリカの支配的優位が崩れていくだけでなく、アメリカが主導してきたルールを基盤とする開放的な国際秩序も廃れていくというのが彼らの見方だ。
「新たに力をつけた諸国が、独自の思想を推進し、グローバル秩序のアジェンダを規定するようになり、一方で衰退したアメリカには旧秩序を擁護していく力はない。国連や多国間主義の規範に密に織り込まれているルールを基盤とする開放的な国際秩序というリベラルな国際主義の特質が、ブロック、勢力圏、重商主義ネットワーク、宗教的ライバル関係などの、より対決的で分散したシステムに取って代わられていくかもしれない」
現在、台頭しているのが非西洋の途上国であることが、このシナリオに信憑性を持たせている。古いリベラルな国際秩序は欧米主導でデザインされ、構築されたが、ブラジル、中国、インドその他の急速な成長を遂げる新興市場国は、それぞれに西洋とは異なる文化、政治、経済的な経験をしてきた。それだけに、これらの諸国は、反帝国主義、反植民地という過去の視点でいまも世界をとらえている。開発上の問題に気をとられるばかりで、資本主義先進国が抱く懸念を共有していない。
しかも、最近の世界経済の停滞もリベラルな国際主義の衰退を裏付けているかにみえる。アメリカ経済を皮切りに、経済・金融危機はアメリカのリベラルな資本主義モデルを採用している諸国を追い込んでいるし、いまや、グローバル経済のリーダーとしてのアメリカの能力にも疑問符がともっている。
こうした理由を挙げて、専門家の多くは、「いまや世界政治の擁護者が入れ替わりつつあり、グローバル秩序を支える理念と原則そのものが変化している」と結論づけている。
例えば、ジャーナリストのギデオン・ラックマンは、「民主主義、市場経済、米軍事力への世界の信任がすべて揺らぎ始めている」と指摘する。この認識を受け入れる人々は、「将来の国際秩序を規定するのは中国であり、中国は高まるパワーと富を用いて、世界政治を非自由主義的な方向へと向かわせるだろう」と考えている。
中国その他の非西洋諸国が、最近の金融危機を欧米諸国よりもうまく乗り切ったことを引いて、悲観論者は、「欧米のネオリベラルの理念に代わる権威主義キャピタリズムという理念とモデルがすでに浮上しつつある」と主張している。研究者のステファン・ハルパーは、新興市場国は「市場経済と伝統的な独裁政治、あるいは準独裁政治を組み合わせるやり方」を学びつつあり、このプロセスを通じて「欧米流の経済モデルは思想的にわれわれには受け入れられない」というメッセージを発していると言う。
だが、こうした拙速なとらえ方は、奥深いリアリティを見落としている。アメリカのグローバルシステムにおける地位が変化しているとしても、リベラルな国際秩序は依然として健在だ。国際秩序をめぐる今日の戦いは、基層部分での原則をめぐるものではない。中国を始めとする新興市場国には、リベラルな国際秩序の基本ルールや原則をめぐって先進国に闘いを挑むつもりはない。むしろ、その枠内でより大きな権限とリーダーシップを得たいと望んでいるだけだ。
現在、世界のパワーバランスが変化しているとしても、それがリベラルな秩序の凋落を意味するわけではなく、むしろ、その力強さを現しているともみなせる。
ブラジル、中国、インドはいずれも、既存の国際秩序のなかで活動することで繁栄し、力をつけてきた。世界貿易機関(WTO)や新設のG20を含む、現在の秩序のルール、慣習、制度から恩恵を引き出してきた。これらの諸国は、その経済的成功と影響力の高まりを、世界政治を支えてきたリベラルな国際主義を前提とする機構・制度に依存しており、このシステムを温存していくことは自分たちにとっても大きな利益になると考えている。
ルールを基盤とする開放的秩序の代替モデルはまだ登場していない。新興国の台頭、アメリカの単独行動主義をめぐる欧米世界内部での確執、そしてグローバル金融危機とリセッションなど、この10年間でグローバルシステムは大きな混乱を経験したが、リベラルな国際秩序に代わるライバルは見あたらない。むしろ、非西洋国家の台頭と経済・安全保障領域での相互依存の高まりは、現在の秩序を支える新たな基盤が誕生していることを意味する。
これまでのように、アメリカが富とパワーの多くを独占しているわけではないし、世界政治を規定していくワシントンの力に陰りがみえるのは事実だ。しかし、リベラルな国際秩序の基盤は今後も着実に大きく、堅固になっていくはずだ。逆に言えば、アメリカとその民主的パートナー国は、20世紀半ば以降そうしてきたように、リベラルな秩序が安全と繁栄を提供できるように、新たな時代に向けてそれを刷新していくチャンスに恵まれていると言えよう。
>>全文は2011年6月号に掲載
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