Foreign Affairs Japan / フォーリン・アフェアーズ・リポート
フォーリン・アフェアーズ・リポート 購読案内
    RSS お気に入りに登録 RSS RSS FAQ
HOME |  アーカイブ(論文検索) |  立ち読みコーナー(公開論文) |  購読案内 |  フォーリン・アフェアーズ・リポートについて |  サイトマップ  
フォーリン・アフェアーズ日本語版 公開論文


地球温暖化対策の切り札としての地球工学オプション

The Geoengineering Option: A Last Resort Against Global Warming?

デビッド・ビクター
スタンフォード大学教授
 M・グランジャー・モーガン
カーネギーメロン大学 工学・公共政策学部・学部長
 ジャイ・アプト
カーネギーメロン大学工学・公共政策学部教授
ジョン・ステインブルーナー
メリーランド大学教授
 キャサリン・リック
カーネギーメロン大学博士課程在籍
 フォーリン・アフェアーズ リポート 2009年4月号
世界各国の二酸化炭素排出量削減が思うに任せず、地球環境が急激に悪化する「ティッピング・ポイント」を超えてしまう危険が迫りつつある以上、政策決定者は、地球温暖化の余波を少しでも和らげるための緊急対応戦略として(太陽光の一部を遮断するために)反射性の粒子を大気中にちりばめたり、あるいは、地球を冷やすためのサンシェード(日よけ)を設けたりするなど、地球規模のスケールで工学システムを配備することの恩恵とリスクの分析を開始すべきだ。ただし、地球工学的なやり方で地球を冷やすことはできるが、大気中に蓄積される二酸化炭素の排出量を減らすことはできないし、その余波がどのようなものになるかもはっきりしない。その時に備えた地球工学の実証的研究を今から進めておく必要がある。

小見出し
地球崩壊シナリオに備えた緊急対応戦略
人口降雨技術   
地球を冷やし、二酸化炭素を排出を減らすべき理由
地球工学的オプションのリスク
地球工学をめぐる国際協調の重要性
サイエンスフィクションから現実へ
地球工学のリスクを結末の研究を開始せよ



地球崩壊シナリオに備えた緊急対応戦略

 温暖化が地球環境に与えるダメージは年を追うごとに、ますますはっきりとしてきている。月単位でみても、悪いニュースを聞かないことはない。氷河は予想以上のペースで溶けているし、海面水位もかつてみられなかったペースで急速に上昇している。植物もこれまでよりも春の早い時期に芽吹くようになり、水の供給と生活環境も脅かされつつある。渡り鳥でさえもこれまでとは異なる移動パターンを示している。

 気候変動が(一気に加速する)「危険な大転換点=ティッピング・ポイント」へと到達してしまう危険が高まりつつある。21世紀には、メキシコ湾流など主要な海流の流れが劇的に変化する可能性もあり、永久凍土層が溶け出して、大規模な温室効果ガスがさらに大気中に放出されることになる恐れもある。

 たしかに、そうした事態が今日・明日にでも起こるわけではない。だが、このシナリオが温暖化を加速し、その悪影響をますます深刻で複雑なものにしてしまうのは間違いない。

 科学者たちは、この地球崩壊シナリオを真剣に受け止めている。どのような事態を引き起こすかを予測するのが難しいほどに、大気中に着実に蓄積されている温室効果ガスが気候システムを急速に変化させているからだ。

 こうした地球温暖化のリスクのすべてを排除していくことは不可能だ。人間の活動によって排出され、地球温暖化を引き起こす二酸化炭素は、大気中に数時間留まるだけの通常の大気汚染物質とはまったく違っている。ひとたび二酸化炭素が大気中に入れば、その多くが数百年にわたって大気中にとどまり続ける。

 いかなる地域で排出されても、二酸化炭素がグローバルな地球環境問題を深刻化させていくことに変わりはない。そして、気候システムには問題をゆっくりと是正していく力しかない。これは、バスタブにお湯を入れる蛇口が大きいのに対して、排水溝が小さいこと(つまり、ゆっくりとしか排水されないこと)を想起すれば分かりやすいだろう。

 温室効果ガスのレベルを低下させていく唯一の方法は、排出量を劇的に減らしていくしかない。だが、地球温暖化のペースを現状レベルに留めるだけでも、排出量を60〜80%も削減していかなければならないし、しかも大気中の二酸化炭素が安定化するには、あと数十年はかかる。

 人間の活動のなかでも、もっとも多くの二酸化炭素を排出させるのが化石燃料を燃焼させることだ。だが多くの諸国は、排出量を削減するための抜本的な措置を導入することに乗り気ではない。曖昧で実体のわからないグローバルな目標である地球温暖化対策よりも経済成長のほうが優先されてしまうことが多いからだ。

 アメリカにいたって、排出量の削減はもちろん、排出量の上限枠(キャップ)さえ導入していない。欧州連合(EU)は排出権取引システムを導入しているが、理論上はともかく、排出権取引の価格が低すぎるために、現状では、生産活動の大幅な見直しを迫るのは難しい状況にある。

 1991年に厳格な炭素税を他国に先駆けて導入したノルウェーにおいてさえも、二酸化炭素の排出量は実質的に増大しているし、地球温暖化対策を強化していくことを表明している日本政府も、経済成長の必要性とエネルギーシステムが依然として化石燃料に多くを依存していることのバランスをどうとるかに苦慮している。

 一方で、エネルギー生産の多くを石炭燃焼に依存して驚くべき経済成長を遂げた中国は、アメリカを抜いていまや世界最大の二酸化炭素排出国になっている。

 世界各国の二酸化炭素排出量の削減が思うに任せず、地球環境が急激に悪化する「ティッピング・ポイント」を超えてしまう危険が迫りつつある以上、政策決定者は、地球温暖化の余波を少しでも和らげるための緊急対応戦略の詳細を検討しておく必要がある。

 ここで言う緊急対応策とは、(地球環境を工学的に改善していく)地球工学(ジオエンジニアリング)とよばれるやり方のことだ。地球工学的温暖化対策とは、例えば、(太陽光の一部を遮断するために)反射性の粒子を大気中にちりばめたり、あるいは、地球を冷やすためのサンシェード(日よけ)を設けたりするなど、地球規模のスケールで工学システムを配備することを意味する。  ただし、地球工学的なやり方で地球を冷やすことはできるが、大気中に蓄積される二酸化炭素の排出量を減らすことはできないし、その結果引き起こされる地球環境へのダメージの全てを緩和することもできない。こうした理由から、二酸化炭素排出の削減に強くコミットしている人々は地球工学的な手法を毛嫌いしがちだ。

 地球工学に関する本格的な研究はまだ初期段階にあり、政治家もその可能性について然るべき関心を示していない。だが、すでに地球工学オプションの可能性について真剣に検討する時期にきている。深刻な地球環境の変化が重要なエコシステム(生態系)と数十億の人々の生命を危険にさらすような事態になった場合、地球工学は地球環境を守る上で有意義な手段となる可能性を秘めているからだ。

 だが、温暖化の余波を和らげるためにシールドをめぐらすかどうかは政治的判断となる。特定国の緊急事態が別の国にとっての機会となることもある。したがって、「地球温暖化対策が放置されていることの弊害」、そして、「地球工学的手法を用いた場合に効果よりも実害が上回るリスク」の間のバランスをどこに求めるかについて、全ての国が合意することはほぼあり得ない。だからこそ、各国政府は地球工学に関する本格的な研究、さらには、その利用を管理下におくための国際的な規範確立に向けて直ちに行動を起こす必要がある。

人口降雨技術

 地球工学という概念はとくに目新しくはない。1965年にリンドン・ジョンソンがアメリカの大統領として初めて地球温暖化の脅威についてのブリーフィングを受けたとき、「この現象に対抗する唯一の方法は地球工学しかない」と説明を受けている。この提言は、技術でほぼ全ての問題を解決できるとみなす当時の科学万能主義を反映していた。

 さらに遡れば、米ソはともに1940年代末以降、戦場での優位を手にしようと、気候を操作するための技術研究に着手していた。そうした計画の多くは、より多くの雨を降らせるためのクラウド・シーディング「雲への種まき」を前提としていた。

 そうした試みが双方に軍事的な優位をもたらすことはなく、効果が出ることもほとんどなかったが、穀物栽培を促すために雨を降らせようとする「気候操作」は定期的に試みられてきた。また1962年以降、米政府のプロジェクト「ストームフーリー」に参加した科学者たちは、ハリケーンの猛威を緩和しようと人口降雨技術を用いたが、はっきりとした効果はみられなかった。

 軍事専門家は核爆発その他の刺激をつうじて、戦場で自らに有利な天候をつくり出したいと夢見ていた。この計画があまりに忌まわしいものだったために、国連は1976年に、そうした計画を禁止するために、「環境改良技術の軍事利用その他の敵対的利用の禁止に関する憲章=CPMAOHUEMT」を採択した。1970年代までには、一連の実験が失敗したことを受けて、戦争や農業のための気候を操作するというアイディアそのものが廃れていた。

 だが、現在の地球工学オプションならより見込みがある。その理由は、「地球規模で」実施する地球工学的措置なら、「地域的に」気象条件を変えようとする試みに比べてより大胆な措置がとれるからだ。

 地球の気候は、地球が太陽からうけとる光線と地球が宇宙へと放射する熱量の間の微妙なバランスによって左右されている。平均すると、地球が吸収する太陽光線70%は大気と地表によって吸収され、残りは宇宙空間へと反射される。

 「アルベド」として知られる太陽光の入射光エネルギーに対する反射光エネルギーの比率が1パーセンテージ・ポイント高まれば、地球環境を大きく変化させ、22世紀までに大気中の二酸化炭素量が二倍にふえた場合の温暖化現象を相殺できるほどの大きな効果が期待できる。しかも、こうした変化を刺激するのは、1940〜50年代に試みられたような特定の地域に雨を降らせたり、霧を発生させたりするよりも単純なプロセスで済む。

 実際、活火山の活動は、気候を工学できることを数十年ごとに立証し続けている。フィリピンのピナツボ火山が1991年に噴火した際には、硫黄酸化物などのさまざまガスや粒子が大気中に放散し、これによって太陽光の吸収が妨げられ、その後一年にわたって、地球の温度は摂氏0・5度低下した。1883年にインドネシアで起きたクラカトア火山の大噴火では、より長期間にわたって地球の温度は低下している。はっきりとした効果が出てくるまでに長い時間がかかる二酸化炭素の排出削減努力とは違って、火山の噴火に似た地球工学的戦略をとれば、効果は即座に得られる。

 火山の噴火から学べるもう一つの教訓は、成層圏に入った粒子は1年後か2年後に消失してしまうために、地球工学的な手法には継続的なメンテナンスが必要になるということだ。ひとたび地球工学的な手段を用いれば、それを継続的に実施していくという強い意志を持つ必要が出てくる。シールドを置き続けなければ、地球環境に手痛いダメージを与えることになる。例えば、シールドが無くなると、温暖化が急速に進むために、生態系がそれに適応する時間的余裕がなく、その崩壊はさけられなくなる。だが、次の火山噴火が気候にどのような影響を与えるかを衛星と航空機でつぶさに検証すれば、地球工学をつうじて、数多くの地球を冷やす技術をデザインできるようになるだろう。

地球を冷やし、二酸化炭素を排出を減らすべき理由

 今日、地球工学という言葉は、気候を冷却する(地球を冷やす)ための戦略として理解されている。例えば、そうした戦略のなかには、(プランクトンをより早く生育させ、より多くの二酸化炭素を吸収できるように海洋における養分〈鉄分〉を増やすなど)生物圏をうまく操作するか、あるいは、巨大な冷却塔のような装置で空気を直接的に浄化するといった方法があり、これらのやり方でも二酸化炭素をゆっくりと減らしていくことができるかもしれない。しかし、すでに分かっていることから判断すると、地球を冷やす上でもっとも期待できるのは、アルベドを高めることだ。

 地球のアルベドを高める計画のほとんどは、爆発した火山の噴煙同様に、反射性の粒子を超高層大気へと送り込むことを想定している。こうしたやり方なら、大きな努力をしなくても、短期間で効果を得られる。

 例えば、1キロの硫黄酸化物を成層圏に送り込むだけで、二酸化炭素数十万キロの排出が引き起こす温暖化作用を相殺できる。もう一つは海水その他の成分を下層大気に散布して、反射性の輝く雲をつくりだすやり方だ。また鬱蒼とした森を太陽光を反射する草原に変えるなど、多くの太陽光を吸収する暗い場所を、より反射性の高い明るい場所に変えてくことでも、地球温暖化現象を大きく抑えこめる可能性がある(この目的からは、暗い場所を切り開いて、遺伝子組み換え作物を植えるのが効果的だろう)。

 より野心的なプロジェクトとしては、太陽光の照射角度を変えて地球に到達する太陽光を減らすために、薄い屈折性の円盤状の巨大な雲を地球と太陽の間に位置する特定の宇宙軌道に乗せるという計画もある。

 現在のところ、反射性物質を大気上層部に送り込むのがもっとも費用対効果の高いやり方で、これは、大気上層部を飛行できる航空機、反射性物質を拡散するための装置、あるいは巨大な気球があれば実施できる。適切な物質として、硫黄酸化物のエアロゾル、アルミニウム酸化物粒子、あるいは、大気中に漂泊し、両極地方へと流れて長期的に上空にとどまるように設計された人工粒子などが考えられる。実現できるとすれば、両極地方の上空にシェードをかけるやり方は、この地域が地球温暖化を左右するもっともセンシティブな地域と考えられるだけに、非常に興味深い。

 こうした地球工学的な手法にどのくらいのコストがかかるかの試算はまだ初歩的なもので、あてにはならない。しかしながら、これらの戦略に「それほど大きなコストはかからない」とみなす点ではコンセンサスがある。もっとも費用対効果の高い地球工学的な手法であれば、おそらく数十億ドル規模、つまり、二酸化炭素の排出を大幅に削減するのに必要なコストの1%か、それ以下で済む。

 だが、地球工学的手法で地球を冷やしても、地球温暖化に関するすべての問題を解決できるわけではない。太陽光の一部を地球に届かないように拡散させて温暖化現象を食い止めても、大気中に蓄積される二酸化炭素量の増大には変化を与えないからだ。いずれ、そうした二酸化炭素の多くが海洋に吸収され、炭酸が組成され、海洋が酸性化すれば海洋エコシステムは壊滅的な打撃を受ける。(漁業関係者を含む)一億人の人々が生活を依存しているサンゴ礁が破壊され、さらに沿岸部を嵐から守るサンゴ礁も人間の食糧連鎖としての海洋エコシステムも崩壊して、さらに多くの人が危機にさらされる。

 すでに20世紀に海水は著しく酸性化しており、二酸化炭素の排出をうまく管理していかない限り、21世紀末までには大気中の二酸化炭素濃度が高くなり(海洋の酸性化がさらにすすみ)、貝殻をつくる多くの有機体が消滅し、サンゴ礁のエコシステムのほとんどが崩壊する。これによって、海洋漁業は致命的な打撃を受けることになる。

 最近の研究でも、酸性化によって海中の酸素が少なくなり、イカのような、比較的大きな海洋生物が生息できない「死の海」の規模が今後ますます広がり、より深海部にまで達するようになると指摘されている。

地球工学的オプションのリスク

 とはいえ、地球のアルベドを変化させれば、大気の流れ、降雨量、水の循環にも変化が出てくることも考えなければならない。

 ピナツボ火山噴火後の6〜18カ月間にわたって、熱帯地方を中心に降雨量が低下し、川の流れも勢いがなくなった。こうした危険がより適切に理解されるようになれば、北アフリカ、中東、アメリカ南西部の砂漠地帯だけでなく、中国やインドの一部地方などの、降雨量の低下からダメージを受けやすい地域を国内にもつ政治指導者たちも、十分に考慮されておらず、農業生産性に大きなダメージを与えかねない地球工学的スキームを安易に導入すべきではないことを理解するようになるだろう。実際、地球のアルベドを高めることで、平均気温を下げようとする地球工学的スキームを導入すれば、熱帯地方を中心に降雨量が低下し、海洋での降雨量を増大させる危険がある。こうした変化は、一部の地域で大規模な干ばつを起こし、農業に必要な水の供給に大きな衝撃を与えるかもしれず、より優れた水供給の管理システムへの投資など、補完的な政策が必要になるかもしれない。

 不確実だとはいえ、地球工学的オプションをとった場合に生じるかもしれないダメージを、地球温暖化対策を放置した場合の危険と比較するのは簡単ではない。少なくとも、各国が地球工学的なシステムを導入し始めるとすれば、それは、非常に大きな地球温暖化の問題が迫っていることが強く認識された段階になってからだろう。

 また、地球工学的措置が環境にダメージを強いた場合の責任が誰にあるかを問う議論は、「誰が温暖化を引き起こしたのか」という現在の議論とは全く違うものになる。

 現在の地球温暖化は、この数世紀にわたる人類の活動による温室効果ガス排出量の蓄積によって引き起こされている。対照的に、地球工学プロジェクトによるダメージが出た場合には、そうした技術を開発した人々に批判の矛先が向けられることになる。地球工学を管理する国際規範の形成に着手すべき理由の一つはここにある。その目的は地球工学的プロジェクトの危険を評定し、地球環境の劇的な悪化が差し迫ったどの段階で決断を下すかについて議論を事前に尽くしておくことにある。

地球工学をめぐる国際協調の重要性

 地球工学的オプションを管理するための効果的な外交戦略を考案していくのは非常に難しい。地球工学の技術は、これまでの地球温暖化対策に関する議論を覆してしまう部分があるからだ。

 地球温暖化の危険を抑えていく最善の方法は、もちろん、二酸化炭素その他の温室効果ガスの排出を削減していくことだ。この路線での試みを成功させるには、異なる利害認識をしている主要な排出国が温室効果ガスの排出量の少ない全く新しいエネルギーシステムの開発と導入をめぐって今後数十年にわたって協力していく必要がある。しかし、各国にとって、高いコストのかかる排出規制枠組みから逃れたいとする誘惑も大きい。

 対照的に、先進国なら、地球工学プロジェクトはどの国でも容易に実施できる。特定国が、国際社会に相談せずに、自国の領土内から地球工学技術を用いた装置を配備することもできる。実際、国内の温暖化現象の流れを何とか変えたいと考える地球工学の技術者たちが、自分たちの行動が地球の他の地域のエコシステムや経済にどのような危険をもたらすかを分析せず、気にかけようともしない危険もある。二国間協調型の地球工学プロジェクトも、降雨パターンの変化、河川の氾濫、農業、漁業、観光業への悪影響など、他国にコストを強いることになるかもしれない。また、地球工学的オプションがあることを認識しているだけで、「温室効果ガスの排出量を減らすための政策をとらなければならない」という政府の意識や義務感を弱めてしまうかもしれない。

 近い将来のどこかの段階で、排出削減策を十分に実施しなかった国が、「地球温暖化に脅かされているので、単独ででも地球工学的プロジェクトを実施せざるを得ない」と言い出すことは十分に考えられる。地球環境システムを十分に理解せずに、効果のはっきりしない地球工学プロジェクトを実施するのはどうみても賢明ではないが、それが安価で簡単に実施できるために、その余波を甘くみるか、あるいは絶望した国が単独でプログラムを強行する恐れがある。当然、政治指導者は地球工学技術を事前に精査しておくべきだろう。単独行動は国際的正統性の基盤を揺るがし、地球工学プロジェクトがひとたび実施されれば、地球工学スキームを管理していくのは非常に難しくなる。

 地球工学をめぐる主要なアクターは各国政府だが、なかには、裕福で知識をもつ企業や個人でも実施できる安価な地球工学プログラムもある。こう言うと、なにやら、将来封切られるジェームズ・ボンドの映画のストーリーのように聞こえるかもしれないが、民間の地球工学の専門家が限られた予算内で地球工学プロジェクトを実施してしまう恐れさえある。フリーランスの地球工学の専門家を政府が監視下においても、プロジェクトの配備を求めたり、あるいは、地球工学の研究を特定の方向へと向かわせようとしたりする利益団体が、力強い民間組織として政治的に台頭してくるかもしれない。

 すでに、二酸化炭素を分離し、排出権取引市場でのクレジットを得ようと「海洋肥沃化」の実験に取り組んでいる民間企業もある。アルベドの比率を変化させる技術開発を行っている民間企業が、地球工学システムの実験と配備をめぐる潜在的に魅力ある市場での優位を手にしようと、研究を開放的で透明なものにすることに抵抗する恐れもある。こうしたシナリオを回避し、地球環境のために地球工学技術を用いるためのルールを確立するには、協調的で国際的な研究アジェンダを決めることが極めて重要になってくる。

サイエンスフィクションから現実へ

 地球工学については長年にわたって憶測と曖昧な話が飛び交ってきたが、現実には、この領域での本格的な研究は驚くほど少ない。地球工学を専門にする科学者の数は大学のセミナールームにおさまるほどに少なく、地球工学に関する文献も大西洋を越える飛行機のなかで読み終えられるほどしかない。こうした現実は、地球工学が依然として周辺的なトピックとしか捉えられていないことを意味する。

 科学者の多くも、モラルハザードを作り出すことを恐れ、地球工学的措置を提起することを躊躇している。その結果、政府が逆に(安易な思い込みから)温室効果ガスの削減に投資するよりも、(まだ確立されていない)地球工学的プログラムに目を向けるようになる危険もある。

 地球工学プログラムに投資するばかりで、二酸化炭素その他の温室効果ガスの排出削減プロジェクトに投資しない国が出てくれば、地球工学プログラムは大きな疑いの目でみられるようになる。実際、地球工学の研究助成金が、切実に必要とされている気候変動の研究予算、二酸化炭素排出削減のために研究予算を奪いとる形で捻出されるのではないかと懸念する科学者は多い

 とはいえ、理論的研究、実験に基づく実証主義に根ざした地球工学技術への理解を深めていかなければならない。そのためには、才能ある地球工学の研究者が必要だが、こうした科学者で地球工学技術の研究プロジェクトに参加している者の数は非常に少ない。

 大がかりな研究プロジェクトの予算を持っている主要な先進国と新興国の研究所は、地球工学に関する透明性のある本格的な国際的研究のために協力すべきだろう。一部ではそうした試みが行われているが、地球工学的なオプションおよびリスク評定手続きに関するより包括的な理解がさらに深まれば、各国は地球工学的オプションの行使について闇雲に独自路線をとるのではなく、国際的な協調を心がけるようになると思われる。最終的に、一線級の研究者が統括する(地球工学に関する)国際的なレジームに大規模な予算を与えて、透明性の原則、厳格なレビュープロセスを担わせる必要が出てくるだろう。

 いずれ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のような国際レジームが、地球工学に関する研究でわかったことを統合的に分析するようになることも考えられる。地球温暖化をめぐる科学的なコンセンサスの形成に貢献したという理由で2007年にノーベル平和賞を受賞したIPCCも、これまでのところ地球工学的なオプションについては考えていないようだ。このテーマが、政治的なリスクを伴い、実証的な研究が絶対的に不足しているためだ。

 だが、IPCCは、現在計画されている気候変動に関する第5次評価報告書で、地球工学に関する調査を行っていくと表明すべきだろう。IPCCと世界の主要な科学者コミュニティがこのトピックに関心を寄せるようになれば、地球工学に関する新しい研究も進むと考えられる。

 広範で手堅い研究基盤ができれば、3つの点で助けになる。第1に、地球工学に関する議論を抽象的議論からリスク評定をめぐる現実的議論へと進化させることができる。第2に、世界有数の科学者コミュニティが支援する研究プログラムであれば、論議を呼ぶとしても、必ず実施しなければならない必要不可欠の実験として、予算と政治的支持を取り付けることができる。

 例えば、地球工学的目的から噴霧装置の実験をすれば、かつて遺伝子組み替え食物の実験が引き起こしたような騒ぎになるのは避けられない。だが、こうした実験計画が世界の一線級の科学者によって考案、監視され、その結果が、透明な形で分析されることがわかっていれば、それが社会的、国際的に受け入れられる余地も高まるだろう。第3に、地球工学的オプションを実施することに伴うリスクがうまく理解されれば、各国が地球工学関連の新技術を実験・導入するためのルール形成を促すこともできる。原子物理学の科学者が核実験の枠組みを形作り、冷戦期に主要国の行動に影響を与えることができたように、地球工学の科学者も、こうしたルールや規範の形成に貢献できるはずだ。

 特定国が地球工学技術を現実に用いることを検討するようになれば、「そうしたシステムの配備によって何が引き起こされるか」が争点にされるのは避けられない。現在のところ、どのような気候上の変化が起きた場合に、地球工学オプションが重要になってくるかについては誰も分かっていない。気候変動が引き起こすダメージについての研究と、地球工学的プログラムがそうしたダメージを相殺できるかどうか、どのように相殺できるかについての研究が関連づけられていないからだ。

 研究アジェンダについては国際的な科学コミュニティがイニシアティブを取るべきだが、社会科学者、国際弁護士、外交政策の専門家も応分の役割を果たさなければならない。最終的には、地球工学システムの配備に関する世界的に信頼され、正統なルールを制度化するための国際法が必要になる。しかし、効果的な法的規範を簡単にはまとめることはできないだろう。地球工学が無節操に利用されるのを阻止することが目的である以上、知識を基盤にコンセンサスを積み上げてルールを慎重に形成していかなければならない。

 「地球工学の研究を進めれば、温室効果ガスの排出管理の試みを政府が放棄するのではないか」と心配する人々は、地球工学の研究を進めることそのものに反対するかもしれないし、環境保護団体の多くもその研究の禁止を求めると考えられる。しかし、気候変動問題に無策を決め込むか、あるいは、地球工学的オプションを特定国が単独で行使するような事態に直面するよりも、人類と地球のエコシステムにとってより好ましく、切実に必要とされている地球工学的オプションに関する研究にタブーを持ち込むべきではない。

 かりに地球工学的措置の導入を公式に禁止しても、国際社会からのけ者にされてもかまわないと考える国は、おそらくそうした措置を強行するかもしれない。だが、スマートで科学的裏付けのある研究プログラムがあれば、地球工学戦略のリスク、実験と配備に関する責任ある基準を確立するために必要不可欠なデータを集めることができる。

地球工学のリスクを結末の研究を開始せよ

 多くの人は、地球環境問題を是正するために地球環境をいじることを、どうしようもなく悪質な考えとみなすかもしれない。事実、地球工学に関する研究を進めれば、各国政府は排出量規制に対してますます躊躇するようになるのではないかと懸念する人は多い。しかし、本格的な実証研究によって地球工学的オプションが伴う危険な弊害が明らかになれば、それが、本当にとたん場に追い込まれたときの切り札でしかないことが理解されるようになる。しかし、行使できるかもしれないオプションが存在する以上、科学者や政策決定者にとってこれを無視することも危険だ。地球工学的オプションのリスクを評定し、管理していくのに、遺伝子工学、高エネルギー粒子加速器の建設、ナノテクノロジーの開発など、これまでもリスク絡みの計画に対して取られてきたのと大きく変わるアプローチをとる必要はない(遺伝工学ついては、1970年代に科学者が有意義な規制システムを考案し、自主規制の枠組みが形成された。高エネルギー粒子加速器の建設と利用については、一部の物理学者は地球を飲み込むようなブラックホールをつくり出してしまう危険があると主張した。またナノテクについても、自己増殖するナノマシンの増殖が止まらなくなれば、世界はナノマシンの灰色の塊に変化してしまうかもしれないと危惧する者もいた)。

 結局のところ、全てのリスクを排除できるような選択肢は存在しない。不用意にウイルス拡散させてしまうおそれがあるにも関わらず、各国政府が天然痘、エボラ出血熱、マールブルグ病のウイルスのサンプルを保有しているのはなぜだろうか。こうしたサンプルを保有することは大きな潜在的リスクを伴うが、政府は、管理体制があれば、サンプル保有によって、(まさかの場合のワクチン生産という)より大きなメリットを得られると考えているからだ。

 人類はすでに、大規模な二酸化炭素その他の温室効果ガスを大気中に排出して、非常に危険な地球物理学上の実験をしているようなものだ。気候変動を覆す最善かつもっとも安全な戦略は、温室効果ガスがこれ以上大気中に蓄積されないようにすることだが、それには時間がかかるし、数多くの現実面、政治面での問題を伴う。一方で危険はますます大きくなっている。

 今後数十年の間に、温暖化対策が進まないという現実を前に、地球工学上のオプションをとることに前向きになる国が出てくるかもしれない。また、21世紀のどこかの段階で、地球のエコシステムと人類の繁栄が脅かされるような地球環境の壊滅的な変化に直面する可能性もある。

 いまや、地球工学というオプションが単独で行使されるリスクをより適切に管理し、そのオプションを行使した場合のコストと結末を理解するための努力を開始すべきタイミングにある。いまその試みを開始しておけば、地球環境を守る方法が他にないと判断せざるを得ない状況に直面した場合、世界各国は地球の上空にシールドをめぐらすべきかどうかを集団的に協力して決定できるようになっているはずだ。●

(C) Copyright 2009 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan


※メディア、およびブロガーの方へ※
公開論文の放送、記事、ブログ等での引用については、「フォーリン・アフェアーズ・リポート●●年●月号の『<論文タイトル>』)によれば」、とクレジットを必ず入れてください。長文の引用については、全体の2割程度なら許容範囲です。この場合も間違いなくクレジットの明記をお願いいたします。


HOME |  アーカイブ(論文検索) |  立ち読みコーナー(公開論文) |  購読案内 |  フォーリン・アフェアーズ・リポートについて |  サイトマップ
 Copyright by Council on Foreign Relations, Inc. & Foreign Affairs, Japan.  All rights reserved