北朝鮮の「核問題モデル」と6者協議の限界 ディール 次に北朝鮮について。ペリー長官、あなた1994年の北朝鮮核危機当時の国防長官だ。この時期に行われた交渉でまとめられた「枠組み合意」によって、本来であれば北朝鮮は核開発を止めているはずだった。だが、15年後の現在も核危機が続いている。これまで恫喝策をとったことも、経済制裁を行ったこともあるが、北朝鮮に対してうまく作用したためしはない。今後どうなるのだろうか。
ペリー 私に言わせれば、北朝鮮の核の脅威とは、彼らがアメリカに向けて核兵器を撃ち込むことではない。その可能性に焦点を合わせるのは間違っている。むしろ、北朝鮮が核分裂物質や核兵器を流出させ、拡散させることが脅威だ。われわれが北朝鮮への政策を決める際には、この点に留意する必要がある。
また、彼らのやり方に続く国が出てくる可能性があることにも注意しなければならない。北朝鮮は国際社会の意向を無視して核開発を進め、それでもそれほど大きな制裁の対象にはされてこなかった。これは北朝鮮にとっては重要な教訓、経験知だろうし、この経緯をイランが見守っていたのは間違いない。そして、北朝鮮とイランが核開発計画を進める様子を、少なくとも世界の5〜6カ国が模倣すべきモデルとして注視している。このプロセスが繰り返されていけば核不拡散体制は崩壊すると私は懸念している。
アメリカはどうすればよいか。
第1に、北朝鮮を核保有国として受けいれてはならない。「いっそ核保有国として北朝鮮を認めてしまえ」という声がワシントンでも他の国の首都でも聞かれるが、そうしたことをしてはいけない。「核開発をめぐる北朝鮮モデル」は今そこにある脅威だ。決して北朝鮮を核武装国として受け入れてはならない。
第2に、いつもどおりに6者協議の場に戻り、漫然と交渉を続けるのは止めたほうがいい。6者協議の枠組みを再編したほうがよい。これまでの条件、やり方ではうまくいかないことはもはやはっきりしている。
外交の効用については理論的にいくらでも議論できるだろうが、6者協議が停止して以降、これまでに北朝鮮は6〜8個の核兵器を生産し、2度にわたって核実験を行っている。どうみても外交が成功したとは言えない。適切でない枠組みへと戻るのは間違っている。とはいえ、外交で成功できる見込みもある。それは強制力の行使も選択肢として排除しない力強い外交を展開した場合だ。
2003年当時と比べても、外交で問題を解決するのはさらに難しくなっている。すでに北朝鮮が核兵器を保有しているからだ。
2002年〜2003年当時のわれわれの目的は、北朝鮮がプルトニウムを生産して核兵器を作るのを阻止することだったが、現在のわれわれの目的の難易度はかなり高い。すでに北朝鮮が保有しているプルトニウムと核兵器を放棄させるこが目的だからだ。核兵器の専門家でなくても、これがかつてよりもはるかに難しい目的であることは理解できるだろう。
しかも、2003年当時なら可能だった強制策はもはや選択肢にはない。例えば、2003年当時は、プルトニウムの生産を止めさせる手段をわれわれは持っていたが、すでにプルトニウムは生産され、われわれの知らない場所に保管されている。この選択肢はすでに存在しない。
もちろん国連は(最低でも)はっきりした北朝鮮非難声明を出すべきだが、現時点で考え得る強制措置とは何だろうか。もっとも直接的で効き目があるのは、北朝鮮指導層への資金の流れを絶つことだ。全般的な経済制裁のことを言っているわけではない。これまでにわれわれが発動した制裁措置の多くは、北朝鮮の指導層よりも民衆を苦しめるものだった。指導層を追い込む措置をとる必要がある。
「われわれ」は今回そうした措置を適用しようとしている。ここで言う「われわれ」とはアメリカだけでなく、国際社会だ。つまり、国連による強い非難声明(あるいは決議)をだすとともに、これが単なる言葉の遊びではないことを示さなければならない。それでも十分でなければ、もっとも強硬な措置を考えなければならない。
われわれはすでに核関連の物質や機器の北朝鮮への輸送を禁止することを議論している。こうした行動をとれば応分のリスクを伴うが、一方で、北朝鮮の核開発をこのまま放置することもリスクが伴う。したがって2つのリスクの比較考量を行い、決断を下すべきだ。
この他にもとれる措置はある。推薦はしないが、北朝鮮がさらなる核実験を行うのを阻止する措置も検討すべきだろう。われわれがそう望むのなら、最近の核実験を阻止することも、最初の核実験を阻止することもできたはずだ。それには軍事行動が必要になる。私が軍事行動をとるように提案しているわけではない。しかし、一連の強硬策をとるのであれば、緊張がエスカレートしていく局面も想定しなければならない。非軍事的措置がうまく機能しなければ、軍事的な措置をとることも検討する必要が出てくるだろう。
最後に、北朝鮮は核兵器は保有しているが、それを運ぶミサイル能力を整備できていない。まだ埋めるべき技術上のギャップがあり、そのためには実験が必要だ。しかし、われわれがそう望むのなら、ミサイル実験を阻止することもできる。
このように、われわれは一連の強制行動という選択肢も持っている。これらを慎重に検討すべきだろう。重要なのは(こうした強制措置をとる場合には)関係諸国からの同意と支持を間違いなく取り付けることだ。もっとも重要なのが中国の合意と支持だ。経済制裁についても、中国の支持が得られなければ、効果的なものにはなり得ない。したがって、外交の第1段階は、われわれ同様に北朝鮮問題に利害を有する関係国との協調をとりまとめることでなければならない。
スコークロフト 私もビルの見方に賛成だが、一つ付け加えよう。
われわれは15年も北朝鮮と交渉しておきながら、これまで彼らの目的が何であるかを明確に理解できなかった。彼らの目的は核保有国になることなのか。核関連物質の輸出をつうじて体制の安泰を図ろうとしているのか。
だがいまや、「核保有国としての地位を手に入れること」が彼らの目的であることは次第にはっきりとしてきている。
ビルが言うように、北朝鮮に対する経済制裁がうまくいくかどうかは中国次第だ。北朝鮮は中国に多くを依存しているが、中国は北朝鮮が極度の混乱に陥り、自国の国境線へと難民が押し寄せるような事態を望んでいない。一方で、北朝鮮が核保有国になることは北京もわれわれ同様に望んでいない。
したがって、一連の統一行動をとりまとめるためには、中国が北朝鮮の政治体制(の安定)を気にかけていることに配慮する必要があるし、中国もわれわれの懸念に配慮する必要がある。ビルが指摘したような選択肢から成る巧みな外交を展開する余地はあると思う。
ペリー 一言付け加えるとすれば、北朝鮮側の目的は変化しているということだ。1998年に私は平壌で北朝鮮側と踏み込んだ交渉を行ったが、当時の北朝鮮の目的は「自国の安全を確保し経済利益を手にすること」で、核保有国になることは最優先課題ではなかった。
この認識は過去10年間で変化した。プルトニウムを手にし、核実験を行った今、北朝鮮の目的は変化している。これはアメリカと関係国がこれまで一連の判断ミスを犯してきた結果でもある。
すでに核兵器を手にしている以上、今後、北朝鮮が「核保有国としての地位を確立する」という目的を変えるとは考えにくい。強制措置をとらないことには、彼らの目的を変化させることはできないだろう。
スコークロフト かならずしもその見方に反対しないが、核施設の解体に関する最近の合意が形成された当時は「北朝鮮の目的を変えることができ、体制の保証と引き替えに平壌は核を放棄するかもしれない」という見方もあった。だが、いまや(核保有国としての地位を手に入れるという)彼らの目的は、はっきりしている。これを軸に中国と協議していくことは有益だろう。
核のない世界を目指すのは現実的か 質問者 私はブレント・スコークロフトの見方を支持している。長期的な課題であっても、「核のない世界」をつくることを目的に掲げるのは非現実的だし、むしろ核拡散が進む世界にあって安定した抑止力の維持を模索するほうが現実的だと思う。ロシアとの間で安定した抑止力をつくることはできるだろう。 しかし、最近の北朝鮮の無謀な行動からみても、平壌に対して抑止は効かないかもしれない。北朝鮮が核関連物質を輸出するリスクに加えて、韓国を混乱させようとすることも考えられる。 イランが核開発に成功する確率は五分五分で、仮に成功すれば、中東で核拡散の連鎖が生じる危険があるだけでなく、現実に核が使用される危険も出てくる。 これらの観点からみても、「核のない世界」を長期的な目標に据えるのは非現実的だと思うし、拡散の進む世界にあって抑止を維持していくことこそ現実的だと思う。お二人の考えを再度、伺いたい。 スコークロフト 「核のない世界」を実現しようにも、その詳細に目を向ければ多くの問題が出てくるのに、「核のない世界」を目標として宣言することの意味がどこにあるか、私は疑問に思っている。 世界の核兵器の95%はアメリカとロシアが保有している。したがって、他の世界からみれば、米ロが核廃絶を行えば、ほとんどの問題は解決されるように思えるのかもしれない。 だが、この認識を受け入れれば、本当の問題に目がいかなくなる。 冷戦期の米ソ間の軍備管理構想には次のような前提があった。それは「保有する兵器の破壊力ゆえに双方とも相手に戦争を挑む可能性は低いが、(核戦争の)リスクをさらに低下させるために有意義と思われる措置を適用する上で妨げとなるもの全てを排除していこう」という考えだった。現在も、この点を重視していくべきだと思う。 核廃絶を(段階的に)試みても現在われわれが直面する問題に影響を与えることはないが、核のない世界の実現にもっぱら焦点を合わせれば、戦争や危機を回避するという目的に目がいかなくなってしまう。 ここで、インドの立場を思い起こすことは有益だろう。彼らはわれわれに常に次のように言ってきた。「われわれ(インド)にああしろ、こうしろと指図するのは止めて欲しい。大規模な核兵器を持っているのはあなたたち(アメリカ人)だ。(人に開発を止めるように言う前に)、まず、自分で核兵器を放棄したらどうだろう」。 ペリー この問題をめぐってブレントとは何度も議論してきたが、歩み寄ることができない。私は、ブレントはまったく逆の考えをしている。核廃絶の目標を明確に表明し、その実現に真剣に取り組んでいく必要がある。そうすることで、核不拡散という目標も前進する。 たしかに、「核のない世界」を実現するという目的を表明し、それに取り組んでもイランや北朝鮮の行動を変えることはできないだろう。だが、イランや北朝鮮に対処していく上でその協力が必要な諸国の支持を得ることができる。だからこそ、「核のない世界」を実現するという目的は重要だし、私がこれを支持しているのもこうした理由からだ。 スコークロフト 核が決して使用されないようにするレジームを確立すべきだという点ではわれわれは合意している。だが、われわれが制約を導入するのと、制約がない場合では、核が使用されない見込みには大きな違いが出てくる。 核兵器を魔法のように消し去ることはできないし、「核のない世界」はより危険な世界になる。(「核のない世界」を実現できても)世界には今後も悪漢が登場してくるだろうし、このなかで最初に核を数十発生産した国が超大国としての影響力を手にする。 「核のない世界」の平和と安定がどのようなものか、すでにわれわれは経験しているはずだ。(戦争の世紀とも言われる)20世紀(前半)の歴史がその具体例だ。 だが、すくなくとも核時代に入ってから今日までに、第三次世界大戦は起きていない。インドとパキスタンはすでに三度戦争を起こしているが、当時は両国とも核兵器を保有していなかった。核を保有して以降は、インド・パキスタン間で戦争は起きていない。もちろん、この事実だけで何かを立証できるわけではないが、私は(核の廃絶よりも)「核が使用されないようにすること」に焦点を合わせるべきだと思う。 核廃絶に到達できるとしても、それは長い道のりになる。むしろ、核が決して使用されないようにするために、出来ることすべてを試みるべきだ。核のない世界を実現するよりも早く、核が使用されないようにするための体制を確立できると思う。 ペリー 核の不使用についてはわれわれの間に立場の乱れはない。 スコークロフト そう、核の不使用については二人は同じ立場をとっている。 質問者 最悪のシナリオについては質問がある。タリバーン率いるイスラム過激派が近い将来にパキスタンで政権奪取に成功するという最悪のシナリオが現実となった場合、アメリカはどのような政策をとるべきだろうか。これは、イラン、北朝鮮と同じ程度、深刻な脅威になると思う。 スコークロフト パキスタンは、現在われわれが直面するもっとも難しい問題だ。アメリカ政府もこの問題を深刻に受け止めていると思う。しかし、核兵器についてはパキスタン軍が統合性と一体性を維持している限り、その安全、管理体制が崩壊することないと私は確信している。 ペリー パキスタンに関することではないが、私はむしろ最悪のシナリオとは、アメリカの都市でテロによる核爆発が起きることだとみている。これだけで、おそらくは、5万から10万の市民が犠牲になる。それだけではない。「デイアフター」の被害もでる。爆発後に何が起きるか、われわれはどうすればよいか、どう対応すべきなのか。2008年にわれわれはワシントンでこれらをテーマにワークショップを行った。 われわれは次のようなシナリオを考えた。テロ集団はアメリカのある都市で核爆発を起こすことに成功する。テロ集団は犯行声明を出し、「この他にも5つの都市に核爆弾を設置している。要求を受け入れなければ、1カ月後に起爆させる」と警告してくる。テロ集団は、具体的にその都市名を公表するかもしれない。 一度でもアメリカの都市で核爆発を成功させ、「今後も核テロを続ける」と彼らが声明を出せば、どのような事態になるだろうか。そうした核爆発の予告が本当でないとしても、経済的、政治的、社会的にアメリカは手のつけようのない混乱に陥る。だからこそ、アメリカの国土防衛能力を高め、核爆発が起きないようにしなければならない。そのためには、テロ集団が核兵器を入手しないようにしなければならず、この意味で核不拡散努力が重要になる。
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