|
以下は二〇〇〇年十月十二日にニューヨークの外交問題評議会で行われたミーティングプログラムの議事録の抜粋である(一部質疑の順番を入れ替えてある)。司会はチャーリー・ローズ(エミー賞受賞ジャーナリスト。知的なインタビュー番組として知られる全米公共放送=PBS=のチャーリー・ローズ・ショーの司会者で、外交問題評議会のメンバー)。
ローズ あなたは「ジョージ・ブッシュは明確な外交思想の持ち主だ」と主張されていますね。ブッシュと最初に会ったとき以来そう感じているのか、それとも大統領選に入ってからそう感じるようになったのでしょうか。
ライス 私たちが初めて外交問題について話し合った時以来そう感じています。ですからジョージ・ブッシュが大統領選出馬を決める直前、一九九八年八月以来ですね。
ローズ ケネバンクポートでですか。
ライス そうです、ケネバンクポート以来です。ジョージ・ブッシュは、自分が何をしたいかについて非常に強い信念を持っています。私たちアドバイザーの仕事は、たださまざまな課題について大統領の立場を確認することで、彼が前面に押し出したいアジェンダを実行するための選択肢を探すことです。昨晩(十月十一日)のディベート(大統領候補討論会)でよくお分かりになったと思うのですが、彼が訴えたのは「原則に基づいて指導力を発揮する」ということです。それに彼はいかに決断を下すかも心得ています。外交政策についての知識の有無を問題にする人もいますが、それは、アメリカ大統領が外交政策において実際に果たす役割を正しく認識していないためです。アメリカ大統領は、たとえばロシアの選挙制度について特別補佐官と綿密に話し合うわけではありません。それは大統領の時間の無駄というものです。大統領の任務は、アジェンダを設定し、そのためのオプションを模索し、意見を集め、決定を下し、国民を説得し、そしておそらく最も重要なのは共和党と民主党の合意を得るために、支持を求めて議会に働きかけることなのです。
ローズ しかし、外交政策についての知識は、大統領の資質として常に求められます。キューバのミサイル危機の際にケネディ大統領を中心にいかに詳細な議論がホワイトハウスで行われたかをわれわれは知っていますよね。外交アドバイザーたちのアドバイスはまちまちです。「コンドリーザ・ライスやコリン・パウエル(元統合参謀本部議長)やジョージ・シュルツ元国務長官がいるから大丈夫」などとは言っていられません。相反するアドバイスを受けたときには、その内容を理解していなければならないし、それについて決断を下す能力が必要なはずです。
ライス まさにその通りです。彼はテキサス州知事として行政府の長だったわけですし、その能力はあります。彼はテキサスで最終決断を下す立場にあった。競合するアドバイスのなかから決定を下すことが彼の仕事だったのです。外交政策における意思決定が他の領域の意思決定とそう違うわけではないのです。さまざまなアドバイスに直面するという点では同じなのです。
ローズ しかし決断にかかわる利害がより大きいのでは。
ライス 利害が大きいかどうかは、どのような問題の決断であるかに左右されます。とにかく、大統領にはさまざまな選択肢が提示されます。どのアドバイザーも、なぜ自分の選択肢が正しいのかを説明します。有能な大統領なら、彼らの主張が正しくないかもしれないことをただすでしょう。ジョージ・ブッシュが非常に長けているのは、アドバイザーたちが提案することの合理的な意味づけを問い詰めることです。オルブライト国務長官がミロシェビッチは三日で屈服すると言ったときに、クリントン大統領が長官にその見通しが正しくない可能性について再考を促していたら、全く別の対応になっていたかもしれません。一般に最高責任者というものは、相反するアドバイスを処理する術を身につけているのです。それが彼らの仕事なのですから。
国連との関係
ローズ ジョージ・ブッシュは国連の平和維持活動についてどのような立場を取っていますか。
ライス ジョージ・ブッシュは、国連が重要な役割を担っていると認識しています。平和維持活動についても同様です。しかし、彼は、国連が平和維持のための主要な戦力の管理者になれるとは思っていないようです。そうした戦力を組織するには国の軍隊が持つ規律が必要だからです。彼は、地域諸国が各地域の平和維持にあたるという枠組みにより大きい可能性を認めているようです。
ローズ 地域諸国による平和維持活動にアメリカ軍は参加するのですか。
ライス たとえば、アメリカによるトレーニング、インフラ整備、通信などの支援はありますが、軍の派遣は含みません。
ローズ それは、地域的な取り組みが北大西洋上条約機構(NATO)によるものであってもですか。
ライス NATOは条約第五条に共同防衛を定めているので、例外的なケースとして参加することになるでしょう。
中東情勢をどう打開する
ローズ ジョージ・ブッシュなら、イスラエルとパレスチナ間で紛争が再び起きてしまった現在の中東情勢に対してどのような手綱さばきをみせるでしょう。
ライス いかなるアメリカ大統領でも同じ政策をとるという考えには私は同意しませんが、この件については、(アル・ゴアも指摘するように)暴力行為をやめさせることが先決でしょう。暴力行為を終わらせない限り、事態は何も進展しません。この数日間、いくぶん事態が好転したかに見えましたが、今日になってみると事態はより複雑になっています。イスラエルとパレスチナ双方の暴力行為をやめさせることが先決で、これが実現して初めて和平を仲介できるようになります。おそらく、嵐を静める上でわれわれと協調できる勢力としてもっとも重要なのは穏健派のアラブ諸国です。したがって、この問題の解決に向けて、ヨーロッパなどの古くからの同盟諸国との協調を模索している現在のアメリカ政府の姿勢には疑問を感じます。
ローズ ヤセル・アラファトに紛争をやめさせるために最善を尽くすように説得できる勢力に対して、われわれはどのような戦術を持っているのでしょう。
ライス 先ほども指摘したように、エジプト、ヨルダンなど穏健派のアラブ諸国の動きが大切です。おそらくアラファトは、現在暴力行為を行っているパレスチナ住民の全員は無理としても、その一部なら家に帰らせるだけの統率力をまだ持っていると思います。一方イスラエルのバラク首相は交渉に向けて努力しています。この数カ月来存在した機会が暴力紛争によって失われてしまうとすれば、なんとも残念なことです。したがってわれわれの戦術とは、彼らが問題解決に向けて流れを変えるような行動に出る、その動機を提供することであり、この点で、アラブ諸国全般、特に穏健派のアラブ諸国はこのメッセージを伝えるのにもっとも適しています。
ローズ アメリカの役割についても多くの議論がありますね。つまり、長期にわたる友好国で、しかも中東における唯一の民主国家であるイスラエルの友人であることと、「誠実な(中東和平の)仲介者」であることのバランスをいかにとるかという議論です。クリントン大統領はヤセル・アラファトと友好的な関係を築くために大きな努力を見せました。ですが、アラファトは歴代のイスラエルの指導者以上にさらに踏み込んだ姿勢を見せようとしているバラク首相の努力を拒絶しています。
ライス そこにはさまざまな力学が働いています。第一に、われわれはイスラエルとパレスチナの直接交渉を可能にしたのは、ソビエトの崩壊と湾岸戦争の結果、中東で起きた大きな変化だったことを認識しなくてはなりません。こうした変化を受けて、中東和平交渉は最初にマドリードで、つぎにオスロでという具合に積み重ねられていきました。したがって、中東地域全体でのアメリカの役割、この地域全体でのアメリカの信頼性は、われわれが中東和平プロセスで何をなしえるかに影響を与えます。しかし、カーター大統領以後の歴代大統領は、つねにアラファトが和平交渉への課題を突きつけてきたと感じてきました。アメリカにとって中東和平への取り組みは超党派のそれも長期的な取り組みであり、和平実現のための最終期日をもうけることも不可能な、きわめて困難な課題です。しかしイスラエルは和平のためのリスクを引き受けつつあります。バラク首相は相当に踏み込んだ努力を見せていますし、そうしたイスラエルはわれわれが支持するに値すると思います。さらに、穏健派のアラブ諸国も肯定的な役割を果たしてくれています。(アメリカの役割について言うなら)サウジアラビアとクウェートは、もしアメリカが和平プロセスに参加していなければ、イスラエルとパレスチナ間の和平プロセスにはかかわってこなかったでしょう。さらにわれわれはヨルダンやエジプトとの長期にわたる関係を築いています。したがって、われわれはイスラエル、アラブ双方とのコネクションを持つ、非常によい手立てを手にし、友好国にも恵まれています。しかし、一方でイスラエルとの関係が特別であることも認識しておく必要があります。
ローズ つまり、あなたはアラファトがキャンプデービッドから中東に帰り、アラブ諸国を訪問した際に和平を模索するように働きかける機会が存在したのに、穏健派諸々はその機会を生かせなかったと言いたいのですね。
ライス 彼らが機会を生かせなかったともいえるかもしれません。ですが、アラファトは和平プロセスの枠外で一方的にパレスチナ国家の独立を宣言するのが間違いであることを各方面から聞かされることになりました。穏健派のアラブ諸国だけでなく、彼の支持に回っていたかもしれないヨーロッパ諸国もこうしたメッセージを発していたのです。しかし、危機にさらされていたものがあれだけ大きかったのですから、パレスチナ側が合意を受け入れるように穏健派アラブ諸国はもっと強く働きかけるべきだったといえるでしょう。
コソボ空爆とNATOについて
ローズ ではユーゴスラビアの問題に移りましょう。あなたの判断では、ユーゴで起きたことの何が重要で、それはどのように重要ですか。コソボでの戦争が間違っていたのか正しかったのかを明らかにした上で、現在の状況についてコメントを。
ライス ミロシェビッチを相手としたコソボでの戦争によって彼を国際的に孤立化させることができたわけですから、短期的にはコソボ作戦は成功とみなせます。ですが、もっと早く彼を国際的に孤立させるべきだったんです。(クリントン政権がとりまとめた)デイトン合意がミロシェビッチの政治生命の延命に手を貸さなかったと言い切れるかどうか、私には確信が持てません。
ローズ ちょっと待ってください。アメリカはデイトン合意にミロシェビッチを巻き込むべきではなかったということですか。
ライス 今になって考えるならば五分五分でしょうね。ですが、アメリカはデイトンで彼を真っ当な政治家として扱ってしまいました。
ローズ しかし、彼なしでデイトン合意が成立したでしょうか。
ライス おそらく無理だったでしょう。しかし、彼をデイトン合意の当事者としてしまったために、セルビア(ユーゴ)での彼の政治生命を延ばしてしまったと思います。もっとも、最終的に彼が政権の座から追い落とされたのですから、クリントン政権は短期的にみれば正しい行動をとったのだと思います。この地域の不安定要因となりえる事態を阻止するためにアメリカは正しいことを行ったのだと思います。アメリカはNATOを東方へと拡大させましたが、それによってバルカンと近接するようになりました。バルカンは、NATOの、より具体的にはハンガリーの裏庭なのです。だからわれわれがコソボに介入したのは正しい行動だったと言えます。
ですが、長期的に考えた場合どうでしょうか。この場合、時計の針を一九八九年当時、ポーランドの連帯が起こした自由化運動(東欧革命)の時期に巻き戻して考える必要があります。当時、自由化の潮流は非常に力強く、ヨーロッパ全域を覆い尽くしていましたね。スロボダン・ミロシェビッチがセルビアの民衆に提示するよりもはるかに期待に満ちた世界が、当時約束されていたのです。これが長期的な大潮流だったのです。われわれはこの点を忘れてはならないでしょう。
ローズ ここ一、二週間にスロボダン・ミロシェビッチが政権を追われたこと、また戦争終結後に起きたことについてどうお考えですか。これらは今後NATOが再び行動を起こす際にどのような影響を与えると思われますか。
ライス NATOに関しては、あのような大がかりな活動が必要にならないように期待したいですね。クロアチアのツジマン大統領がこの世から去ったのですから、ミロシェビッチがヨーロッパに出現した独裁者の最後となってほしいものです。彼がおそらくこの地域における最後の大きな脅威だったと思います。
ローズ ではバルカンに限らず、NATOがコソボで見せたような大がかりの作戦の可能性については。
ライス NATOとしてバルカンでなしえたことを基準にして、われわれが他の地域で何ができるかを考えることに対してはきわめて慎重でなければなりません。そもそも、NATOや一連の安全保障取り決めなど、われわれはヨーロッパですでに長期にわたって安全保障インフラを築きあげていたわけで、この点を忘れてはいけません。しかも、欧州連合(EU)の力学など、ヨーロッパにはさらに大きな統一空間を求める潮流が存在します。つまり、ヨーロッパはわれわれが内戦を鎮めるために介入するかもしれない他の地域とは全く状況が違うのです。われわれは冷戦期にもヨーロッパでの戦略を他の地域、それもベトナムのような地域に応用しようとし、しかもそれが機能すると思っていました(これは大きな間違いでした)。ヨーロッパにおける特殊な環境下で生まれ出た戦略を他の地域に当てはめることには慎重でなければなりませんし、それが他の地域で機能すると早計に判断してはなりません。
市民の「信頼」とリーダーシップ
ローズ アメリカ人の生活がとくに脅かされていないのに、それでも市民は外交政策に関心を示すと思いますか。
ライス もちろんです。ロータリークラブその他、私が講演して回ったさまざまなグループの反応からみて、市民は少なくとも外交問題の一部には関心をもっています。貿易問題への関心はとくに高い。特に輸出主導型の州経済を持つカリフォルニア州の住民などは、自由貿易がアメリカ経済にとってきわめて大切であることを理解していますから。軍事問題にも関心を持っていますよ。家族や知人のなかに、軍役についていた人々、現在軍役についている人、あるいは州兵(予備役)として勤務している人がいるからです。ですから、一般市民も軍隊の即応体制や士気にまつわる話を日常的によく耳にしているのです。人々はこうした問題には関心があります。しかし、外交政策全般についての関心は低い。外交専門家の私は外交への関心がもっと高くなればよいと感じています。ですが、市民が無関心なわけではありません。むしろ、外交については、市民が大統領を信頼して舵取りを任せているかどうかを測るそのバロメーターではないかと考えています。そうした市民の信任があればこそ、危機が起きたときに大統領はリーダーシップを発揮できるわけです。
ローズ 危機の時にそれを切り抜ける能力がある、という信頼感ですね。
ライス そうです。その通りです。大統領の外交チームは危機の際に市民の信頼を背に間違いなくリーダーシップを発揮できるようにしておく必要があります。
ローズ ジョージ・ブッシュが市民に語りかけてこの点での信頼を築くために、あなたが何か彼にアドバイスすべきだと感じたことはありますか。ブッシュとゴアのディベートは、突き詰めて言えば、性格と能力のぶつかり合いだと評する人もいるくらいですから。
ライス ディベートをそのような視点から見るのは問題ですね。むしろ、市民がブッシュとゴアのどちらをより信頼できるのかが争点だったと思います。大統領が信頼に値する人、自分の家に毎晩招きたくなるような人であってほしいとアメリカ人が思っているのは明らかです。危機に直面すれば市民の信任を背に大統領は厳しい決定を下さなければなりません。ブッシュは、外交問題に関する揺るぎない基本方針を表明することでこの信頼を勝ちとろうとしています。ブッシュはわれわれとのミーティングの最初の段階から、アメリカの軍事力の強さを維持することの重要性を指摘して、友好国や同盟国の役割も重視していました。彼は、「同盟国との友好的関係を維持するには努力が必要だ」というジョージ・シュルツ元国務長官の言葉に強い影響を受けています。たとえば、しばらく電話も掛けていない友達に困ったときの頼み事をするのは気が引けるものです。だから、同盟国の協力を得るためには、彼らとの間に一体感を保たなければなりません。ブッシュは、早くから、ラテンアメリカ、そして西半球を外交課題に再び取り入れることの重要性を説いてきました。現在の外交政策からはこの地域が抜け落ちてしまっているからです。彼は外交部門で何をすべきかについて非常に明確な考えをもって状況に臨んでいます。
紛争介入について
ローズ では、昨日行われたゴアとブッシュのディベートと外交政策全般についてあなたのコメントをお聞かせください。あなたはディベートについてもブッシュにアドバイスなさっていますし、ディベートの下準備の最高責任者と言われています。あなたは昨夜のブッシュのディベートをどう判断しますか。彼はうまくやったといえますか。
ライス 成功だったと思います。その理由は、われわれのように彼と長く仕事をしてきた者にとって周知の事実、つまり彼が外交問題に関する深い洞察の持ち主であることを広く市民に伝えることができたからです。非常に困難な外交問題をめぐって彼がどのくらい優れた市民へのコミュニケーターであるか私自身考えたことがありますが、ブッシュは自分がその擁護に向けてリーダーシップを発揮するであろう原則について見事に表現しました。アメリカの力が無限であると考えられているこの時代にあっても、(世界中のすべての人々の求めには応じられないし、国家建設には軍隊を使うべきでないと明言するなど)大統領が軍事力をどのように行使すべきかについて見事な境界線を引いたと思います。
ローズ 外交上の大きな指針となるのは間違いのない「国益」を機軸とするという以外に、彼がとくに介入の境界線を引いたとは私は感じていないのですが。
ライス 彼は、敵の行動を抑止し、戦争を戦い勝利を収めるための軍事力は大切だが、民政管理や国家建設、そして長期的な平和維持活動のために軍隊を投入すべきではないと指摘しました。これが論争のポイントとされたわけです。考えてもみてください。世界各地での民政業務のためにアメリカ軍がかかりっきりとなるとすれば、われわれが内戦に介入すべきかどうかという質問への答えも変わってくるはずです。
ローズ ジョージ・ブッシュは、われわれは「謙虚」でなければならないと言いました。彼の言葉は何を意味し、またそれは何についての話なのですか。
ライス 私が初めてジョージ・ブッシュと外交政策について話をして以来、彼はこの「謙虚に」というフレーズをつねに心に留めています。アメリカのように大きな影響力を持つ国は、とかく世界で傲慢だととらえられてしまうと彼はつねに肝に銘じているのです。アメリカは何でも自分が一番よく知っていると考えている、違う国の人々が自分たちの将来をどう考えているかなどアメリカは気にしていないと見なされがちです。そうした態度を変えるべきだということです。
ローズ あなたの見るところ、昨晩のディベートで兵力の行使について明らかになったことは何ですか。ジョージ・ブッシュはアル・ゴアに比べて、アメリカ軍の派遣に消極的な態度を取っていたようです。どちらかといえばゴアが介入推進主義者のように見受けられます。二人の立場にはそのような違いがあるとお考えですか。
ライス アル・ゴアが介入について何を言おうとしていたのか、私にはよくわかりませんでした。ここで二つの問題を区別させてください。一つは、いつ軍事力を行使するのか、という問題です。これについては、二人の答えはともにかなり標準的なもので、状況によるということだったと思います。しかし、第二の問題、つまり、どのような目的のために軍事力を投入するのかについては、二人の答えは全く違っていたと思います。また、軍事力を使用しなくても、どのような目的で軍隊を派遣するかも争点とされました。軍事力の行使の話なのに、ゴアがマーシャル・プランという援助の話を持ち出したことを私は興味深く感じました。第二次世界大戦後の話ですが、アメリカは無条件降伏したドイツを占領していました。アメリカが日本を占領していたのも、無条件降伏という合意のもとでした。アメリカが占領下の日独で行ったのは、経済的に打ちのめされていた両国の社会システムの再建を大規模な経済援助で助けることでした。しかし、ドイツと日本の社会復興に貢献したのは何も経済支援だけではなく、民間資本、非政府組織、フルブライト奨学金もまた大きな役割を果たしました。こうした経験を持つアメリカにとって、民主国家を構築しようとしている諸国を助けるか助けないかは自明のことであり、争点ではありません。問題はその目的のための適切な措置は何かということです。国家を立て直したり民主主義を広めたりするのがもっぱらアメリカ軍の役割だと考えるよりも、場合によっては非政府組織のほうがずっと効率的にその役割を果たせることを認識してほしいと思います。経済支援、貿易、信仰に基づく慈善機関、大学などは、いろいろな面で、アメリカが持つ最強の道具なのです。
再貧国の債務取り消しはどうなる
ローズ ジョージ・ブッシュが債務を回収、あるい免除する国について具体的に。
ライス 彼にまだ具体的な国名を挙げる権限はありませんし、その用意もないと思います。
ローズ しかし、これは明らかに彼が考慮すべき原則にかかわってくる問題ですよ。
ライス たしかにそうです。昨晩のディベートでジョージ・ブッシュは、この点についてある基準を示したと思います。現在、民主主義が芽生えている発展途上国が数多くありますが、そうした諸国の市民は、国の財産を着服して私腹を肥やす一部の人物のせいで、国が膨大な債務を抱え込むことになり、長期にわたって困難を強いられてきています。腐敗がなく、国内での抜本的な経済改革を断行する決意を持った有望な指導者がいる場合には、債務の内容を見直すことを前向きに検討すべきです。私たちは、過去にそうした行動を取っています。かつてのブレディ構想は、ラテンアメリカに対する事実上の債務削減、債務のリスケジューリングだったわけです。人々がアフリカの絶望的状況について話すのを耳にするたびに、私は八七、八年頃のラテンアメリカを思い出します。当時、ラテンアメリカでは多くの国が膨大な債務に苦しんでいました。軍政から解放された国もあれば、内戦に陥っている国もありました。しかし、洗練された再建計画のおかげで、ラテンアメリカでは多くのサクセスストーリーが聞かれるようになりました。だから、アフリカについても絶望することはないのです。
クリントン外交批判
ローズ クリントン政権がこの八年間外交政策を指揮してきたわけですが、その中で最も非難されるべき点は何ですか。
ライス 焦点が定まらず、一貫性に欠けることです。
ローズ つまり、大戦略がないと。
ライス 大戦略というか、戦略そのものがないんです。あちこちの問題を場当たり的に片付けているだけですね。どの問題も重要度は同じといった感じで。もちろんクリントン政権がある程度の成果を上げたのは事実です。クリントン大統領は、アイルランド紛争の妥結をめぐって素晴らしい政治的手腕を発揮したと思います。しかし、世界を見まわすと、今やアメリカ軍は冷戦中のどの時期と比べても三倍も多くの作戦に携わっていて、なかには、いったい何のための作戦なのか首を傾げてしまうものもあります。アメリカ軍の役割をしっかりと位置づけなかったためにこうした状況に陥ってしまったのです。自由貿易を推し進める努力に欠けていたことについても、私は大統領の責任は重いと思います。たとえば、九四年に議会から貿易交渉に関するファストトラック(早期一括審議権)への支持をとりつけるチャンスがあったのに、それに積極的に対処しなかった。
ローズ それは大統領の責任ですか、それともファストトラック法案に反対した一部の民主党議員の責任ですか。
ライス アメリカの大統領は、目的を達成するために議会とうまく付き合う方法を習得しなければなりません。そうすれば、政治的に支持が必要なときに議会を動員できるんです。クリントン政権は、北米自由貿易協定(NAFTA)の拡大を実際に約束しておきながら、チリの加盟を実現できなかった。その間、ラテンアメリカは南米南部共同市場(メルコスール)を強化していたのです。メルコスールはブラジルが中心的役割を果たしていて、今やアメリカを遠ざけようとしています。EUからは、ジャック・シラク大統領が過去数年に四度もラテンアメリカを訪れています。観光のためではありませんよ。アメリカが西半球の自由貿易を放棄したために、他の国々がこの好機をつかもうとしているのです。これはクリントン外交の焦点の欠落が引き起こしたことで、私としては最大の批判を向けたいと思います。
ブッシュ外交は平和と自由貿易の維持・促進を目指す
ローズ ジョージ・ブッシュは外交政策に関する基本的なビジョンを明確にしていますか。今私たちの話を聞いている人のほとんどが、ジョージ・ブッシュもゴアも、ポスト冷戦世界の方向性を打ち出しているとはおそらく考えていないでしょう。あなたのお考えでは、ジョージ・ブッシュはそのような展望を持っていますか。もしそうでないとしたら、ジョージ・ブッシュのよりどころとする考えが何であるか教えていただけますか。
ライス そうですね、チャーリー、私が「大戦略」がないことについてクリントン政権を非難したくなかった理由は、包括的な戦略が今本当に必要かどうかわからないからです。封じ込め政策は包括的な戦略だったと考えられていますが、実はそうではなく、ヨーロッパに関する戦略だったのです。だから、あまり欲張らないほうがよい。アメリカが現在目標とすべきは市場経済を広め、市場の開放を進めることです。いずれグローバル経済に参加するには国民を正当に扱わなければならないことを各国に納得させる。これによって民主主義拡大への道も開けてきます。今私たちが乗っている大きな流れを見てください。ソビエトが崩壊し、その後、市場経済民主主義に代わるパラダイムも登場していません。つまり、グローバル経済の一員となり、近代国家になるための道はただひとつ、民主主義と市場経済の導入なのです。この流れを広めることこそ、私たちが目指すべき目的です。それが決まれば、今度は、目的実現のための手段を定めなければなりません。そのためには、まず平和を維持する必要があります。優先順位をつければ、第一に世界戦略上重要な場所の平和維持です。ペルシャ湾岸、台湾海峡、東アジアといった世界戦略上の重要拠点においてアメリカ軍が間違いなく平和を維持していかなければなりません。また、大規模な戦闘が起きる可能性がある地域での平和維持活動、たとえば東ティモールにおけるオーストラリア、シエラレオネにおけるナイジェリアのような、平和維持に積極的な勢力をアメリカ軍が支援することも重要です。もっとも大切なのは平和の維持で、次に自由貿易の促進です。自由貿易の構造を維持することです。つまり世界貿易機関(WTO)シアトル閣僚会議の際に明らかになったアジェンダに振り回されてはいけないということです。
ローズ シアトルの路上に抗議に押し寄せた人々が掲げたアジェンダのことですか。
ライス そうです。各貿易協定について環境基準や労働基準について市民レベルの意見を聞いていたら、たとえばアフリカ南部のような諸国の経済はどうなりますか。
ローズ しかし、世界銀行の上層部も環境問題や労働問題は新世紀のグローバリゼーション時代には間違いなく考慮されるべき問題だと言っていますが。
ライス 環境基準や労働基準の問題の解決策を上から強要すれば、南アフリカのように失業率が四〇%にもなるような国々の状況をさらに悪化させるだけです。世界のすべてに一律的な環境、労働基準を押しつければ、貧困に苦しむ諸国がもつ低コストという比較優位を奪ってしまうことになるからです。それよりも、国の経済が豊かになるにつれて、労働基準や環境基準も改善されると考えたほうがよい。もちろん、いかなる国でも搾取工場のような状況があってはならないのですが、だからといって、外国資本の流入により労働条件が悪化するという主張には根拠がありません。それは全く実像をつかんでいないのです。だから、私はシアトルのアジェンダは大きな脅威になると思います。
結局は、アメリカのような強力な国の役割をどのようにとらえるか、ということに尽きると思います。ジョージ・ブッシュは、このアメリカという強国が、国際システムに事実上の骨組みを与えていると評価していると私は考えます。つまり、グローバルな統治のことです。弾道ミサイルに対する防衛(米本土ミサイル防衛=NMD)が重要なのは、グローバルな統治の鍵を握るのがアメリカだからです。アメリカが脅威を感じるようなことがあっては、世界のためにならないのです。自由貿易も構造的な要素です。また、民主化を進めようとしている国々を見守りつつ、アメリカと歩調を合わせられる同盟国との関係を重視する必要もあります。市場では民主化を好む傾向が非常に強く、アメリカが構造的役割を果たすならば、民主化を広げることも可能です。
人権について
ローズ では、最後の質問、人権についてです。アル・ゴアは昨晩の討論会で人権について触れましたが、ジョージ・ブッシュはそうではありませんでした。
ライス ですが、ジョージ・ブッシュは自由について話しましたよ。自由と人権というのは多くの場合不可分のものですし、自由とは単に人権を別の言葉で表現したものだと思います。自由とは、人権という概念の基礎なのです。ジョージ・ブッシュは、どんな国家指導者と話すときにも、人権や宗教の自由といったことについて意見を交わすべきだという考えを明らかにしています。しかし、場合によっては、もっと深いところまで考えなければなりません。たとえば中国のような国の場合です。しかし、中国経済の自由化が進むにつれて、この国でも政治的自由化が進むことが見込まれます。台湾でも、韓国でも、チリでも、経済の自由化が政治の自由化を促進したのです。だから、時には、人権を保障するためにはいくつかの角度から取り組むことも必要なのです。ジョージ・ブッシュが特に重視しているのが人権と民主主義です。これらはアメリカの価値観を反映しているからです。
ローズ ジョージ・ブッシュが大統領に当選したとしましょう。そして彼があなたに、「ワシントンに一緒に来てほしい」と言い、「もし君が軍事問題に関心があるなら国防長官、外交問題なら国務長官でもいい。国家安全保障担当補佐官だって、望めば君のものさ」と持ちかけるとします。新大統領にとってはともに働いた経験があり、信頼できる人がそばにいることがどれだけ重要かはあなたもご承知でしょう。あなたはその時なんと答えますか。
ライス もう何度となく言ったことですが、チャーリー、もしナショナル・フットボール・リーグのコミッショナーの話が先にあれば、私はそちらに行きますよ。(笑い)
質疑応答
ローズ さて、これから質問を受けたいと思います。手を挙げてください。どうぞ。
質問者 ライスさんの指南役の一人であるジョージ・シュルツ元国務長官は、クリントン政権初期の対中外交を短絡的だと批判しましたね。ライスさんの対中戦略は大づかみに言ってどのようなものでしょう。
ライス 中国に関してはアメリカがあまり得意でない立ち回りを必要としますし、慎重な対応が必要です。というのも、われわれは中国との間に明白な安全保障問題を抱えているからです。東アジアにおけるアメリカの軍事プレゼンスに反発しているという点で中国はわれわれにとって問題です。(核技術拡散をめぐる)パキスタンとの不透明な関係など、南アジアでも中国は問題です。現在の「一つの中国」政策をアメリカは支えているわけですが、それでも、台湾海峡問題をめぐって、中国はわれわれにとっての問題です。中国の軍事力増強が問題なのも明らかです。ですから安全保障面では中国のことを懸念材料ととらえています。
他方、国内に目を向けると中国は市場経済への移行途上にあります。ですが、政府内の保守派と改革派の立場にほとんど共通点がないことが私にはとても気になります。ご存じのように、保守派はこう言っています。市場開放、起業促進、国営企業の整理、世界経済への合流といった流れは中国にソ連の轍を踏ませることになる。これに対し、改革派は世界経済に中国経済を開放し、起業を促進し、雇用を創出しない限り、中国はソ連の轍を踏むことになり、共産党体制まで崩れてしまうと口にしています。しかも、ご存じのように、両方の主張とも一理あるのです。どっちもどっちです。中国が改革に失敗し、その結果、経済成長を維持できなくなれば、政治システムへの圧力は耐え難いものになります。改革を進め、経済成長を得られた場合もまた、政治システムへの圧力は耐え難いものになります。ですから中国との関係は複雑なのです。われわれは貿易を行うとともに、望ましい兆候を育んでいかなければなりません。
ローズ 次の質問どうぞ。
質問者 ジョン・ガルブレイス(ケネディ政権インド大使)です。あなたは、アメリカに対する脅威とミサイル防衛を関連づけた指摘をなさいましたね。私は本質的にそうしたシステムはアメリカが脅威にさらされるのを防ぐためのものだと考えています。あなたは、(コンピューター制御型対空ミサイルシステムである)イージス・システムの海上配備(可動型システムの配備)にただちに取り組みますか、それともミサイル防衛システムのアラスカ基地への配備(固定型システムの配備)を優先させますか。
ライス 大変いい質問ですね。ジョージ・ブッシュは実際に内情を知る機会を得るまでは、どの選択肢をとるかについて判断を下すのは保留したいと言っています。とはいえ、彼は明らかにイージス・システムの将来性についてさまざまな理由から非常に魅力を感じています。イージス・システムを搭載した戦艦などによる海上での可動性とミサイル発射の探知能力を組み合わせれば、きわめて効果的なシステムとなるからです。そうすれば、弾道ミサイル防衛システムを一カ所に固定する必要もなくなり、柔軟に対応できるようになります。海上配備が持つ可動性は、非常に多くの望ましい利点を持つでしょう。
しかし、技術がどの段階にあるのか、コストがどのくらいかかるかも問題となるのですが、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約が可動式システムの配備を禁止しているために、実験によってこれらを確かめられる状況にありません。したがって、われわれが最初にすべきことは、ともに新たな環境のもとにおかれていることをロシアに認識させ、新たな戦略概念と(ABM制限条約の一部緩和によって)他の選択肢を試す余地をつくることだと私は考えます。このやり方は、状況に対する最善の選択肢の類だと思います。
質問者 イージス・システムと米本土ミサイル防衛(NMD)という、おそらくジョージ・ブッシュが検討しているであろうオプションについて触れられましたが、ヨーロッパにおける同盟国、そして、実にアジアにおける同盟国でさえ、このNMDをめぐる全体的な論争について異議をとなえています。その理由は、クリントン大統領が提案した計画では、同盟諸国が守られないことにあります。特定の戦域におけるシステム、そしてグローバルなシステムについて、それらの同盟国とどのように交渉を進めるつもりか、あなたの考えをお聞かせください。また、今後配備されるであろうグローバルなミサイル防衛システムの基盤となる考え方、あるいは目標について何かご意見をお持ちでしょうか。
ライス ジョージ・ブッシュはあらゆるNMDに対し一つの基準を決めており、それはわれわれの同盟国を防衛できるものにすることです。実際、私はNMDに対する同盟国の反応が批判的だったことに驚いてはいません。なぜなら、われわれは、この問題について踏み込んだ話し合いもせずに、彼らに対してミサイル配備計画という既成事実を伝えただけで、しかもそれらが彼らに防衛の盾を与えるものではなかったからです。彼らがこの決定に好意的でなかったのも不思議ではありません。だからこそ、ジョージ・ブッシュは、NMDは同盟国も守るべきものでなければならないということを原則にしています。そもそも、どのシステムを選択するかについてもわれわれはおそらく同盟諸国と議論する必要があります。これは、NMDを進めてゆく上で間違いなく踏むべきステップの一つです。これが彼の基準の一つです。
他の基準はというと、それが海外に前方展開しているアメリカ軍を守り、問題国家による限定的な攻撃に対処できるものでなければならないということです。だから、システムの可動性が、ミサイル防衛構想において起こる多くの問題に最善の解決策をもたらすだろうという点に関しては、十分な根拠があるのです。私は、われわれがミサイル防衛に対して何か効果的な対応をとるべき立場にあると強く信じています。私は、システムに関する実験が失敗していると言う人がいることに非常に衝撃を受けています。実際、十九段階ある実験システムのうち、三つが行われたにすぎないのです。われわれはおそらく、最善の選択肢については実験すら行っていないのです。仮に、二十五年前に、私が、シリコンチップとよばれる部品のおかげでクレイ(アメリカのスーパーコンピューター)と同程度に強力な卓上型コンピューターをあげましょうと言ったとしても、誰も私の言うことを信じなかったでしょう。科学技術がときに信じられないことを実現する力を持つということに、なぜわれわれは疑いの目を向けてしまうのでしょうか。
ローズ ブッシュは、あるインタビューで私にロシアとそのシステムを共有することを検討することが公平だろうと言いましたが、それについては。
ライス ジョージ・ブッシュは、そのつもりだと言っています。そして、私はただ、これについて一点だけ指摘したいと思います。ご存じのように、われわれは、実際、弾道ミサイル技術の共有については、父上のブッシュ政権期の終盤にすでにロシアとの間で話し合いを行っているのです。しかし、これはクリントン政権によって九三年に中断されています。われわれ共和党は、システム共有という発想については民主党政権のはるかに先を進んでいたのです。しかし、その共有が、システムの共有から技術の共有、警告の共有、データの共有へと進むこともありえます。しかし、ロシアに関する懸念をひとつ挙げると、ロシアが、まさにわれわれが警戒する国家へ兵器を拡散していることです。このように、共有に関しては問題がありますが、われわれはもちろん、それを検討したいと考えています。
質問者 クリントン政権の外交政策について非難された時に、現政権はあまりに多くのことに手を出し、しかも、ある程度軍事的に関与していながら、しばらくすると「いったい全体あそこで何をしているんだろう」と考え込んでいるといったことを言われましたが、具体例を挙げて、分かりやすく説明していただけますか。
ライス それでは、二つの例を見てみましょう。一つは、第二次国連ソマリア活動です。第一次とは区別してください。第一次国連ソマリア活動は飢饉救済のための人道的支援として始まりました。しかし、すぐにわれわれは首都モガディシオの街中をソマリアの軍事指導者を追って回るはめになりました。なぜこんなことに携わったのか、事前に状況を把握していれば、このような選択をすることはなかったのでは、とみなさんも思われるでしょう。ハイチでも数十億ドルを投入した揚げ句、さっさと引き揚げてしまいました。われわれの行動によってハイチの状況は改善されたのでしょうか。われわれがハイチに介入したときには、すでに難民の数は危機的状況にあったと記憶しています。アル・ゴア陣営は前方関与、つまり問題の根っこを早めに摘んでしまおうとする政策を語っていますね。外交とは本来そういうものなのです。したがってハイチでも、大量の難民が発生する前、つまりアリスティド大統領を政権復帰させるためにアメリカ軍を派遣しなければならないような事態に陥る前に、問題に対処すべきだったと思います。しかも、アリスティドは自分で言っていたほど民主的でなかったことが後で分かったというお粗末さです。
結局、問題は、われわれがアメリカ軍を送り込むことで何を達成しようとしているかということなのです。たとえば、コソボの空爆のように、新しい政治的環境が形成されるように現地の状況を変えようとするのか。それとも、アメリカ軍を紛争勢力の間に割って入らせ、政府を擁立し、それを維持しようとするのか。今までの経験から言って、アメリカ軍にこうした役割を押し付けてもうまくいきません。軍の本来の活動に支障をきたすだけでなく、兵員たちの士気を低下させることにもなるのです。だから、ハイチに送られた兵員たちは、任務の失敗という現実を前に現地を去ることになったのです。
ローズ 別の質問にいきましょうか。
質問者 ジェイ・ゴールデンといいます。あなたは、ジョージ・ブッシュが国連による平和維持のメカニズムを評価していると発言されましたね。それでは、アメリカが国連の平和維持活動に参加しないことはどのように理解したらよいのですか。
ライス かなり限定した意味での平和維持について言ったのです。つまり、平和創造ではなく、平和維持活動そのものについては評価しているといったのです。国連は、紛争状態ではうまく機能できないのです。国連はシリア・イスラエル国境を監視することなどには適しています。アメリカが国連の平和維持活動に参加しない根本的理由は、国際政治において分業が行われている、という認識があるからです。つまり、大規模戦争に対応できる能力を持ち、戦略上重大な意味を持つ戦争を回避し、必要があれば戦うことのできる強靭な軍事力は、世界に一つあればいいのです。そして、こうした条件に合う軍隊を持つのはアメリカだけです。ほかの国や国際機関にはできません。しかし、われわれが世界中であまりにも多くの平和維持活動にかかわっているために、アメリカにしかできない任務への対応能力を手薄にしてしまっています。私が言っているのは他者に対する悪口でも批判でもありません。これは純然たる分業だと私は考えます。
ローズ どうぞ。
質問者 ミシガン大学のレイモンド・タンターです。ライスさん、あなたのかつての先生であるジョセフ・コーベル教授の一人娘が現在の国務長官ですよね。オルブライト長官は「ならず者国家」(rogue
state)という言葉を外交用語として使用しないことを決めました。しかし、私には新しく使われだした「問題国家」(state
of concern)という言葉はあいまいすぎて、イラクやイラン、北朝鮮のような諸国を指す言葉としては軽すぎるように思えますし、結局「問題国家」がふたたび「ならず者国家」と呼ぶにふさわしい存在になるのではないかと見ています。あなた、あるいはジョージ・ブッシュはこの点についてはどのようなご意見ですか。
ライス レイ、それらの国家をどう呼ぶべきかはわかりませんが、どんな名称を用いようと、そうした諸国は悪い国家です。国際システムにとって有害であり、また安定にとっても有害です。私はむしろ「ならず者」という表現を好みます。というのは、私はその言葉が国際システムの外にある存在を意味すると思うからです。そうした国家の共通点は何かというと、国際システムに統合されることによって得るものは実際にほとんどなく、ほとんどすべてを失ってしまうということです。だからこそ、われわれには「ならず者」という認識のほうがぴったりくるのでしょう。ですが、彼らの本質について誤解を生じさせるものでない限り、それらの国家を何と呼んでも構わないと思います。言ってみれば、彼らは基本的には、国際政治において何ら有益な目的を持たない破綻した国家にすぎません。たとえば、金正日が、手に入れつつある援助と引き換えに国内での改革を迫られる状況に直面したとき、それでも国際システムへの統合に彼が関心を示すかどうか、きわめて興味深いといえます。
ローズ 昨日の討論で自分が大統領になれば、イラクに対して現政権が行っているものとは違う対応をとるとブッシュは言いたかったと私は理解したのですが、それでいいのでしょうか。
ライス ジョージ・ブッシュが指摘したのは、九一年以降、対イラク政策が綻びをみせつつあるということです。第一に、湾岸戦争期の多国籍軍の連帯は大きく弱まりました。常任理事国五カ国間だけでなく、湾岸の多国籍軍の連帯が弱まったことです。また私が考えるに、サウジアラビアやトルコのような非常に重要な国々でのわれわれへの信頼が揺らぎつつあります。われわれがサダム・フセインの封じ込めを続行してゆくという十分な確信を持てなくなってしまっているのです。第二に、イラクに対する制裁が弱まり始めています。第三に、イラク国内の反体制勢力を支持すべきだということです。イラク解放法(九八年)で供与が決まった額(九千九百万ドル)のうち、実際に使われているのはごくわずかです。たしかにイラク国内の反サダム勢力は、現時点では弱く、分裂状態にあるかもしれないけれど、セルビアの反ミロシェビッチ勢力だって弱く、分裂していたではありませんか。だから、彼らを支援しなければならないのです。そしてジョージ・ブッシュが最後に言ったことは、機会があれば(行動に出る)ということです。サダムは、時に自分で自分の首を絞めるような行動に出るので、そうした機会はたびたびあるでしょう。われわれはバグダッドに戦闘機を飛ばしておきながら、何もせずに引き返してくるようなことをしてはならないのです。
ローズ では、何をすれば彼を痛めつけることになるのでしょうか。
ライス 効果的なやり方で軍事的標的をたたくことです。ご存じのように、彼がイラク北部のクルド人勢力を攻撃したとき、アメリカはイラク南部を巡航ミサイルで攻撃しましたが、その後、米中央情報局(CIA)長官は、サダム・フセインはわれわれが彼を攻撃する前よりも逆に政権基盤を強めたと語っています。この発言は、軍事力の行使についてどのような教訓を示しているのでしょうか。軍事力を行使する場合には、決定的な打撃を与えるべく行使せよということです。
ローズ 次の質問をどうぞ。
質問者 国際刑事裁判所に関するワシントン・ワーキング・グループのジョン・ウォシュバーンと申します。すでに私の質問がわかってしまったかもしれませんが、(国際人道法を犯した個人を裁くための常設裁判所としてその設立準備が進められている)国際刑事裁判所をめぐって、アメリカと同盟国との間の意見が分かれています。新政権は、初期段階でこの問題をめぐって何らかの決定を行う必要があります。というのも、国際刑事裁判所に関する国連の予備委員会が二〇〇一年三月に開催される予定であり、そしてその先、新政権の任期半ばの二〇〇二年には、国際刑事裁判所が誕生するだろうと思われるからです。新政権は三月にその委員会に出席するのでしょうか、そうだとすれば、どのような立場を取り、どのような問題を掲げるのでしょうか。
ライス ジョージ・ブッシュは、まだ国際刑事裁判所に対し、特定の立場をとってはいません。個人的には、アメリカのような国にとっては、そうした裁判所の存在については懸念すべき要素があると見ています。私は、コソボ空爆をめぐってNATOが戦争犯罪に関与していたかどうかを調査する必要があると考える人がいることに非常に困惑しました。ひどい話だと思いました。政治目的のために、アメリカの軍人たちに対する起訴を許すような道をみずから開くという話にまでなると問題があると私は思います。でも、ジョージ・ブッシュはまだ立場を決めていないのです。彼はそれを検討したいと考えるでしょう。私は、彼に先んじて立場を取るつもりはありませんが、私が申し上げるのは、国際刑事裁判所設立条約へのアメリカの調印に関しては、やっかいな問題が数多くあるということです。
ローズ 次の質問どうぞ。
質問者 昨日のディベートで、ジョージ・ブッシュは、アフリカを重視していると発言しました。しかし、その後彼は優先順位としてヨーロッパや中東という具体的な地域を挙げましたが、アフリカの名前は出てきませんでした。つまり、アフリカが重視されつつあるのは事実だとしても、優先課題ではないということです。これはブッシュの現状維持志向が反映されているように思います。伺いたいのは、アフリカを今後もある程度重視していくつもりかどうか、また、そうであればどのようにして、ということです。
ライス ジョージ・ブッシュはアフリカを重視していますよ。アフリカには大きな潜在性を秘めた国が数多くあります。アフリカへのアプローチには三つあると思います。第一に、少なくともアフリカに安定をもたらすような国々に市場経済と民主主義を広める努力をすることです。汚職の問題がクリアされれば、将来的にはナイジェリアのような国がその候補になるかもしれません。もちろん、南アフリカのような民主国家はそれに含まれますし、エチオピアがエリトリアとの戦争を終結させれば、エチオピアもその候補に入ってくるでしょう。こうした諸国が自由な貿易と市場開放をつうじて繁栄を呼び込めるようにするのです。第二に、内戦に引き裂かれつつあるアフリカを助けなければならないということです。それはおそらく、アフリカ諸国が自分たちで内戦という問題を解決できるように彼らを勇気づけ、その能力を与えるというやり方を通じてでしょう。三番目に、人道的問題への支援です。ここで一つの例としてエイズ問題を指摘したいと思います。おそらくゴア副大統領が言ったのだと思いますが、エイズの世界的な流行はアメリカにとっての国家安全保障上の優先課題だと言われています。ただし、この問題に別の名前をつけたところで、何の足しになるのかは分かりません。実際、エイズを国家安全保障上の問題と位置づけると、この問題には適さない解決法にたどりついてしまうのではないかと私は懸念しています。エイズについて、われわれが学んできたことは何でしょうか。治療など、エイズに関しては費用がかかることが分かりました。しかし、大規模なエイズに関する教育キャンペーンが効果があることも分かっています。そして、エイズ危機に対応するためにアフリカの村々をたずねて回り、エイズに対する教育を与えるという点では、非政府組織がおそらくより効率的にその役割を果たせるでしょう。比較的成功を収めている国々もあるのです。たとえばウガンダではエイズの問題が減少傾向に転じ始めました。ウガンダの経験を取り上げ、その経験からエイズ危機対策について教訓を学ぶほうが、アフリカでのエイズ危機について知ったかぶりをするよりずっと建設的だと思うのです。
ローズ ブッシュ家のことですが、元大統領の父親と息子の外交政策で大きく違ってくるものがあるとすれば、それは何ですか。
ライス 息子さんは、テキサス人でテキサス州知事だった人物ですし、たとえばラテンアメリカやメキシコの重要性について、より強く認識しています。彼が父上よりも、西半球を重視しているのは明らかです。この関心が今までの大統領候補者と違う点でしょう。ブッシュ・ジュニアのメキシコ訪問に同行しましたが、彼がスペイン語でメキシコ人に語りかける姿を見ると、ほんとにすごいと思いました。国境の向こうまで行って、メキシコの人々からテキサス同様に喝采を受ける姿は、ほんとにすごいものです。
ローズ つまり、ブッシュ政権になれば、過去のどんな政権よりもラテンアメリカに力が入れられるということですね。
ライス ええもう、過去のどんな政権よりもです。●
Copyright 2000 by the Council on Foreign Relations, Inc.and
Foreign Affairs, Japan
|