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高齢化社会という灰色の夜明け

Gray Dawn: The Global Aging Crisis

ピーター・G・ピーターソン
外交問題評議会理事長
 フォーリン・アフェアーズ 日本語版 1999年3月号

人口のほぼ19%が高齢者で占められるフロリダ州。これと同じ状況に先進諸国が直面するのは、そう遠い未来の話ではない。イタリア、日本、ドイツがもう一つの「フロリダ」となり、イギリス、アメリカ、カナダもほどなくこれに続く。先進国社会の急速な高齢化がもたらす諸問題とコストは、投げだすのが合理的と判断しかねないほどにあらゆる意味で膨大だ。各国の貯蓄は瞬く間に底をつき、財政は火の車になる。国内の政治力学、国際的資本の流れ、南北の力関係が逆転する。「自らの運命を管理し、より持続可能なコースへと道を変える時間的余裕があるうちに、現状を変革するしかない」。そうしない限り、世界は「持続不可能な経済的負担と政治的・社会的苦難の後、悲痛な動乱の時代」へと突入することになりかねない。


小見出し
高齢化社会という脅威部分公開
高齢化とはすなわち歳出増
「高齢国」と「若年国」がつくる世界
痛みを伴う処方箋
高齢化を考える世界サミット開催を



<高齢化社会という脅威>

 われわれが二十一世紀に直面するであろうグローバルな脅威のリストは増える一方だが、さりとて目新しいものは何もない。核兵器や生物・化学兵器の拡散、ハイテク・テロ、致死性のウイルス、極端な気候変動、グローバル化の余波が伴う金融・経済・政治上の問題、いまだ不安定な新生民主社会に潜む民族紛争の危険などだ。一方、これらに比べてあまり理解されていない脅威もある。それは、先進諸国における社会の高齢化という問題だ。そして、これこそ先に指摘した脅威以上に世界全体の将来を左右することになる大きな課題なのである。

 今後、数十年にわたって、先進国は前例のない老年人口の増加と年少人口の減少という事態を経験する。この人口構成の変化のタイミングと規模については、次世紀の高齢者の予備軍がすでに存在している以上、現時点でも把握可能である。その人口を割りだして、彼らに支払うことになる年金コストの予測をたてることもできる。

 地球温暖化問題とは異なり、いつ、どのようにして、グローバルな高齢化という事態をわれわれが迎えるかについては議論の余地はほとんどない。さらに、世界的な高齢化が強いるコストは、年金制度が抜本的に改革されない限り、世界で最も裕福な国々にさえ賄いきれない規模に達するはずで、この点で、不安定な新生民主国家の強化支援策を含む、(資金的にある程度の想定がつく)その他の課題への取り組みとは大きく異なる。大胆な改革を行い、早期に対応しなければ、近年のアジアやロシアにおける危機の比ではない未曾有の経済危機が引き起こされるだろう。

 すなわち、グローバルな高齢化という問題にどう対応するかで、われわれが次世紀に膨大な経済的負担を強いられるか否かが決まるわけだ。それだけではない。将来直面するその他の問題に対処できるかどうか、そうするだけの余裕を持てるかどうかも大きく左右される。

 こうした理由もあり、グローバルな高齢化は経済問題としてだけでなく、政治問題としても次世紀における重要な鍵となるはずだ。高齢化問題は、先進国の公共政策上の主要課題となり、(政府と市民の間の)さまざまな社会的契約の再検討を余儀なくするだろう。また、高齢化問題を考慮すれば、外交戦略と地政学的秩序も再編せざるをえなくなると思われる。

 アメリカの行く手には深刻な問題が待ちかまえている。社会保障制度やメディケア(老人や身障者への政府の医療保険制度)の改革をめぐる議論が活発化していることからも、この問題の大枠がすでに表面化していることがわかる。

 しかし、不吉な兆しが見られるのは、何もアメリカの連邦財政への影響だけではない。むしろ高齢化は、日本およびヨーロッパ諸国にとって、より深刻な問題である。こうした諸国では高齢化のペースが速く、出生率が低いだけでなく、発展途上国からの若い移民の流入も少なく、公的年金がより寛大で民間の年金制度は脆弱である。

 高齢化問題は今や真に世界規模の課題であり、グローバルな政策課題として、より高い優先順位を与える必要がある。「灰色の夜明け」は刻々と迫っている。やがて訪れる問題の様相を今こそしっかりと見据えなければならない。

 ここでは、「先進国のフロリダ化」という言葉を使いたい。フロリダへ最近行ったことのある人ならすでにお気づきだろうが、フロリダには高齢者が集中している。全人口のほぼ一九%が高齢者で占められるフロリダは、まるで未来社会の縮図である。フロリダの現在の人口構成を、先進国がまもなく直面する人口構成の基準として、今後を考えてみよう。

 イタリアは早くも二〇〇三年にはこの基準に達し、続いて日本が二〇〇五年、ドイツが二〇〇六年にフロリダのレベルに達する。フランスおよびイギリスの人口構成が現在のフロリダと同様になるのは二〇一六年ごろで、アメリカやカナダも、それぞれ二〇二一年と二三年にはこの状況を迎える。

 こうして、「かつて経験したことのない高齢社会」が出現する。世界的な平均寿命の伸びという点では、この五千年で見た場合よりも、過去五十年でとらえたほうが大きい。産業革命前は、全人口に占める六十五歳以上の人の比率が二〜三%を超えたことはなかった。これに対し、現在の先進諸国では、この比率は一四%に達している。二〇三〇年までには、この比率はほぼ二五%に達し、国によっては三〇%近くまでいくだろう。

 その結果、現役の労働力人口は大きな経済的負担を強いられることになる。しかも二十一世紀初頭には、ほとんどの先進国で労働力人口が減少する。例えば日本では、二〇〇〇年から二〇一〇年の間に三十歳未満の労働力人口は二五%も減少する。先進国の「勤労納税者」対「年金受給者」の比率は現在およそ三対一だが、何の改革も行われなければ二〇三〇年までに比率は一・五対一となり、さらにドイツやイタリアなどの国では一対一またはそれ以下にまで落ち込むだろう。・・・・

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