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イラクの次はシリア?
―外交よりも、強制力を重視するブッシュ政権の危うさ

After Iraq, Pressure on Syria?


 
 

 


ジョセフ・シリンシオーネ
カーネギー国際平和財団

核不拡散担当ディレクター

ジョセフ・シリンシオーネは、今回のイラク戦争に国際社会が正統性を認めるとすれば、それは、イラク国内で大規模な大量破壊兵器の備蓄が発見された場合だけだろうと語る。カーネギー国際平和財団の核不拡散担当ディレクターであるシリンシーネは、「ブッシュ政権は、国際的な目的を実現するのに、外交よりも武力による強制を重視している」と状況を憂慮する。「現政権は、イラク戦争の勝利が作りだしている流れを利用して、少なくとも、シリアのアサド政権の政策路線を変化させたいと考えている」と。

聞き手は、バーナード・ガーズマンwww.cfr.orgのコンサルティング・エディター。インタビューは4月14日に行われた。


 

 
 
イラクに展開する米英軍は、いまもイラクの大量破壊兵器を探し続けている。こうした探索の成果はどのようなものになるだろうか。

すでにイラク陸軍の武器貯蔵庫から(民生利用も可能な)生物・化学兵器用の移動式実験施設が発見されている。米陸軍はCONEXと呼ばれるコンテナ十一個が埋められているのも発見した。これを調べた米軍は、おそらくこれも移動式実験施設であるとの確信を強めつつある。生物・化学兵器の貯蔵庫と疑われる場所の探索を続け、また、より多くのイラク人科学者や前政府役人がアメリカと協力するようになれば、あと数週間もあれば、かなりのことが判明するだろう。イラクは大きな国であり、大量破壊兵器の関連物質を隠せる場所には事欠かない。「イラク人の元官僚たちが、米軍の求めに応じて。情報を提供するかどうか」。これが、今後の鍵となる。


それによって、重要な発見が期待できると思うか。

その可能性はあるし、ブッシュ政権の言い分が正しかったことが立証されるだろう。実験施設が確認されれば、ブッシュ政権が戦争を開始した根拠の一つが立証されることになる。但し、それだけで戦争を行ったことを正当化できるわけではない。

今回の戦争を正当化するには、大規模な生物・化学兵器の存在、つまり、アメリカや近隣諸国にとっての戦略的脅威となるだけの大がかりな兵器備蓄の存在を立証する必要がある。数十の移動式実験施設を発見した程度では不十分だし、数百の古色騒然たる化学兵器を発見しても戦争の大義は立たない。

ブッシュ大統領は、数百万人を殺戮できるような大規模な生物・化学兵器物質の存在をつねに口にしてきたわけで、越えるべきバーはかなり高めに設定されている。少なくとも国際的には、この高いバーをクリアーして、主張の裏付けを求められるはずだ。国内的には、幾分異なる基準が通用するかもしれない。というのも、アメリカの大衆は戦闘の戦術的局面に気を奪われ、イラクの大量破壊兵器の武装解除という戦略目的を見失っている部分があるからだ。


サダム・フセインの科学問題担当顧問であるアメル・アルサーディが四月上旬に米軍に投降したが、彼はここにいたっても、「イラクは大量破壊兵器をもっていない」と主張している。

この声明には二つの解釈が可能だろう。彼が真実を語っているとすれば、本当にイラクは大量破壊兵器を保有していなかったことになる。次に、彼が事実を曲げて保身を考えているとすれば、当然、兵器の保有を否定するだろうし、アメリカが兵器や開発計画を突き止めた場合でも、「自分は知らなかった」と言うこともできる。無論、この点についてははっきりとしたことは言えない。

より大きな問題は、われわれが、イラクにどのくらい兵器が存在するのか分かっていないことだ。専門家の間では、イラクが大規模な生物・化学兵器をもっていると見なす点ではコンセンサスがあり、一方大規模な核兵器開発計画があると考える専門家は誰もいない。長距離ミサイル、中・短距離ミサイルをどの程度保有しているかについては、専門家の間でも判断が分かれている。

だが、大規模な兵器が存在すると一貫して語ってきたブッシュ大統領は、この点で自分を追い込んでいる部分がある。大統領は、こうした兵器計画に言及するとき、つねに推測値枠のなかでもっとも大きな数字を引用してきた。サダムは、かつて核兵器開発を探知されないように駆使したテクニックを、生物・化学兵器にも用いているかもしれない。つまり、「その存在を知るのは、計画の中枢を担う限られた科学者・技術者だけで、炭疽菌株や化学兵器用物質の前駆物質など、兵器関連物質や設計も秘密裏に管理されている。こうした査察が終わり、制裁措置が解除されるのを待って、計画を再開する日に備える」というテクニックだ。幸い、こうした疑問への答えは、今後数週間から数カ月の間ででるはずだ。
 
イラクの次はシリア?


「シリアは化学兵器を保有している」とした米政府関係者の発言をどう思うか。

シリアが化学兵器を保有していることはこの十年にわたって知られている事実だ。シリアは一九八〇年代から開発を始め、アメリカの情報機関のレポートも、九〇年代にはいってからは、ほぼ定期的にシリアの化学兵器開発の存在を指摘してきた。一部のスカッド・ミサイルには化学兵器弾頭が搭載されているし、化学兵器を搭載した空中投下型の爆弾を持っていることも分かっている。問題なのは、こうしたシリアの行為が、論理的には、いかなる法律も踏みにじっていないことだ。


なぜか。

シリアは、化学兵器の開発、生産、使用を禁じる化学兵器禁止条約(CWC)を批准してないからだ。イスラエルやエジプトを含む、他の多くの諸国同様、シリアはCWCに参加せずに、化学兵器を備蓄している。化学兵器の開発、保有はCWCによって禁止されているが、(強制力がないために)それを守るかどうかは、各国の自発的意思次第というのが現実だ。百四十五カ国がCWCに批准しているが、批准していない国もある。


アメリカは、自国の化学兵器庫を廃棄したとはいえないのでは。

他の諸国を大きく引き離した、化学兵器の最大の保有国はアメリカとロシアだ。アメリカは三万トン、ロシアは四万トンの化学兵器物質を持っている。これを合わせると、世界に存在する化学兵器の九五%になる。両国とも化学兵器の解体プロセスのなかにあり、アメリカのほうがロシアよりも速いペースで解体を進めている。だが基本的には、両国とも、解体プロセスを始めたばかりで、二〇一〇年までには解体を終えたいと考えている。


あなたは、「アームス・コントロール・トゥデー」に寄せた論文で、「ブッシュ政権は大量破壊兵器そのものではなく、そうした兵器を保有する国のことを心配している」と指摘している。この点について詳しく説明を。

ブッシュ政権は、条約をつうじた大量破壊兵器の規制が強制面での問題を抱えている点など、国際的な兵器拡散防止レジームの問題点を数多く指摘している。拡散防止レジームが間延びしているとみなすブッシュ政権の認識は正しい。条約の違反国もなんとか言い逃れできるし、逆に条約が、秘密開発計画をわからなくする覆いの役目を果たしていることもある。

しかし、ブッシュ政権は、こうしたネガティブなサイドばかりに目を向け、その結果、国際的法の支配を損なっているし、この問題に関する国連の役割さえ、おとしめている。私はこの点を憂慮している。ブッシュ政権は、イラン、イラク、北朝鮮など、拡散防止体制を踏みにじっている国にばかり焦点を当てることで、核兵器・化学兵器、また一部は生物兵器も大規模に備蓄しているパキスタン、インド、イスラエルなどの諸国が作り出す問題にあまり目を向けていない。また、アメリカの国家安全保障戦略が、核兵器にいかに依存しているかにも気を止めていないようだ。

これでは「一部の諸国は大量破壊兵器の保有を許され、一方でそれが許されない諸国もある」というダブル・スタンダードの問題が生じる。ブッシュ政権のやり方は、グッドガイ(善玉)とバッドガイ(悪玉)を選別する戦略に他ならず、こうしたやり方は、結局は失敗すると私は思う。ワシントンにとってのグッドガイとバッドガイが固定化されているわけではなく、それは、つねに入れ替わっていく運命にあるからだ。ある時期には、われわれは、特定国が大量破壊兵器を保有することを認めたり、開発を奨励したりするかもしれない。だが時が流れると、その国がわれわれの安全保障にとっての脅威になることもある。

イラクとイランでさえ、特定の時期にはわれわれにとってグッドガイだったこと、イラン・イラクが破壊的な兵器を開発・整備するのをわれわれが助けてきたことを忘れてはならない。一方で、かつては敵視していたパキスタンはいまやグッドガイとみなされている。だがパキスタンという国は数多くの問題を抱えているし、ひどく不安的な地域に位置している。パキスタンが今後どのような方向へ向かうかは誰も確信を持てないはずだ。

したがって、大量破壊兵器の不拡散政策に関するわれわれの「バランス」を取り戻す必要がある。条約レジームへと立ち返り、条約だけでわれわれは守られると言うだけではもちろん十分ではないが、少なくとも、「条約を基盤とするアプローチと、強制力を基盤とするアプローチ間のバランスと統合性」を見極める必要がある。私は、拡散防止の専門家や官僚にとって、今後二十年間におけるもっとも切実な課題はそうしたバランスをとることにあると考えている。


あなたの言う「強制力を基盤とするアプローチ」とは何か?

相手国の政権を交代させるため、あるいは、脅威を醸成しているとわれわれが考える相手国の能力を取り除くために、まず軍事力に依存しようとするアプローチのことだ。一方で、条約型アプローチの場合、同じ脅威、同じ政権に対して、多国間協調型の封じ込め策をつうじた対応で脅威を排除しようと試みられることになる。


アメリカはこれまで条約に基づくアプローチをとってきたと考えるか?

アメリカは、この五十年にわたって、大量破壊兵器の削減を重視する戦略をとってきたし、こうした試みによって、兵器の拡散を規制して最終的な解体をめざすような一連の条約と国際協調枠組みが形成されてきた。例えば、ジョン・ケネディ、リンドン・ジョンソン大統領が交渉し、リチャード・ニクソンが調印した核拡散防止条約、同じくニクソン大統領がとりまとめた生物兵器禁止条約、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領がまとめた化学兵器禁止条約、などだ。米議会も、こうした大量破壊兵器の拡散防止のための努力を超党派の姿勢で支えてきた。だが、現政権になってから、大量破壊兵器の解体から、大量破壊兵器を保有する一部の政権の排除へと力点がシフトしている。


ブッシュ政権は、シリアが化学兵器を放棄するように圧力をかけることができると判断するだろうか。

そう考えると思う。ブッシュ政権はイラク戦争での勝利がつくりだしている流れに乗って、シリア政府を変化させるつもりのようだ。「シリアの行いは悪い」と政府高官が語っていることからみても、少なくとも、われわれが認められないと考えているシリア政府の政策を変えようと試みるだろう。さらに、「シリアの政権そのものを取り替えるべきだ、中東地域では、政府そのものが問題を作りだしているのだから、政権交代が必要だ」という声が政権内部から(またしても)聞こえてきてもおかしくはない。


シリアはこれまで長い間テロリストをかくまってきた?

シリアがアメリカを直接的に脅かしたわけではないが、アメリカがテロリストとみなす集団、或いは、ハマスやヒズボラなど、最近公式にテロ集団として国務省が特定した組織を支援してきたのは間違いない。また、シリアが、国際法には触れていないものの化学兵器を保有しているのも事実だ。だがブッシュ政権は再び、国際法で認められることと、アメリカが認め得ることの間に境界線を引きつつあるようだ。


だが、シリアは化学兵器の保有を否定している。

シリア側が自らの主張を証明するのは難しいだろう。彼らが化学兵器開発計画を放棄したとする証拠はどこにもないのだから。

  


Joseph Cirincione
 アメリカ有数の核不拡散の専門家で、カーネギー国際平和財団のシニアアソシエート。同財団の核不拡散プロジェクトなどのディレクターも兼務。著書(英文)に『致死的な兵器庫――核兵器、生物兵器、化学兵器の脅威』などがある。

   
 
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